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豊津徳【HozuTalk】03「アートにとって天才とは何なのか?」

 天才は結果として孤独になる。そんなイカ(異化)した天才を僕たちは頭がどうか(同化)してる人としか理解できない。僕たちが理解する40~50年後、価格は100倍になる。
 「僕は芸術という異化行為をしつつ、商品として売る同化行為をすることにジレンマを感じる。」
「僕はそうは思わない。だって異化を同化に転換する中に価値があるから。それが資本主義。」

 アートだって資本主義システムだから魚や車と同じ、アートを扱うのも2種類の商人。自分の作品と美術史の関係を考え、世界が変わるような美術史を作るアートの天才論。開いて閉じて、名言ザクザク心にグサグサの第3回。
 豊津さんが30代の時の話。拓本の展覧会の話になると思わず身を乗り出して聞き入りました。それは画面の中の角田さんも同じ。角田さんの新刊「天才になる方法」には天才は謙虚と書いてあるけど、天才の側にいるすごい人たちもそうなのかも知れない。

 私、そういえばアートとは何かという本を買って積読してる。そろそろ読みどきかもしれない。豊津さんの本も実は積んでるし。頑張れ超遅読の私(笑)、きっと今なら読める。

山本豊津(東京画廊)×角田陽一郎(バラエティプロデューサー)のアートを巡る知のライブトーク第三弾!
テーマは、天才論!
「アートにとって天才とは何なのか?」

教養としてのお金とアート 誰でもわかる「新たな価値のつくり方」 田中靖浩・山本豊津 著

コレクションと資本主義 「美術と蒐集」を知れば経済の核心がわかる (角川新書) 水野和夫・山本豊津 著

アートは資本主義の行方を予言する (PHP新書) 山本豊津 著

天才になる方法 本当に「頭がいい」とはどういうことだろう? 角田 陽一郎 著

01.

角田 どうも。バラエティプロデューサーの角田陽一郎と申します。よろしくお願いします。今回はですね、東京画廊の山本豊津さんとライブについて話す…ライブについてじゃないや!アートについて話すライブ番組「豊津徳(ホズトーク)」の第三回目でございまして。話して見たいと思っております。
 では早速お呼びしちゃおうかなぁ?山本豊津さん、よろしくお願いしまーす!

豊津 はーい!(画面左から右へ通り抜けて)通り過ぎちゃった(笑)

角田 あっはっはっはっはっはっ!どうもありがとうございます〜!

豊津 はい!どうもどうも!こんばんは。こんにちはか?

角田 ひと月ぶりの会でございますけど、毎月毎月、豊津さんと話せるの楽しいです。

豊津 いえいえ。お役に立ってるか分からないんで。

角田 お役かどうか…楽しくやるのがいいんじゃないかなと思いながら、ね。よろしくお願いします。

豊津 よろしくお願いします。

角田 東京画廊あれですよね?今70周年なんですよね?

豊津 そうなんです。今年2020年で。父が画廊立ち上げたのが1950年なんで。

角田 ちょうど50年だったんですね(70年の言い間違い)。昭和25年?

豊津 昭和25年。その前に48年には数寄屋橋画廊で出発したんですけど、50年からは東京画廊って言う名前に変えて。で、今日に至っていると。

角田 豊津さんその時何歳だったんですか?

豊津 僕が生まれたのが48年。

角田 2歳!

豊津 弟が生まれたのが50年なんですよ。

角田 ああ〜、そうなんですね。

豊津 弟の年齢とちょうど画廊の年齢が一緒。今年はもうちょっと早くからこの70周年の展覧会企画してたんですけど、コロナのことがあってちょっと延期しようっていうことで。あれよあれよっていう間に…年末になってきちゃったんで。

角田 51年になっちゃう(笑)、あ、71年か。

豊津 そう。やらないと70じゃなくなっちゃうから。71周年記念になっちゃうから(笑)
で、先週の土曜日から始めました。

角田 ちょっとどういう内容なのかとか説明していただいてもいいですか?

豊津 皆さんがよく分からないって言われている抽象絵画。抽象的な美術が日本で始まったのが1930年代ぐらいからなんですよ。それはまだ1930年代というと、そういうものを扱う画廊がなかったわけですよね。

角田 そうですよね。戦前ってことですもんね。

豊津 団体でみたいにね。二科会とかそういう団体のグループの展覧会はまあフランスの影響であったんで、そこからいくつかの作家が現れた。その作家が戦争で、例えば中国へ帰った人もいるし、韓国へ帰った人もいるし、アジアの人たちが東京に集まったんだけど、また戻っちゃって。で、1950年に父が画廊を始めた時は洋画という”具象”の絵画も始めたわけです。

角田 ブ…ブショウ、の絵画?…ってどういうことです?

豊津 具象。風景とか人物とか。

角田 ああ、具象ですね!僕今ブショウと聞こえたんで(笑)

豊津 具象。具象の天展覧会やってたんですけど、1990年代の終わりに斎藤義重さんという先生に会って、その展覧会をやってから一挙に抽象になっちゃったんですよ。

角田 へぇ〜!だから立ち上げた時には抽象絵画ではなかったということなんですね。

豊津 なかった。普通の洋画ですね。だからまあ…梅原龍三郎って知ってる?

