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わざわざ二見ホラー×ミステリ文庫を潰す人間なんていない。

二見ホラー×ミステリ文庫というレーベルがある。
これは昨今の特殊設定ミステリブームを受けて創設されたレーベルで、その名の通りホラーとミステリを出している。

 この二見ホラー×ミステリ文庫だが、現在廃刊の危機にある。
 最終刊行が2022年の6月で、それ以降新刊および新刊予定が出ていないのだ。
 今は大特殊設定ミステリ時代なのにどうして……と思うかもしれないが、主要因としては「肝心要の特殊設定ミステリを四六判単行本に全部スライドさせてしまった」ことが考えられる。


 ホラミス文庫から単行本へスライドされたミステリ作品としては『私はだんだん氷になった』『氷住灯子教授と僕とYの世界』『みんな蛍を殺したかった』『無邪気な神々の無慈悲なたわむれ』などがあり、こちらは現在もコンスタントに出続けている。
 が、その結果として、ミステリ要素が全部単行本に吸い取られてしまい、ホラミス文庫は単なるホラー文庫になってしまった。
 特殊設定ミステリブームをうけて創られたレーベルなのに、特殊設定ミステリブームの恩恵を大して受けられずにラインナップがスカスカになってしまい、存続の危機に瀕しているのだ。
 まあ、文庫作品を単行本にスライドさせるというのは他の会社も行っているのでこれが間違いとはいえない。

 文庫書き下ろしで出すより単行本で出した方が儲かるしね!


 じゃあ残ったホラーの方はどうなのか。
 『呪詛』『コンジアム』といったアジアンホラーや「フェイクドキュメンタリーQ」の流行など、ホラーも盛り上がりを見せているから鉄板ジャンルなんだけど……残ったホラー要素で切り盛りできなかったのは作品の質というよりも売り方に問題があったのでは?と思っている。
 ホラミス文庫のホラー側の執筆陣としては「星海社新本格カーニバル」にも参加した柴田勝家、講談社BOXデビュー組の針谷卓史、角川ホラー文庫で活躍中の最東対地などがおり、通好みのラインナップであった。
 ただ、なんとなく察せた通りどう考えてもライト文芸寄りであり、これをホラー文庫置き場に置くのかライト文芸置き場に置くのか書店によって大きく分かれることになった。

 これがいけなかったと思う。

 スペースの限られたホラー文庫置き場では本が埋没してしまい、ではライト文芸置き場はどうかというとライト文芸の上位Tierである後宮ものや青春ものがないために敬遠されがちだったと思う。さらにいうなら、二見書房にはサラ文庫というライト文芸レーベルがあるため、表向きライト文芸レーベルとは言い張りづらかったのではなかろうか。

 これで後宮ものや青春ものが出ていれば多少は違ったのだろうが、そういった要素に繋げやすい特殊設定ミステリものはごっそり単行本に持っていかれてしまったため、難しかった。

 要するに、ガチガチのホラーをやるかライト文芸路線に舵を切るかどっちつかずだったというわけである。

 さらにこれは余談になるが、発売前の予約ページかなにかの著者紹介にあった「本当はガキ向けの本を書きたくないと思っている(意訳)」という文章を問題視した著者本人から修正要請が出るということもあった。


 正式に廃刊が決定したわけではないし、前述のとおり単行本にスライドした特殊設定ミステリは健闘しているのでレーベルは(かたちを変えて)存続しているといえるが、じゃあ単行本にならなかったホラー部分は捨て石にされたのか……とモヤモヤしなくもない。

 売れたミステリ単行本の文庫落ちはどうするのかという問題もある。

 幸いにして絶版になっても(当初出さない予定であったためかかなり遅く設定されているが)電子版が発売されているので手に取ること自体は難易度が低い。

 とはいってもLINE文庫のように廃刊と共に電子絶版になるケースもあるので安心はできない。

 気になったら、みんな買おう!

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