見出し画像

見えなくてもワークライフバランス

若い視覚障碍者の友達と久しぶりに電話で話した時彼女が言った。
「見えない人、精神的に病んでいる人多いよね。」

私の周りにはあまりいないけれど、それっぽい話はしばしば耳に入ってくる。

今から10年以上前の話だが、職安主催で障碍者の集団面接というのがあった。障碍者
の求人ってこんなにあるんだと感心したのもつかの間、視覚障碍者の求人は五つくら
いしかなかった。この段階で、重度視覚障碍者は障碍者ヒエラルヒーの中でも再開と
いう事を思い知った。
企業内マッサージが2件くらいあって、後は何だったかよく覚えていない。


デジタル技術は日進月歩、スマホも音声で使えるようになった今日この頃、当時に比
べれば事務職でも視覚障碍者ができることは圧倒的に増えた。そして事務職を希望す
る視覚障碍者も増えている。そんな背景もあり、友人の盲学校の先生によると、最近
は大学進学を希望する生徒が多く、鍼きゅうを勉強する理療科に進学する人は減って
いるそうだ。

しかし、目で見てわかりやすいものはたいてい音声上では使いにくいことが多い。
エクセルで書かれた書類、なぜMの10とか半端なところから始まっていたりするんだ?
!見えていればスクロールして一瞬で目的のところにたどり着けるのに、音声ソフト
だとカーソルで一つ一つたどっていかなければならないので、何倍も時間がかかる。
「同じ仕事を自分でやるより晴眼者がやったほうが何倍も速くできると思うんだけど
ね」なんて苦笑いしていた視覚障碍者もいた。
いくらPCスキルが高くてもマウスじゃなければ動かせないものはどうやってもできな
い。留学経験もあり語学が堪能な人も、会社で「どの仕事をお願いしていいかわから
ない」と言われてしまったそうだ。
他にも、視覚障碍者職員のために、わざわざ健常者職員が、その人ができそうな仕事
を作っているというような話も聞いたことがある。

自身も忙しい健常者職員がなぜ障碍者のフォローもしなければならないのだと思うの
は当然。人間余裕があれば人にも寛容になれるが、そうでなければイライラしてくる
。そんなこんなで障碍者と健常者の間がぎくしゃくしてくる。
障碍者側も役に立とうと頑張っているけれど、見える前提のフォーマットには乗っか
れない。晴眼者が残業しているところ、自分はできることがないので提示に退社。周
りに申し訳ない気持ちになるとともに、自分に絶望する。
「できない自分が悪いのか?」そんな思考のループに入ってしまうともう鬱への第一
歩だ

もっとひどいのは、どこの部署でも使えない、会社のあぶれ者が障碍者につけられる
ケースである。いわゆる社内左遷である。できればそういう人は誰ともかかわらない
仕事に回してほしいものだが、どこの会社も都合よくそういう部署があるわけではな
い。その結果、会社経営の根幹にはかかわらない部署、障碍者周辺に回ってくるので
ある。友人の部署には、お客さんにも対応させられないし、下手なところに配置する
と優秀な新人が辞めてしまうので、会社側が持て余していたような人が回されてきた
そうだ。彼らはどこの部署でも相手にされないので、自分より下の障碍者に尊大な態
度を取ってくる障碍者は何てことない事ができないので、彼らはとにかくマウントを
取ってくるのである。障碍者側はたまらない。心の中ではしょうがないと思っていて
も、仕事を遂行する上でやってもらわなければいけない事が必ず出てくるので、うま
く付き合わなければならない。また、障碍者同士の足の引っ張り合いなんてのもある
。こんな積み重ねがストレスとしてどんどんたまっていく。


私のように、悪いことは全部人のせいにできるふてぶてしい性格ならいいが、まじめ
で繊細な人はたまったものではない。

障害の有無とは関係なく、責任感が強く、なんでも自分が悪いという思考パターンに
なってしまう人、頼まれたら断れないタイプは要注意。
ただ障碍者の場合、本来の能力とは関係ないところでできないことが多いので、闇落
ちする要因が健常者より多くなってしまう。


私の視覚障碍者の友人は普通に働いている人が多いが、押しなべて健やかに生活して
いる。彼らは皆、朗読や読書、スポーツサークルなどのメンバーだ。つまり会社以外
にも自分の居場所を持っている。そこでは見えないと言う足かせはない。皆自分のペ
ースで自分の能力を発揮している。本人の能力、人間性がそのまま評価されるのであ
る。半面見えないというエクスキューズは通用しない。

世の中では働き方改革とかワークライフバランスなんていう事が取りざたされている
。できることがなくて絶望する障碍者がいる半面、忙しすぎて食事も睡眠もおざなり
になってしまう会社員もいる。今更耳タコだけれども、会えて言いたい。家庭でも趣
味でも会社でも、人は複数の居場所を持っていたほうが精神衛生にいい。そうすれば
、ケースバイケースで軸足を変えられる。

ところで、どこのコミュニティーでも何となくはじかれる人がいる。そういう人はど
うしてそうなったのか、自分の言動を振り返って反省してみよう。誰かに相談してみ
るというのもありです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?