角田 名前だけは。

豊津 安井曾太郎とか、萬鉄五郎とか。そういう日本の油絵の具象の絵画を扱ってたんです。それを大原美術館とかね、ああいうところに入れてたんですよ。

角田 岡山、倉敷のですね。

豊津 倉敷のね。それからブリジストンの石橋さんとことかね。そういうところに入れてたんですけど、1950年代の終わりに斉藤義重さんて人をある評論家の人が連れて来て、瀧口修造って方なんですが、それでもう一挙に斉藤先生を含めて抽象へ突っ走った。で、当初日本にはまだ抽象っていうのはそれほど作家いないんで、ヨーロッパの作家をやろうっていうんで、ヨーロッパの作家を紹介し始めたんですよ。じゃあそこへ日本のアーティストたちがみんな見に来るわけですよね。その当時外国の情報なんて雑誌とかそういうの少なかったからね、それで東京画廊にいろんな人が見に来て、見に来てる人たちからまた抽象が始まるわけですよ。

02.

角田 はぁ〜、面白いですね。画廊って僕が豊津さんとかと出会う前は絵を売っている場所としか思ってなかったんですけど、そこが再生産していく発端になるんですね。

豊津 だから画廊は2つに分かれてて、プライマリーとセカンダリーがあって、アーティストと付き合って展覧会やる画廊と、、、

角田 それがプライマリですね。

豊津 そう。アーティストと付き合わないで作品だけどと付き合う画廊があるんですよ。

角田 そうゆう画廊もあるんですか?

豊津 たくさんありますよ。それをセカンダリって言うんですよ。で、オークションはセカンダリーですよね?

角田 ああ!そっかそっかそっかそっか!

豊津 アーティストはオークションに出さないから。だからオークションはセカンダリーで、画廊が集まってやるアートフェアはいわゆるプライマリーが中心になるんですよね。

角田 ああ〜そういうことなんだ!

豊津 そういうことなんです。

角田 生産者に近い画廊なのか流通に近い画廊なのかみたいなところで、プライマリーセカンダリーかになってるんですね。

豊津 自動車で言うとね、トヨタ自動車があるでしょ?それを工場で生産するじゃない。するとその自動車ショーをやるじゃない。自動車ショーでは自動車売ってないよね?代理店が色々あって、その代理店にお客さんが買いに行く。その生産者と直結している代理店と、ガリバーさんみたいに中古車を売っている所ね、あれは生産者と直結してないですよね。色んなとこから中古の自動車を集めて転売するわけだから。だからセカンダリーですよね。そういう風に画廊もプライマリーとセカンダリー、これは資本主義のシステムがそうなってるんで。

角田 なるほどな〜!面白いですね。

豊津 だから絵だけ特殊にみんな思ってるけど。

角田 今聞いたらただの車と一緒ってことですもんね。

豊津 一緒なの。システムはみんな資本主義だから。同じシステムの中で商材が違ってるだけで。

角田 で、そう考えたら、それでオークションとかで値が決まったりするって、築地市場というか豊洲市場と一緒ですもんね。

豊津 そう。で、豊洲とかは生産者が集まる市場なんですよね。素人が入らないじゃない。素人は魚屋で買うんだから。だからあれはプロが集まってるところだから、僕たちはそういう市場があるんですよ、プロだけが集まってやる市場が。オークションみたいなものが。そういうのが東京美術倶楽部というところとか、私が入っている日本洋画商協同組合とか。そこではプロ同士のオークションがある。

03.

角田 面白い。そうなんですね。そこで最初ので値付けってどう決まるんですか?

豊津 最初の値付けは、資産財の値付けっていうのはコストを積み上げて値段決めないじゃないですか?不動産ってさ、土がいくらとかさ。それよりも路線価格っていう東京駅から何分で行けるかってことでしょ?中央線でどこまで20分で、そこから徒歩何分で、便利だからどうですか?って話じゃない。これを路線価格っていうんですけど、美術は美術史の路線があるわけですよ。その美術史の路線で値段が決定していくわけ。
 だからプライマリーのところはまだ路線ができてないから、これから路線に乗れるかどうかだから、だいたい世界中、最初に20代の若い人が展覧会開くときの価格ってみんなほとんど一緒。

角田 ちなみにおいくらくらい?

豊津 大体5万〜10万くらいでしょ、一つの絵が。

角田 極論すれば、その5万〜10万で出てるものが、5万〜10万で売れないものもやっぱりあるってこと?

豊津 ありますよ。まあまあ売れたとするよね?すると2回目やるときちょっと値を上げるわけですよ。

角田 1回目5万だったけど2回目10万になるってことですね?

豊津 そうそう。そこまで上げないけどね。で、若いアーティストに言うのはなるべく安くスタートしようって言う。

角田 へぇ〜!そうなんですか?

豊津 下げられないから。今回10万で出したけどあなたの作品は二点しか売れないから次の時7万でやろうって言えないでしょ?

角田 言えないですね(笑)

豊津 ね。だからスタートを高くしちゃうと売れない時に引けないから。だから大体5万から初めて積み重ねていくっていうことですよね。で、大体アーティストと同世代の人が同世代の所得で買えるような値段が一番スタートラインとしてはいいですよね。

角田 同世代、20代前半だったら学生とは言わないけど初任給で買えるとかそういうことですね?

豊津 あなた男爵君(宮沢男爵)買ってくれたけど、角田君の所得で男爵君買えるでしょ?でも今70周年の展覧会で飾ってあるのは、かなり無理しないと買えないよね。だからそういういことになるんだけど、40年前に買ったお客さんがうちへ観に来て、自分が買った絵がさ、100倍になってたら嬉しくない?

