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『絢爛たるグランドセーヌ』が提示する新世代の少女主人公

最高のバレエ漫画をご存じですか……!!!

いや~もう私はドはまりしてしまって、紙で全巻買ってしまいました……。好きですこの漫画が……!!!! 本当に素晴らしいマンガです!!!!

バレエ漫画といえば、山岸凉子先生の『アラベスク』や『テレプシコーラ』がもともと私は大好きで、ほかにもさまざまな少女漫画が描いてきた分野ですが。この漫画が画期的なのは、もうね、

主人公の奏ちゃんが「バレエのプロとして生きる」ことに常に自覚的なところ……!!!!!!


そもそも少女漫画の部活漫画やスポーツ漫画といえば、「主人公が自分の才能に無自覚だが、誰か(だいたいコーチか好きな相手)が褒めてくれて、自分の才能を伸ばしていく」という展開になりがちである。たとえば最近の部活モノの金字塔である『ちはやふる』や『青空エール』、あるいはバレエ漫画の『テレプシコーラ』、あるいは音楽漫画の『のだめカンタービレ』もこのような展開ですね。

『ちはやふる』の千早ちゃんは耳がすごくいいのだが、それを新くんをはじめとしてかるたの師匠たちが教えてくれる。『テレプシコーラ』の六花ちゃんや『のだめカンタービレ』ののだめも、自分の振り付けやピアノの才能に無自覚で、それを他人が教えてくれてはじめて自覚していく。そのとき自分の才能を卑下したり、目標を見失ったりする場面が描かれつつ、いつしかプロを目指す自覚をもつようになる……という物語なのだ。

が!!! 『絢爛たるグランドセーヌ』は違う。すごい。

主人公の奏ちゃんは、最初からバレエが大好きで、プロになりたくて、そのために自分の能力を伸ばそうと必死だ。友人と切磋琢磨しながら、他人を観察し、そして自分の長所を伸ばし、弱点を補おうとする。自分より明らかに上手い友人に出会った時、「どこが自分と違うのか?」「それを補うためには何が必要なのか?」を考えるようになる。

さらにプロとして生きていくならば、留学するべきで、そのとき必要になるのはお金だ。しかし奏の家は、資産家というわけではない。そのとき奏にとって重要なのは、スカラシップ=奨学金を獲得すること。それはどうすれば手に入れられるのか? を考える。

要は、自分はバレエをして一生生きていきたい、そのために必要な努力をすべてやりたい。――という場所からずっと、ぶれずに、奏では成長する。

奏ちゃんは自分の強みは何か、どういうバレリーナになりたいか、ずっと考え続けているからこそ、ある日突然新しい才能が見つかったりはしない。しかしそれでも、少しずつ自分の強みができてくる。それは決して自意識の問題ではない。自己研鑽の問題なのだ。

私はもうこの奏ちゃんの主人公としてのあり方にノックアウトされてしまった……。

そうなのだ、「自分が本当にピアニストのプロとしてやっていきたいのか?」とか「自分に特別な才能はあるのか?」とかそういう自意識や動機の問題で悩んでいなくても、主人公の成長は、描けるのだ……!!! 


ある分野の成長物語を描こうとするとき、なんとなくこれまでは自意識の問題を描くことが当然とされてきたように思う。それはもう、90年代以降の「そもそもエヴァに乗るかどうか悩む」みたいな問題系の続きなのかもしれない。だけど普通に考えて、真剣になにかを極めようと思っていたら、そんな自意識の地点で悩まない人が大半じゃないだろうか……。エヴァに乗るかどうかなんて乗るに決まっているだろう、だけどエヴァに乗っても勝てないかもしれないから、その勝ち方を自分で研鑽していくしかないんだよばかやろう、という話がずっと描かれているのが、『絢爛たるグランドセーヌ』のすばらしさだと思う。

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