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忘れゆくふるさと

最近、無性に醤油ラーメンが食べたい。

そんなことを夫に言うと、「豚骨ラーメン以外はラーメンじゃないって怒ってたのに!」と驚かれた。

* * *

私のふるさとでは、ラーメン屋さんといえば、必ず豚骨ラーメンのお店だったし、メニューに「ラーメン」とあれば、それは「豚骨ラーメン」のことだった。
スーパーに並ぶインスタントラーメンもほとんどが豚骨ラーメン。
私の中では、ラーメンは豚骨ラーメンのことであって、醤油ラーメンや味噌ラーメン、塩ラーメンなどは、ラーメンではなかった、というか、豚骨ラーメン以外食べたこともなかった。

高校卒業後、首都圏に出てきて、最初に驚いたのは、スーパーで、豚骨ラーメンのインスタントラーメンが置いていなかったこと。
そのとき、私は、猛烈に、自分がふるさとにいないことを実感した。

そして、首都圏で食べる「豚骨ラーメン」なるものは、私が知っている豚骨ラーメンと似て非なるもので、それは、「豚骨風の別の何か」に過ぎなかった。

しばらくして、一風堂や一蘭も関東に進出してきたけれど、でも、やっぱり、私が10代の頃、博多で食べていたものとは微妙に違う気がした。

* * *

ふるさとの豚骨ラーメンを食べなくなって(食べられなくなって)、かなりの年月が経過した。

それでも、「ラーメンといえば豚骨ラーメン!豚骨ラーメン以外はラーメンじゃない!」と言い続けていたけれど。

ついに、最近、醤油ラーメンが食べたくなってきた。
「醤油ラーメンなんて、中華そば!あれはラーメンじゃない!」とよく分からない憤りを覚えていたはずなのに。

今日、仕事が休みの夫に作ってもらった醤油ラーメンを食べながら、ふと、気付いたのだ。

もしかすると、身体レベルで、ふるさとを忘れているのかもしれない、と。

もうすぐ、ふるさとで過ごした時間と首都圏で過ごした時間が同じになる。

訛りは数年で綺麗に抜けて、自分から出身地を言わない限り気付かれなくなったけど、味覚というか、味の好みだけはいつまでもふるさとの味が好きだった。豚骨ラーメンはその象徴だった。

それなのに、ふるさとの味までも、徐々に、徐々に、忘れ去っていっていたのだろうか。知らぬ間に。

そのことに、ふと、思いが至って、「ふるさとなんて二度と住みたくはないけどね」なんていつも言っているのに、それなのに、なんだか、寂しさが込み上げてきて、醤油ラーメンを切なさとともに食べる羽目になってしまった。

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