角田 うん、嬉しいですね。

豊津 そうでしょ。そういうことです。

角田 5万のが500万になっちゃったりして。

豊津 そうそう。今うちに飾ってあるのは500万の絵が5億になった絵ですよ。

角田 ぅうわ〜!すごい!500万、5,000万…だから100倍になったってことですね。

04.

豊津 そうそう。だからそういうようなものを、全ての絵が100倍になるわけじゃないから。その中でレースがあるわけでしょ?負けるというか、値段が来なくて去っていく人もいるし。だから全てが全てじゃないんで。

角田 で、豊津さんが扱うのって5万が500万になるって思うと、やっぱりその…

豊津 僕はなぜ500万になったかって知ってるから。偶然に500万になったわけじゃないから。40年の歳月で何をしてきたかってことが僕は知ってるから、次の若いアーティストにもそれをやりなさいっていうことは言えるじゃない。次の若い人は40年もかからないかも知れない。

角田 今40年って仰いましたけど、ってことはお父様から豊津さんに変わったのは操業30年目くらいで2代目で豊津さんになったってことですか?

豊津 そう、31かな?31歳に画廊に入ったから。だから僕にとって東京画廊のスタートは1980年くらい。それまで選挙やってたから。

角田 そうですね。政治家さんの秘書さんでしたもんね。なるほどなぁ〜。あの、こんなことを聞いちゃったらあれなんですけど、その40年のノウハウみたいなもので、今語れる、こういうものが100倍になるんだよみたいなのって、例えばどんな点なんですか?

豊津 やっぱりアートっていうのはどういう風に成長していくっていうかね、社会が変わっていくかっていうことの先見性を持ってる人だよ。だから今日のあなたのお題の天才論とすごい関係するんだけど。

角田 そこから天才論に行きますね。アートにとって天才とはなんなのか?というテーマで今日は。

豊津 だからそういうある程度頑張る方法があるから。その頑張る方法とは何か?っていうことで言うと、やっぱり美術史っていうのをよく考えなさいってこと。あなたが描いてる絵が今、前の美術史とどう言う関係があるんだ?っていうことをきちんと説明できるように頑張んなさい。

角田 先を見据えてってお話をされたじゃないですか。それって今までの美術の歴史の延長線上にあるみたいなことなんですか?

豊津 そうそう。だから美術史を自分で作るってことだよね。

角田 あ〜、まさに次のレールを作るってことですね。

豊津 だから鉄道に似てるのかも知れない。その自分で美術史を書き換えるだけのものを作れるかどうかがものすごく大事。

角田 なるほどなぁ〜!それ面白いですね。面白いって言うのは、一応僕もテレビを作ってきたじゃないですか。テレビって、今までのテレビを書き換えようと思って作ったことってそんなにないなぁと思って。そこだからアートとの1番の差ですね。

豊津 それはなぜテレビはないか?っていうと、あなたの本ずっと読んでて面白かったんだけど、

角田 ありがとうございます!これですね。(「天才になる方法」を画面に出して)ちょっと宣伝しておこう。

豊津 絶対に一人で作れないでしょ?

角田 はい、そうなんです。

豊津 絵画は一人で作れるからね。この一人だっていうことがすごく大事なんですよ。法人に天才はないじゃない。一人でしょ?天才って。

角田 「法人に天才はない」は面白いですね。天才がその法人を作ることはあったとしても、スティーブ・ジョブズがアップルを作るかもしれないけど、アップルは天才じゃないですもんね。

豊津 そうそう。だから一人の人間っていうのがすごく大事になるの。だからチームラボは天才かどうかって難しい。

角田 ああ、なるほど!猪子さんがどうかは置いといて、チームラボが…。そういうことか!

豊津 だからどうしてもエンターテインメント化するわけよね、複数で作ると。

角田 つまり法人を、なんていうんですかね、利益がないと回らないとか。

豊津 アーティストって利益考えない人がたくさんいるからね。

角田 うわぁ〜!また今日もビンビン刺さりますね!そっか。だからそれをテレビて言うと利益というか視聴率というかに還元されちゃうんですけど、結局それを取る取らないみたいなことを考えてると、テレビしの延長線上にみたいな話にはならないってことなんですね。

05.

豊津 そうそう。だから例えば角田君はさんまさんをすごく尊敬してるよね。するとさんまさんの最大の問題は何なのかっていうと、さんまさんが生きてテレビに出てるときはすごい才能があると思うんだけど、さんまさんが亡くなった後、何年持つかだよね。なくなってから10年後にさんまさんの番組見て何人面白いと思うかってことでしょ。でも談志さんの落語は10年たっても見れそうな気がする。

角田 それってやっぱり延長線上にあるからってことなんですよね?

