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読書感想 ジョジョ・モイーズ 「ミー・ビフォア、ユー きみと選んだ明日」


どうやらこの著書は、出版されたイギリスを始め多くの国でベストセラーになった作
品らしい。
映画化もされているし、私が知らなかっただけで、日本でも話題になっていたのだろ
うか。


まずはじめに映画を見た・・・というか聞いた。
視覚障碍者向けに映画の音声と音声ガイドが入っているシネマデイジーというものが
あり、それで映画を「聞いた」のである。ちなみに音だけなので画像はない。

映画はやはり映像媒体。それに2時間くらいに凝縮しなければならないから端折られ
る部分もある。ガイドがあっても登場人物の心情や細かなディテールは原作を読んだ
ほうがわかるのではないかと思った。


お金持ちで優秀、ハンサムで女性にもモテる。リア充を絵にかいたような30台青年ウ
ィルが、ある日事故で頸椎損傷になってしまう。そこにヘルパーとしてやってきた女
性ルー。労働者階級の彼女の父は失業中。シングルマザーの大学生の妹と母親を彼女
がアルバイトをして養っている。しかしアルバイト先の店が閉店することになり彼女
も失業。そこでヘルパー資格もないし6ヶ月と言う期限もあるけれど給料が良いとい
うことでウィルのヘルパーとして雇われることになった。

なぜ6ヶ月という期限付きだったかというと、6ヶ月後ウィルはスイスで安楽死を計画
していたからである。

はじめは心を閉ざしていたウィルだが、明るく賢いルーにだんだん心を開いていく。
そして彼女にもっと広い世界を見て欲しいといろいろな知識への扉を開いていく。
果たしてルーはウィルの安楽死を踏みとどまらせることができるのか。


私も以前スイスの安楽死についてのドキュメンタリーを読んだことがある。
目が見えない上年をとって体も動かなくなってしまったらどうしたものだろうか。
兄弟は歳が近いしあてにならない。安楽死も選択肢の1つになりはしないかと考えた


言うまでもないが、安楽死は犯罪にもつながりかねない。だから事前の手続きやカウ
ンセリングや諸々の手続きがかなり煩雑。しかも書類は全部英語だから見えない上に
そこまで英語力に自信がない私はその段階でもうお手上げということが判明した。

本に登場した安楽死を選んだ人たちは、ALSや治る見込みのない痛みを伴う病気の人
たちだった。
そして最終的に点滴のスイッチを押すのは本人。だからギリギリで踏みとどまる選択
肢も残されているのである。


頸椎損傷についても、今回いろいろなことを学べた。
私はペーパー鍼灸師なので基礎医学の上積みだけは勉強している。
四肢麻痺と自律神経症状があるのは知っていたけれど、免疫力が極端に落ちるとかか
なりひどい痛みに見舞われることがあるなどの症状については知らなかった。
これは幻肢痛なのだろうか。

今までの生活が根こそぎひっくり返された上、肉体的な苦痛まで伴っていると言うこ
とになれば安楽死も考えたくもなる。
障害があっても頑張れとか負けるなとかいう世間の風潮があるけれど、私は障害を無
理に受け入れる必要はないと思っている。


そして一方イギリスの労働者階級の過程。不真面目なわけでも人間性に問題があるわ
けでもないのに仕事が見つからない。私はケン・ローチ監督の映画を思い出した。

頭が良くても環境や経済的な理由で進学ができない人がいる。同様の負のスパイラル
は日本でももう常態化しているのではないだろうか。


実際社会に出ると学歴だけではない。社会ではその場その場でどう振る舞えるかの瞬
発力が求められる。
世の中には学歴とは関係なく埋蔵人材というのがいる。ルーを見つけたウィルのお母
さんはさすが裁判官なのか?人を見る目があったのである。
それにしてもルーの家族、大黒柱の彼女をもっと優遇してあげられなかったのだろう
か。

そしてセレブの結婚式のシーンはイギリスの格差社会を象徴的に表していたように思
えた。


物語はほとんどルーの視点から描かれていたけれど、欲を言えばもっとウィルの心の
変化についても丁寧に描いて欲しかった。


所で映画の「世界一嫌いなあなたに」と言うタイトルはどこから出てきたのだろうか

Amazon Primeでの「チャーミング、感動」と言うタグにもちょっと違和感があった。
恋愛要素もあるけれど、扱っているのは人の尊厳と社会問題だと私は思っている。
薄っぺらな紹介が残念に思ったのは私だけではないのではないだろうか。

もしかしたら書籍もロマンスとか感動方向で売り出してしまったから日本ではあまり
話題にならなかったのかな。そうだったらもったいないぞ。

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