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#100文字の世界

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2021/3/22〜4/5で集めた100文字ぴったりの投稿と、ニャークスのヤマダが作る #100文字の世界 掲載マガジン。https://note.com/nyarks/n/n6…
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#100文字ノスタルジア

百年が過ぎ、全て消えても

イヤホンからZABADAKの百年の満月が流れてきて 私はバスから降りられなくなった。 一つ先で降り、あの人を想いながら歩く夜。 心が貴方にどっぷり浸かっているこんな顔で、 母に「ただいま」なんて言えなかった。

きっと私だけの新学年あるある

ふと前の学年の下駄箱に行き、自分の名前が無い事に気付く。そういえば今日から新学年だと思いながら、なぜか前の学年の教室に向かい、下級生から冷たい視線を浴びる。そして次の月曜日に再び同じ間違いを繰り返す。

小さかった兄の一番古い記憶 (100文字ノスタルジア)

ヤスコと呼ばれる生きものが うちに来るのを待ちわびた メロンパンをわけてやろう 妹をかわいがろう でも のぞいた部屋には あかんぼ十人 ぜんぶがヤスコと思った彼は 小さい頭をなやませた メロンパンをどうやって分けよう

テレビが付いていた。布団を被り寝ていた私の耳に聴こえてきたのは、スピッツのチェリー。愛してるの響きだけで私は強くなれただろうか。強さなんて、あの人の足元においてきてしまった。もう取りには戻れないのに。

100文字ノスタルジア / 鳩

おにぎりを食べていると1羽の鳩が寄ってきた。何度も何度も顔を覗き込んで目を合わせてくる。可愛い顔と仕草。「ん?まさか○○じゃないよね?笑」亡くなった猫が憑依している可能性をほんの少し夢見た公園のお昼。

松葉杖で電車通学をしていたら、男性が席を譲ってくれた。翌日も翌々日も皆、席を譲ってくれる。仕事に行く人に申し訳なくて、隠れるように立っていたら、肩をたたかれ「こちらへどうぞ」皆、優しい人ばかりだった。

先生と呼んでいた野良猫がいた。何故か毎日うちに来て、数えてみたら8年の時を一緒に過ごした。引っ越す時「先生、じゃあね」と言ってもムッスリ。でもいつもと違う何かを感じたのか、じっとその目は私を見ていた。

白いコートを試着したけど、買うのを諦め、恋人と店を出た。翌週、日帰り旅行で天下茶屋へ。太宰治が見た景色を眺める。「寒くない?」と恋人に聞かれ、うん、と答えると、車から出てきたのはあの白いコートだった。

大地に根付く香木は、純真な小花をつけて中央を薄紅に染めた。細道を秘めやかに甘く匂わせる。沈丁花、沈丁花、その花のゆかしさに、沈丁花、沈丁花、心は懐かしい歌を求める。その調べは今も私の春を酔わせている。

100文字ノスタルジア / 予言

過去に会ったことも、知り合いですらなかったその女性と初めて会った入社日夜の歓迎会で、女性は冗談っぽく「あんたいつか私と結婚するよ」と言った。何を馬鹿げたことを笑った7年後、女性は本当に僕の妻になった。

中学卒業の日。皆泣いていた。先生も堪えきれずに男泣き。でも、私は泣くのが嫌だった。だから無理して笑っていたら、好きだった男の子に睨まれちゃった。やっぱり卒業式で泣かないと、冷たい人って思われるんだね。

100文字ノスタルジア / 赤

消防車だってカウンタックだってバルイーグルだって赤い。幼い僕に「カッコイイものは赤い」と父は言い、僕に赤、妹に紺のセーターを買った。大学時代、バイト代を奮発するダッフルコートの色には迷わず赤を選んだ。

100文字ノスタルジア / アブラ

扉が開くエレベーターが見えたので小走り気味に乗り込むと、朝の実家の洗面所へワープした。出勤前に髪を整える大きな父の後ろ姿。“アブラ”と呼ばれていた懐かしいタクティクスの残り香が僕の鼻をかすめたからだ。

100文字ノスタルジア / 名前

誕生日だね。家族に迎えることを決めた日、音の響きで名付けたけど、あとから食べ物の名が幸せになると聞いて、2人で慌てて調べたんだよ。南の島の料理に見つけた時は、健康が約束されたようで心底ほっとしたんだ。