豊津 そうそう。

角田 確かに、そうすると美術館みたいんなものもちょっとそうだなと思ったことがあって。
 野球の落合選手がまだ活躍されて…引退されたのかな?落合博満記念館ってあるんですよね、和歌山県に。僕たまたま寄ったことがあって見たんですけど、記念館というか美術館って、その方が亡くなってからその方の偉大さを顕彰するものとしてできるのが美術館なんじゃないかなって思ってたから、今活躍してるのに記念館も何もないだろうってちょっと思ってたんです。ところが、今年でしたっけ?石原裕次郎さんの記念館が閉館しちゃったんですよね、小樽かなんかの。
 で、さっきのさんまさんの話に繋がるんですけど。その人のことを覚えてる世代がいないと記念館ってペイできないっていうか、観客がこないんですね。一方で、それを超えたアーティストとかの美術館っていうのは成立してるというのは、その人の思い出をライブで経験してる人がいようがいまいが…。その差はどこなんだろうなーなんてと思ったりもしたんです。

豊津 それはさっき言った美術史とか、映画史とか。だから映画史に残るような、例えばスタンレー・キューブリックは映画史に残るでしょう。黒澤明も残るでしょう。じゃあたけしさんの映画は映画史に残るかどうかってことになるじゃない。だからその映画史というものをどう書き換えるかということが映画を作ることのポイントじゃない。

角田 そうですよね〜、なるほどなぁ。やっぱり面白いですね。その瞬間に、でもその絵が値が付かないとその方は芸術界を辞めちゃうというか、例えばゴッホみたいなものがいるわけじゃないですか。死後にならないと評価されないみたいな。一方で、明石家さんまさんみたいな人は死んだ後に評価されるみたいなことってないですもんね。冷静に考えたらね。

豊津 非常に難しいでしょ。で、一番それの象徴なのがタモリさんじゃない。タモリさんって何か芸を持ってるの?

角田 昔はイグアナとか四カ国語麻雀とか。

豊津 あれは芸にならんでしょ?

角田 うん、なるほどなるほど。芸にならないと思いますね。パフォーマンスですもんね。

豊津 うん。そうすると今お笑いの4強とか言われてるのがあるじゃない。すると誰が残るかって言った時に、鶴瓶さんの落語を僕は聞いてないから、鶴瓶さんの落語が談志の落語と同じような形で残るんだったら残るよね。

角田 アートって何なのかって考えた時に、そこに明確な差がやっぱりちょっとある気がしますね。

豊津 ある。

角田 そう考えた時に、パフォーマンスっぽい現代アートってあるじゃないですか。あれはどうなるんですかねぇ?

豊津 それは演劇として残るからね。だからシェイクスピアとか、それから有名な演劇「ゴドーを待ちながら」。そういうような演劇として残るか。
 例えば寺山修司と唐十郎とつかこうへいとかってあるじゃない。で、つかこうへいの熱海殺人事件は残るだろうとか、そうやって演劇の中で大事な演劇は残っていくと思うんだよね。するとあれはやばいかも知れない、劇団四季が。ライオンキングを劇団四季見る必要ないじゃない。そうすると彼のやった演劇は世界の歴史の中に残るかどうかだよね。でも唐十郎は残りそうな気がしない?

角田 ああ〜、そうですね。はい。

豊津 だからそうやって見ていくわけですよね。

角田 今仰ったようなことを絵1枚1枚というか、アーティストひとりひとりに豊津さんは感じながら。

豊津 そうそう。

06.

角田 いつも思うんですけど、面白い職業ですね。

豊津 うん。職業としては面白いし不思議な職業だよね。

角田 不思議ですよね。

豊津 だから僕たちの職業は2種類あるんだけど。命がけで未知の世界にモノを探しにいく商人がいるでしょ?例えばヨーロッパから胡椒をアジアに買いに行くとかさ。途中で殺されちゃうわけよね。そういう商人と、その商人が持ってきたモノをその国内で売る商人がいるでしょ?

角田 イタリアのベニスに着いて、胡椒を…。

豊津 そこから売り買い。だからさっき言った未知のものを拾いに行くのがプライマリーギャラリーですよね。それを持ってきたものを自分の地域で売り買いするのがセカンダリーじゃない。だからなんか職業には2種類あるようなきがするんだよね。

角田 あー、ありますね!それって普通に企業でサラリーマンやっててもたぶんありますね。

豊津 あると思う。で、なぜプリライマリーをやるかというと、自分にはそうせざるを得ないという何か衝動があると思うんんだよ。

角田 豊津さんはその衝動みたいなのを感じたのって何歳の時に、どんなエピソードが?

豊津 まあ僕にとって今思い起こせば画廊に入った時にしばらくしてお手洗い掃除と経理だけやってたんだけど。

角田 言ってましたよね(笑)

豊津 それでまあ毎日やってたら、ある日、拓本の展覧会、中国の。

角田 拓本。

豊津 石に掘られた文字を拓本取る展覧会を父親が企画したんですよ。で、その時に父親が宮川寅雄さんていう中国の歴史家の大学者がいて、その拓本の序文をその先生に頼んだんですよ。で、僕その拓本がすごく気にいっちゃって。面白くて。字は読めないんだけどね。で、父親に面白い面白いって言ったら、じゃあちょっとこの序文読んでみろと。これから印刷する前なんだけど読むかって序文を読んだんですよ。で、序文を読んだら、1箇所だけ変えたらすごく良くなるって場所を見つけただんですよ、その序文の中で。

角田 へぇ〜!それ、変えたら良くなるってぱっと見てて思ったわけですか?

