マガジンのカバー画像

読書感想文

44
運営しているクリエイター

#推薦図書

読書レビュー「風神雷神Juppiter,Aeolus上・下」 原田マハ

初版 2022年11月 PHP文芸文庫 マハさん得意のアートフィクションです。 今回は架空の人物は登場しません。 登場するのはすべて歴史上、実在したとされる登場人物です。 主人公は俵屋宗達。その実像は謎に包まれているそうです。 マハさんはあえてそこに着目したんじゃないかな・・。 同時代に生きていた歴史上の人物、しかし、実際の関りは確認されていない人物たちを 縦横無尽に絡ませていきます。 狩野永徳。織田信長。天正遣欧使節。カラバッジョ。などなど。 いやはや、壮大な歴史ロマン、

読書レビュー「その峰の彼方」笹本稜平

───人はなぜ山に登るのか という問いに正面から愚直に挑んだ山岳小説だと思います。 主人公の津田悟は冬のマッキンリーの難ルート単独登攀をして、遭難。 友人の吉沢と地元山岳ガイドたちによる捜索行を通して、 津田はなぜ危険な単独行に挑んだのか?安否はどうなのか? という事だけに焦点を絞って、 余計な伏線を張らずシンプルに描いています。 冬のマッキンリーと言えば、冒険家の植村直己氏が遭難した山としても有名で、ヒマラヤのエベレストと比較してもその危険度は高い山。 と、素人でも知

読書レビュー「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」 角幡唯介

初版 2012年9月 集英社文庫 あらすじ チベットの奥地、ツアンポー川流域に「空白の五マイル」と呼ばれる秘境があった。そこに眠るのは、これまで数々の冒険家たちのチャレンジを跳ね返し続けてきた伝説の谷、ツアンポー峡谷。人跡未踏といわれる峡谷の初踏査へと旅立った著者が、命の危険も顧みずに挑んだ単独行の果てに目にした光景とは―。第8回開高健ノンフィクション賞、第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。(アマゾン商品紹介より) 角幡さんは、僕がこれまで

読書レビュー「旅をする木」星野道夫

初版 1999年3月 文春文庫 つい数日前ぼんやりとネットサーフィンしていて、ふと本書の文庫版カバー写真が目に留まり、リンク付けしてあったアマゾンで内容を調べた時、恥ずかしながら僕は星野道夫さんという人を初めて知りました。 19歳の時、神田の洋書店で見つけたアラスカの写真集に魅せられ、住所もよくわからずあてずっぽうでアラスカインディアンの村に直接手紙を書いたところ、思わず村長から返信があり、ホームステイに招かれる。1978年26歳でアラスカ大学に留学し、以来、アラスカを拠点

「余白の愛」小川洋子

初版 2004年6月 中公文庫 あらすじ 耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Y。その特別な指に惹かれたわたしが彼に求めたものは…。記憶の世界と現実の危ういはざまを行き来する。幻想的でロマンティックな長篇。瑞々しさと完成された美をあわせ持つ初期の傑作。(Bookデータベースより) 小川さんの本4冊目。 こうして読んできて一貫しているのは、隔たった一つことに無心に取り組む登場人物たち。その文章は穏やかで美しく、一見ささいで退屈な日常を幻想的にロマンチックに切り取る。 反

小川洋子「博士の愛した数式」

初版 2005年11月 新潮文庫 あらすじ 「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。 (アマゾン商品紹介より) 私は学生時代、数学が大の苦手だった。 結

小池真理子「沈黙のひと」読書感想

初版 2015年5月 文春文庫 あらすじ 両親の離婚によってほとんど関わりあうことなく生きてきた父が、難病を患った末に亡くなった。衿子は遺品のワープロを持ち帰るが、そこには口を利くこともできなくなっていた父の心の叫び―後妻家族との相克、衿子へのあふれる想い、そして秘めたる恋が綴られていた。吉川英治文学賞受賞、魂を揺さぶる傑作。(アマゾン商品紹介より) 生前、ちゃんと向き合わなかった家族を、死して、あるいは、死を直前にしてようやく顧みるという話です。 本作の場合は、幼い頃

