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見えなくてもマトリックス

視覚障碍者用のコンテンツでシネマデイジーというのがある。これは映画の音声だけ
を取り出して、それに音声ガイドがついているもので、視覚障碍者用「録音図書」の
仲間だ。映画館のいい音響で見るならともかく、テレビで映画がやっていても画面が
見えないなら録音図書を聞いているのと同じ。それにガイドがついているならそんな
にありがたいことはない。

「著作権は大丈夫なの?」と思ったけれど、映像なしで音声だけならどうやら大丈夫
らしい。


最近はスマホのアプリで映画館でも映画の音声と一緒に音声ガイドが聴けるシステム
ができた。かなりたくさんのタイトルが音声ガイドつきで見られるようになったけれ
ど、まだ邦画に限られていて、外国映画にはそのようなサービスはできていない。そ
れでもやっぱり話題の外国映画は見たい。そんなところをシネマデイジーがカバーし
てくれていたりする。

私は見えていたころは普通に映画を見ていたが、見えているときにはなんとなく見そ
びれていた、ヒッチコックの「鳥」や「ゴッドファーザー」など、いわゆる名作と言
われるタイトルをシネマデイジーで楽しんだ。
「マトリックス」もその一作だ。

話題になったときは、映像やアクションなど視覚的な部分ばかりが取りざたされてい
たので、これは盲人向けではないなと見向きもしなかった。実際テレビ放映された時
も内容についていけず途中でぶん投げた。後にシネマデイジーもあるらしいという話
は聞いていたけれど、あまり興味が持てなかった。内容もIT企業のさえないサラリー
マンが、バーチャルな世界へ行くとスーパーヒーローになって活躍するという厨二病
みたいな話らしい。

しかし最近読んだ、ヤニス・バルファキス著 「父が娘に語る美しく深く壮大でとん
でもなくわかりやすい経済の話」という本の中に象徴的なディストピアを描いた映画
として「マトリックス」が紹介されていた。

Amazon.co.jp: 父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経
済の話。 eBook : ヤニス・バルファキス, 関 美和: 本
https://www.amazon.co.jp/dp/B07NMP97HW?tag=aa1090e5-22&linkCode=ogi&th=1&psc
=1

えっ?!マトリックスって厨二病の話じゃなかったの?!

そして今更になって、シネマデイジーで「マトリックス」を見た。、いや、聞いた。

現実世界とマトリックスの世界が入れ子になっている場面があるけれど、テレビで見
たときはきっとそのあたりでお話からドロップアウトしたのだろう。
しかしガイドがあったにもかかわらず、エージェントスミスって人間なのかアンドロ
イドなのか結局最後までわからなかった。
ヤニス・バルファキスが書いていたディストピアな部分は、登場人物がサラっと説明
していた。うすぼんやりな私は事前情報がなければ聞き落としていたに違いない。

やはり映画は見てなんぼの映像言語、ほとんどがアクションシーンで結局ディストピ
ア感もあまりよくわからなかったし、映像のすばらしさもよくわからなかった。


昔に比べると、今は見えなくても格段に映画が楽しめるようになった。テレビのロー
ドショーやドラマにも音声ガイドがついていたりして、私もいろいろなコンテンツを
楽しんでいる。でも見えていた時と見えなくなってからはかなり好みが変わったよう
に思われる。
見えていた時は映像が美しいヨーロッパ映画とかも好きだった。でも今は全くストー
リー重視である。古いものでは「ゴッドファーザー」新しいところでは「パラサイト
 半地下の家族」などが面白かった。両方ともストーリーでぐいぐい引っ張っていっ
てくれる。

説明があればストーリーに置いて行かれることはないけれど、アクションやホラーや
美男美女のような視覚に訴える部分が多い作品は以前ほど楽しめなくなった。

これは多分に私の想像力が貧困だという事にもよるだろう。見えなくてもアクション
物や格闘技が好きな人もいる。

一方千点盲でも中途障害でも、音声ガイドは必要ないという人たちもいる。「想像で
補える」という事らしい。確かにナレーターによっては鑑賞の妨げになってしまって
いる残念なケースもあるけれど、作品によってはマトリックスのようにガイドがない
と全然わからないものもある。


先日「デューン」が吹き替えになっっていたので見てみたが、ガイドがないので早々
にお話からおいて行かれて途中で投げ出した。美しいと評判のシャラメ君も見えない
のでそこらへんも残念だった。


最近は映画だけではなく、芝居やダンスなどのエンタメにも音声ガイドや日本語字幕
など、情報障害をカバーしてくれようという活動が増えてきてくれていることには海
よりも深く感謝である。このような取り組みの中、視覚や聴覚に障害がある人もより
多くの作品に触れて感性ゃ見識を広げていけたら人生もっと楽しくなるんじゃないか
な。

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