豊津 思った。この字だけ変えるとこの序文が持っている内容が普遍性を持つんだって僕は思ったわけ。ただ拓本を書いてるじゃないの、造形ってことを全般に、人間がなぜものを作るかってことにここの2字変えるだけで。そう思ったの。で、父親に言ったの、それ。「お父さん、ここの2字は僕は変えた方がいいんじゃないか?」って。そしたら父親がさ、「んおっ?!」って言ったわけよね。それを気がつかないで、父親も。
 それは面白いんだけど、30代の僕が言ったことと、相手はさ、中国の有名な歴史家。

角田 大家なわけですね!

豊津 その先生にそこを直すということを言えるかどうかなの、父親が。息子がこう言ってるから先生どう思いますか?って(笑)。
 で、俺は父親すごいなと思ったのは、僕の方が面白いと思ったらしくて、その先生に言ったんだよ。

角田 うわー!すごい!!

豊津 その先生がもっと偉いんだよ。「それの方がいい」って言ったんだよ。

角田 うわぁ!すごい!!(拍手) それみんなすごいですね!それに気づいた豊津さんすごくて、、、

豊津 いやでも、それね、僕がすごいかどうか分からないの。あのね、僕がすごいなと思うのは、そのジジイ二人がね、それを認めたことがすごい!

角田 すごいですよね!だからそれを認めたお父様もすごくて、それを聞いてそっちの方がいいと思ったそのアーティストの方もすごいですね。

豊津 アーティストじゃない。その、序文書いた先生。だって父親より上なんだからさ、年齢も。だから僕はそこでこの仕事は面白い!と思ったの。あのときに父親とその先生がそんなのはもう小僧が言ってることだから、拒否してね。

角田 なに生意気言ってるんだよ!みたいなね。

豊津 そう、失礼だよという話になると思うじゃない。そしたらさぁ、そうなっちゃったからさ。こんな面白いことはないなーと思ったのよ。

角田 面白いですね。はぁ〜。そうするとそれをちょっと人生の仕事にしてもいいかなって思いますね。

豊津 でもそこにはさ、利益とかそういうこと関係ないじゃない。

角田 関係ないですもんね。その2文字を変えることの方が面白いと思ったんですもんね。

豊津 展覧会でお金のこと考えてるんだろうけど、でも直すってこを考えると利益とかそういうことじゃないじゃない。だからそういうことが僕にとってはこの仕事は面白いなと思ったの。今だに鮮明に覚えてる。でもそれを話したのは今回初めてか2回目くらい。

角田 うん!僕この話初めて聞きました!

豊津 聞かれたことないから。

07.

角田 はぁ〜面白い!で、ちょっと話を天才の方に移動すると。この人と仕事をしててこの人天才だなーって思う時ってやっぱりありますか?

豊津 これがね、すごく難しい。

角田 うん、なんかそうなんじゃないかなと思ってこれをテーマにするとどう豊津さんが答えるのか?興味津々だったんで。

豊津 例えばもう亡くなった人だから傷つかないけど、岡本太郎さんっているじゃない。

角田 はいはい、芸術は爆発だ!

豊津 全然天才じゃない。

角田 えっ?!そうなんだ!それはどういうところでですか?

豊津 強いて言えばパクリの天才。だから一般の人は芸術は爆発だって言ってるから天才に思うじゃない?彼の作品で美術史を変えるような作品作ってないもん。

角田 はぁ〜、そうなんですね!

豊津 あの作品見て俺はこういう世界をやろうという風に思わないだよ。でもあるんだよ、世界が変わるような作品が。ただそれはその本人も気がつかない場合もある。

角田 ぅっうわあ〜っ(笑)!なるほど、、なるほど!

豊津 うん(笑)

角田 本人が気がつかない場合はそれこそ画廊の方とかが気づかせるしかないですよね?世に出ないわけですよね?

豊津 そう。これは面白いよって言うんだけど、その筋の、その筋の有能なアーティストがいると、これはすごいっていうのはアーティスト間ではすぐわかる。一般の僕たちではわからないけど、アーティストは瞬時にわかる。何故かというと、みんな道を探してるから。これはやられた!っと思うの。

角田 その道を…だから、そっか、道を探してない人にはその道が見えないんですね。

豊津 見えない!だからアインシュタインの相対性理論ってそういうことだと思う。みんながなんか探してるんだよ。世界がどこか違うと。ユークリッド幾何学では。で、ある日アインシュタインが特殊相対性理論を考えたわけ。でもアインシュタインも特殊相対性理論が本当に普遍性があるか自分で実証するのに20年かかったの。でもその特殊相対性理論が次の世界を変えるだろうと、物理学を、それは何人かいたはずなのよ。やられた!っていうのが(笑)

角田 そっかー。そのやられた!って、それこそ同業者達がやられたって思う感覚って、確かに天才な感じしますね。ってことは、その人が天才かどうかってその道を探ってる人じゃないと分かんないってことですね。

豊津 絶対にね。そんな一般の人がね、この人が天才かどうかなんて全く分かんないと思う。

角田 そうですよね。100m走だったらタイムが出るからまだ9秒代で走れれば天才だとか言えるかもしれないけど、ことアートってそういうことできないですもんね。

豊津 でも数学はあるじゃない。

角田 数学はありますよね。

豊津 ね。物理学もあるでしょ。だからそういう専門家たちだけが分かって、これは世界を変えるっていうのがあるはずなんだよね。でもそれは一般の人にはわかるまでに40〜50年かかるんじゃないかな。

角田 そうですよね。だからそれが専門家達に分かって、それが世に出て広まって、なんだったら実際のところで応用されたりして、やっとその人の論文が、研究が、価値があるってわかるんですもんね。

豊津 だからさっき言った40年かかって100倍っていうのはそういうこと。

角田 「!!」そういうことか!つまり40年かかって100倍になるってことは、結局そこまで行って周りの人というか、にも、浸透するってことなんですね。

豊津 そう。

08.

