【短い物語】 冒険者の苦悩

ここはゲームの世界。
どうやら俺は「勇者」となり、仲間を集めて、「冒険」に出るらしい。

まさに今、その「冒険」がはじまるところだ。

ちなみに今いる場所は、「はじまりの村」
ここで、「王様」から冒険に出ることを言い渡され、出発する。

まずは、「はじまりの村」の周りに出る、弱い「魔物」と戦い、
「レベル」を上げて、「次の村」へと「冒険」を進めていく。

そんな流れが、この「冒険」の「進み方」だそうだが、
ひとつだけ大きな留意点がある。

それは、死んだら「リセット」されるということだ。

つまり、「魔物」などに負けてしまい、死んでしまうと、
「冒険」をはじめるところから、またはじめなければいけない、ということだ。


さて、
何を隠そう、俺はすでに何回か死んでいる。

前回は、まっすぐ「次の村」に向かってしまって、「レベル」が低いまま、強い「魔物」に倒された。
前々回は、せっかくもらった「武器・防具」を「装備」しないまま「魔物」と戦ってしまい、倒されてしまった。

その度に、この「冒険」がはじまるところに戻ってきている。
だから、この「冒険」の「進め方」を知っている。

何度も同じ「冒険」の「はじまり方」を経験している。

しかし、まったく同じことを繰り返しているかというと、微妙な差があることにも気づいてきた。

前々回、「武器・防具」を「装備」しなかったことで死んだ俺が、また「冒険」をはじめようとすると、街の人から念を押されるように、
「武器や防具は必ず装備してくださいね。持っているだけでは意味がありませんから」
と声をかけられた。

前回、レベル上げをしそこなったことで死んだため、今回は王様から、
「まずはこの「はじまりの村」の周りでレベルを上げることだな。自信がついたら、次の村へ旅立つがよい」
と言葉をかけられた。

もしかしたら前にも言われていたのかもしれないが、実際死んでみないとその言葉の意味を理解できない。
そうやって、ひとつずつ「レベル」が上がり、「冒険」に慣れていく。

おそらくそれが、ここでいう「冒険」なのだろう。

なのだが、そんな「冒険」が、この俺にとって、今大きな問題を抱えている。


それは・・


俺が「冒険」に飽きてしまっているのだ・・


微妙な差があることはわかる。
それにより少しずつ自分の「レベル」が上がっていることもわかる。

小さな積み重ねが、この「冒険」には必要なこともわかる。
自分自身の「レベル」が、この先の「冒険」に足りないこともわかっている。

しかし、どれも些細な違いだ。そろそろだいぶ理解できてきたはずだ。
変なミスで死ぬことも無くなってきた。

知識も経験も、何も知らなかった頃に比べて、格段に「レベル」が上がったはずだ。
だからこそ、また同じような「冒険」を進めたいと思うモチベーションが、どんどんわかなくなってきてしまった。

もっと大きな変化が欲しい。

俺の人生にはこの「冒険」が必要なのか?
この「冒険」に出ることでしか、生きがいは得られないのか?

そして、また死んでしまったら、「はじまり」に戻り、同じような次の「冒険」をはじめないといけないのか?

もちろん、なぜこんなに繰り返しているのかも、わかってる。
俺が何度も死ぬのが悪い。

きちんと、少しずつ「冒険」を進めていって、適切なタイミングで、適切な「レベル」で、適切な「進め方」をしていれば、
死なずに、「冒険」を完遂しているだろう。

けど、俺には無理だった。
生まれ持ったステータスが弱かったのか。運が悪かったのか。思考が足りなかったのか。

とにかく、何度も死んだ。
もう嫌だ。面倒だ。やめたい。

そうしていると、何者かに後ろから思いっきり強い力で殴られたような衝撃が、頭に走った。
なんだ? ここは街の中だぞ? 盗賊か?

一瞬だった。意識が飛んでいきそうになりながら、俺は、あることが脳裏をよぎった。

「だめだ、また、はじまりに戻ってしまう」

そう思った俺は、

「待て! 俺はもう「冒険」を辞めたいんだ! もう戻さないでくれ!」

そう叫んだ。


すると、意識が飛び、

目の前が真っ白になった後、

ぱっと目を覚ますと、みたことのない景色の中にいた。


そこには「はじまりの村」はなく、
草木と、雑にころがる岩と、遠くまで広がる高原が。

「おお。ついに俺は自由になれたのか?」

そう思って、辺りを見渡そうと振りかえった瞬間、
思いっきり強い力で殴られた。

(うお・・なんだ・・?)

「やりましたね、勇者、ようやくこの辺りの魔物を倒せるようになりましたね。次は少し強い魔物を倒して、どんどんレベルを上げていきましょう」

(誰の声だ? 勇者だと? 俺は勇者に倒されたのか・・? なるほど・・そうか・・俺は魔物になったのか・・ただ同じ場所に彷徨い、冒険の途中の勇者に倒されるだけの魔物という存在に・・)

そう思っていると、だんだん意識が遠のき、ぱっと目を開けると、どこか別の景色の中で「復活」した。
今度は山の中らしい。

しかし、ここは「はじまりの村」ではない。
初めて見る景色だ。

そうか!俺はついに自由になったのだ!

「冒険」に出なくていい、
「魔物」という存在に。

「冒険」に出る勇者を横目に、この広い大地で有意義に過ごし、
時に逃げ、時に倒され、自由気ままに人生を謳歌できる存在に。

ようやく、俺の「冒険」がはじまるのだ!

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