味の設計図

子供の頃から、料理のレシピを見るのが好きでした。或る程度の知識や経験を重ねると、食べたことのない料理でも出来上がりの味がわかるようになりました。

外国のレシピで、食べたことのない食材や調味料をつかっているものが、どんな味なのか知りたくてたまりませんでした。出先でそんな料理に会うと、必ず注文して、味を確かめました。

お店で注文した料理を口にする時、作った人の意図が見えるのが面白いと思うようになりました。「これは、最初にこの外側の固さと甘さが伝わって、次に中のほんわりした舌触りと酸味を感じるようにしてる」とか、食べる人にどう感じて欲しいかがわかるものが、楽しいのです。

ケーキは、パテイシェの意図がはっきり見えるものです。まず、外側のコーティングが溶けて、口に広がる。次に中のジェノワーズとクリームというように、食べて行く過程を計算して、そのケーキの美味しさを味わえるように設計してあるのです。

一皿の料理だと、お客様がどの順番で食べるかが不明ですが、食べ終わった時の余韻を残すように、作り上げてあります。コース料理だと、前後の料理との味のバランスが大切になります。どれか一つだけ浮いたりしないのが、大切だと思います。

一朝一夕で身に付く仕事ではないのです。「他人と接する機会が増えるから」という名目で、営業時間を削られ、酒類の提供を禁止され、営業が立ち行かなくなっているお店も多いのです。東京の繁華街には、昼でも沢山の人がいますが、あれの方が問題ではないのですか?

美味しいものを出す外食産業が苦境に立ち、あたためるだけ、揚げるだけの軽食店の出店が目立ちます。私達消費者は、ちゃんとした料理を作る料理人さんの活躍の場を、守らなくてはならないと思います。


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