角田 うわ、面白いですね相変わらず。なるほど。そっか〜。でも豊津さんが出会った方で天才だと思う方もいらっしゃるわけですよね?

豊津 うん。たくさんいるというか、残念なことに自分が天才だってことを気が付かなくて路線変更しちゃった人がたくさんいる。

角田 ぅうわー…。つまりその道が、その道だと豊津さんには見えたんだけどその本人は違うって思っちゃったってことなんですね。

豊津 それじゃ食えないとかさ。

角田 あぁー…。じゃ、食えなくてもやってれば良かったんですかね。

豊津 でも食えなくてやるっていうのは…

角田 難しいですよね。

豊津 難しいんじゃなくて家族に迷惑かかるから。天才は家族持っちゃダメかも知れない(笑)

角田 あー、だんだんこう天才の定義がでてきますね。なるほどな。これね、僕の知ってる俳優さんが言ってたんですけど、俳優で成功する人は歳とっても俳優をやれてる環境にある人だって言ってましたね。

豊津 そう。そうだ。

角田 それと同じことですね。だからつまり30代後半になって鳴かず飛ばずなんだけど、舞台の講演があるときは休んでもいいよっていう、バイトの店長と中が良いとか、なんならヒモがいるとか、なんでもいいんだけど、つまりそういう風に、親が金持ちでもいいんですけど、つまり結果的にその芝居を続けられるという能力がある人だけが俳優になれるだって。

豊津 そういうことです。

角田 アーティストもそういうところがあるってことなんですね。

豊津 うん。でもそれはさ、自分がその道を選んだからそうなるってわけじゃないからね。

角田 うん。そうだからって、やったからって、結果的に天才じゃない可能性の方が多いわけですもんね(笑)

豊津 だからものすごくこの天才論…、それから天才論っていうのはある種の結果論だから、過程の時点ではわからないよね、天才かどうか。過程の時点ではどっちかっていうと変人とか狂人とか思われるじゃない。

角田 うん。馬鹿と天才は紙一重って言いますもんね。

豊津 でもそれは何故かっていうと、僕たちが馬鹿としか理解できないからよ。本人が馬鹿なんじゃなくて。

角田 周りの問題なんですね。

豊津 僕たちが彼を見てて理解でいないから馬鹿だってことになるんですよ。変人だとか狂人だとか、それは僕たちが話の問題であって、本人の問題じゃないじゃない。

角田 そうですよね。僕だからこの本を書いた一つのきっかけで言うと。天才に憧れてた子供だったんですよ、きっとね。それはまあ絵でもいいし、スポーツでもいいし、もしかしたら音楽でもいいんですけど。で、そんな中でそういうのが自分は才能がないんだなーってなんとなく気づいた時に、つまり勉強が一番簡単だったんだよなーと思ったと言うか。それで東大行ったんだよなーなんてちょっと思うんですよね。
 つまりそれって僕の中での届かないものへの憧れと、ちょっと羨望というか、そういうものを感じるんですよね、天才というものに。だからテレビでそういう天才とかが出てくるような番組をやりたいって思ったから、あのオトナの!みたいな番組をやったんですよね。
 なんかさっきね、これ始まる前にちょろっと言ってましたけど、なんかIQの天才の話で豊津さんしてもらっていいですか?

豊津 なんかで読んだんだけど、IQが140以上の人に天才はいないって(笑)

角田 はっはっはっはっはっはっ(笑)それ面白いですね!IQ140、だから比較的頭がいいというか、そう思われてる人が天才だと思われてるけど、実はIQ140以上の人には天才は現れないってことですね。

豊津 何故かというと、頭のいいというのは僕たちが頭いいって気づいてるわけでしょ?周りが。

角田 うん、そうかそうかそうかそうか。さっきの話で言うと。

豊津 頭いいって気づかれてる程度の話じゃん。

角田 所詮。

豊津 所詮。だからそのレベルよ。天才というのは頭がいいかどうかって僕たちが判断できないから、さっき言った奇人とか変人なんで。頭がいいっていうのは社会的な評価だから、本人の問題じゃないじゃない。自分でIQ測んないじゃん。だれかがIQ測るでしょ?ということは他者の目じゃない。

角田 そうですよね。

豊津 他者が頭いいって言ってる程度はどうってことないってことよ。だからあなた頭いいですねって言われたら、ああ私は理解されちゃったなと思わないと。

09.

角田 そっか!なるほどね〜。でもそれ、周りに理解されないってことは天才はやっぱり孤独なわけですね。

豊津 っていうか、天才は結果として孤独になるんだよ。孤独を選んでるわけじゃないんだ。

角田 なるほど!なるほどなるほど。

豊津 孤独を選んで天才なんだったらみんな孤独選ぶよ(笑)

角田 ホントですね。そうだよなぁ〜。

豊津 例えばアインシュタインがね、相対性理論を考えてる時にさ、普通の人と会話してなんか面白いことある?