「アイ」西加奈子 読書感想

初版 2019年11月 ポプラ文庫 最近書店でよく見かけて、気になっていた作家さん。 はじめて読みました。 記念すべき第1冊目です。 この物語の主人公はワイルド増田アイ。 アイはシリアで生まれた。 本当の両親は知らぬまま、赤ん坊の時、アメリカ人の父と日本人の母のもとに養子としてやってきた。 小学校卒業まではニューヨーク、ブルックリンの高級住宅街で育つ。 両親は慈善活動家で、4歳の頃には世界の不均衡について教えられ、養子であることも教えられた。 アイは表面的にはおとなしく素

「わたしの美しい庭」 凪良ゆう 読書感想

初版 2019年 12月 ポプラ社 あらすじ 小学生の百音と統理はふたり暮らし。朝になると同じマンションに住む路有が遊びにきて、三人でご飯を食べる。 百音と統理は血がつながっていない。その生活を“変わっている”という人もいるけれど、日々楽しく過ごしている。 三人が住むマンションの屋上。そこには小さな神社があり、統理が管理をしている。 地元の人からは『屋上神社』とか『縁切りさん』と気安く呼ばれていて、断ち物の神さまが祀られている。 悪癖、気鬱となる悪いご縁、すべてを断ち切って

「冬のひまわり」五木寛之 読書感想

初版 1988年8月 新潮文庫 あらすじ 山科の旧家の娘遠野麻子は短大をでたあと、24歳で平凡な小学校教師と結婚した。 それから6年目の夏、彼女は鈴鹿サーキットで、イタリアから帰国したばかりの昔の恋人森谷透と劇的な再開をした。以後、麻子と透は年に1度、二人が初めて出会った鈴鹿で、オートバイの耐久レースを見るだけの逢瀬を重ね、7年の歳月が経ったのだが・・・ (新潮文庫表紙裏より) 実は麻子は16歳で20歳の透と鈴鹿で出会い、以来、37歳まで 毎年1回8月に鈴鹿8耐を観に行き

夏川草介 始まりの木 読書感想

初版 2020年9月 小学館 『神様のカルテ』著者、新たなステージへ! 「少しばかり不思議な話を書きました。 木と森と、空と大地と、ヒトの心の物語です」 --夏川草介 第一話 寄り道【主な舞台 青森県弘前市、嶽温泉、岩木山】 第二話 七色【主な舞台 京都府京都市(岩倉、鞍馬)、叡山電車】 第三話 始まりの木【主な舞台 長野県松本市、伊那谷】 第四話 同行二人【主な舞台 高知県宿毛市】 第五話 灯火【主な舞台 東京都文京区】  藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生であ

「たゆたえども沈まず」原田マハ 読書感想

初版 2020年4月 幻冬舎文庫 19世紀後半、栄華を極めるパリの美術界。画商・林忠正は助手の重吉と共に流暢な仏語で浮世絵を売り込んでいた。野心溢れる彼らの前に現れたのは日本に憧れる無名画家ゴッホと、兄を献身的に支える画商のテオ。その奇跡の出会いが“世界を変える一枚”を生んだ。読み始めたら止まらない、孤高の男たちの矜持と愛が深く胸を打つアート・フィクション。 (アマゾン商品紹介より) マハさん得意の半分実話の中にフィクションをぶっこむ アートフィクションシリーズです。 今

「星の子」今村夏子 読書感想

朝日文庫 初版 2019年12月  初めて読む作家さんです。 芥川賞受賞作家さんという事は知らず ふらっと入った書店で背表紙のあらすじに惹かれて 衝動買いでした。 そのあらすじとは 主人公・林ちひろは中学3年生。 出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、 両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、 その信仰は少しずつ家族のかたちを歪めていく・・・・。 第39回 野間文芸新人賞受賞作。 「あやしい宗教」といっても本作の宗教は別に 人を殺したり監禁したりはしない。