角田 うん、絶対お互いがつまんないですよね。何言ってるのか分かんないし。

豊津 だからなんだっけ、天才的な数学者があることを見つけるために5年行方不明になったって言ってたよ。

角田 あぁ、なんかいますね、そういう人。

豊津 何故かというと、人に話しかけてもらいたくないらしいんだよ。わずらわしい、自分が考えてることにちゃちゃ入れられるのが(笑)ということは、そういうことを見つけ出したってことがすごいことだよね。僕たちそういうことがないから不安なんで、角田君今日どうしてる?とかって電話するわけよ。これは不安の現れじゃん。僕たちには僕たちだけで見出すなにかを見出してないのかも知れないよね。

角田 だからそういう天才って、結果とも言えるし、そういうのが見出せた人かも知れないですね。

豊津 でもこればっかりは天才って言うぐらいだから、天から何かが降りてくるわけだから、自分で考えたことでもないかも知れないから…、分かんないね、これね!

角田 こればっかりは分からないですね。
 あの、ただそう思ったんですけど、そういう天才みたいなのがいて、じゃあ今度、豊津さんの仕事というかギャラリーというのは、そういう人と接触して、その人のその考えを世に出すわけですよね?値付けするといか。それってやっぱりそういう媒介者というかメディアなんですかね?そういう媒介者がいるからそういう孤独な天才も世に出てくるわけですもんね。

豊津 そうそう。だから角田くんの仕事で言うと、有能な俳優にマネージャーが付いてるようなもんじゃない?だからあの吉本興業とかさ、ああいうのが僕たちの役割に近いのかなと思うんだけどね。

角田 もしかしたら社会不適合者かも知れないけど、キラリと光るものがあったらそれをうまくマネジメントして、次の作品を作らせ、時におだて(笑)、生活を確保してあげてる。

豊津 そうそうそうそう。それを例えば反社会勢力と付き合ってたのを社会がなんかわいわい言って、ね、事務所クビになったとかさ、仕事がなくなっちゃったっていうのは、やっぱり天才じゃないんだよね。天才はそういうことは、反社会勢力も何もないからさ。だからやっぱり社会のしがらみの中で生きてるから、自分で律しなきゃダメなのかなと思うけど。

10.

角田 自分で律しながらだと思うと、律するというのが逆パターンに出るなって思うことが僕あるんですけど。つまり子供はみんな天才だとか言いますけど、結果的に学校で先生に言われたことを守り、みんなんで同じ給食を食べてたりしてるなかで、自分の天才性ってのをとりあえず置いておかないと社会でうまく回らないじゃないですか。

豊津 小学校に入ると言葉、文字の学習をし始めるでしょ。その文字の学習でほとんど天才性がなくなる。

角田 消えていきますよね。

豊津 何故かというと、天才性は社会にとっては邪魔だからね。

角田 うん!天才性は社会にとって邪魔なんですよね。

豊津 そう。だってあなた、みんなが天才が集まったら社会なんて構成できないじゃない。

角田 成立しないですもんね。だから僕この本にも書いたんですけど、芸術って異化させること、異化行為だなって思ってて。で、商品を売るって逆に同化じゃないですか。この商品が良いんだってみんなに思わせるから売れるわけじゃないですか。だから異化と同化って全く真逆の作用なんだけど、アートってたぶんこの世界と全く違う、今あるものと全く違うものをポッと出して、驚いたり感動させたりするのかなと思うと、その異化したものを資本主義経済の中で同化させないと、商売にならないじゃないですか。その異化と同化のジレンマみたいなのってすごい僕はテレビ作ってても感じてたんですよね。

豊津 僕はそれはジレンマだと思わない。

角田 思わないんですか?!

豊津 うん。やっぱり異化をどうやって同化するっていう、その中に価値の転換があるから。

角田 あぁーそうだ!それをやってるのが東京画廊だったりするわけですもんね。

豊津 そうそう。それを僕がそこで疑い持っちゃうと前に進まないじゃん。

角田 僕この本の中で駄洒落みたく異化はイカしてる方で、同化ってのはどうかしてるよっていう(笑)というふうに言ってたんですけど。つまり、その異化と同化って対立じゃなくて、異化と同化を繋げることが…

豊津 そうそうそう、それが資本主義なんだよ。だから資本主義っていうのは人口が増えるわけだから、異化したものをできるだけ広く人に見てもらわなきゃならないでしょ?それで少しづく利益を得て、大きな利益を産むわけじゃない。だから異質なものをどうやって同化に持っていくかっていう過程がアドバダイジングであったり。だからやっぱり資本主義の面白いところは自分たちと違う異質なものがなくなると社会が成立しなくなるんだよ。その差で、この異質な差で大きな価値を産んでいくわけだから。
 ところが残念ながら異化というのはさ、自分から求められないからね。異化っていうのは僕が見てるのが異化だから。本人は異化かどうかが分からないんだよ。

角田 そうすると、本人が異化かどうかが分からない本人が作品を作ったとして、その時に結果的にほとんどのデザイナーとかクリエイターと言われてる人って、同化作業も同時に考えながら異化作業をするじゃないですか。

豊津 だからそこには天才はいないんだよ。

11.

角田 なるほど。僕なんとなく異化と同化の話で言うと、今豊津さんと話す前までは開いてる作品って話をよくされるじゃないですか。開いてる作品って同化が成立してる作品なのかなと思ってたんですけど、そういうことでもないのかも知れないですね?

豊津 閉じてるものを僕たちが開かそうとするわけね。で、閉じてるってことはものすごく大事なんですよ。閉じてないものは自立してないから、閉じてる故に自立してるんで。で、僕たちはそれを開きに行くわけね。開いた時に初めて商品って形が生まれるんだけど、その閉じてる人が全部開き切っちゃうと終わりだよ、それ。

角田 なるほどね〜!そうか、閉じてるアーティストを開かせるのがひとつの画廊の役目だみたいな話をしてましたけど、開きっぱなしだとダメってことなんですね。

豊津 開きっぱなしだと一発芸と一緒だよ。

角田 うわぁー、なるほど!!そうだ!だからホント、一発芸で終わっちゃうんだ。

豊津 だからそこで気がつくと閉じようって意思を持ってる人が現れるんだよね。渥美清さんがそうでしょ。それからタモリさんも閉じようとしてるじゃない。ね?だから彼らは分かってるんだよ、開き切っちゃったから。渥美さんは開ききらないようにするために男はつらいよ以外プライバシーも何も出さないじゃない。高倉健さんもそうじゃない。だから長い期間生きるためには閉じるっていうことを前提に持っていかないと。すぐ開いちゃうからさ、人間って。開いたら消費されて終わっちゃうんだよ。

角田 はぁ〜。今YouTubeのチャットのコメントに「花みたい」って来たんですけど。つまり花も開いちゃったらその花は後は萎むだけ、枯れるだけですもんね。

豊津 そうそう。

角田 そうか!面白い!だから今日話すまでは開いたら完成みたいな風に思ってたんだけど、完成というのはつまりもう終わりってことなんですね。

豊津 終わりってこと。

角田 だからまた閉じて、また開くというか。それをこう、新陳代謝ともいうし、スパイラル状に上がって行ってるとも言うし、そういう行為を果てしなくやらない限りアーティストはアーティストじゃないんですね。

豊津 そう。でもそれはアーティストだけじゃなくて、僕たちが生きていく上の大事な点だと思う。その閉じるということが。

角田 ぁぁああーっ!すごい!!なんか今僕の人生にグサッと来ました!そっか、つまり売れなきゃいけないとか人気にならなきゃいけないとか、開きたい!開きたい!と思ってて、ただそういう時こそ次に開くためには閉じなきゃいけないんですね。

豊津 そうそう。だからあなたがTBSを辞めたってのはすごくよく分かるのは、あまりにも開きすぎちゃったから、閉じなきゃならないじゃない。

角田 うわぁ面白い!閉じなきゃいけないんだ!今、豊津さんが言語化されて、僕なんか今は自分が篭って執筆するんでもなんでも良いんですけど、篭って作業をしなきゃいけないなって思ってたんですよね、今年とかって。そしたらたまたまコロナになったから本当に篭ってたんですけど。

豊津 結局コロナがみんな幸いしてるって言っちゃ失礼だけど、開き切っちゃったわけよね、資本主義が。

角田 うん。資本主義だし、日本経済が特にですよね。

12.

豊津 そう。で、開き切っちゃったものを自分で閉じられないんだよ。あのね、会社を閉じるっていうのは大変なことだからね。UNIQLOがこれから会社閉じるって柳井さんにできる?

角田 やーめた!とは、柳井さん本人が辞めることはできたとしても、UNIQLOを閉じるのは無理ですもんね。まあ潰れるなら別ですけど。

豊津 資本主義の一番問題なのは自分で閉じられないんですよ。

角田 うわぁぁ、すっごい、この話面白いですね!閉じれないんだ。

豊津 うん。閉じれないの。ある会社の社長と話したんだけど、閉じるために20年かかったって言ってた。上場してなくて良かったって言ってたよ。

角田 8月に亡くなったうちの親父もずーっと死ぬまで仕事やってましたけど、毎年もう来年は辞めるんだ、来年は辞めるんだって言いながら、結局辞めなかったですね。で、辞められなかったんですよね。

豊津 そうね。だからやっぱりみんな開きすぎちゃったから、ちょっとコロナのおかげで少し閉じたらって話じゃないかと思うんだよね。

角田 もしかしたら神が遣わしてお前ら閉じろよって言ってるのかも知れないですね。

豊津 だからこの間、ABC問題の話したじゃない、数学の望月さん。あれ閉じてるじゃん。あの人に開く意味がないのよね。開くときはABC問題を正解だって言う時が開いた時だから。それはもう望月先生にとっては今自分がテレビでたり、インタビューに応えて開く必要はないじゃん。で、分かってるんだから、それは。だから出てこないんだよ。

角田 今の話聞いて、例えば僕らテレビのバラエティの人間が取材とかをお願いしても断られたりするときがあるじゃないですか。そうするとちょっとこうどす黒い気持ちとか、なにお高く止まってんだよとか思うんですけど、彼らにとってはそこで世に出ないってことは大事なんですね。

豊津 大事!だからね、俺は思うんだけど、さんまさんが面白いのはさ、自分が開いちゃったもんだから、どうやって生きることを考えるかっていうと、人を見つけちゃ開いてるんだよ。

角田 うん!そうですね!

豊津 あの番組みてるとさんまさんは開きまくってるの、あそこの雛壇にいる人たちを。だからさんまさんはもう自分は閉じれないから…

角田 お前ら開けーっていうことでネタをトークでぶつけてるんですね。

豊津 だからさんまさんこそ資本主義の体現したものだと思う。

角田 うわ、そうですね!面白いなぁ。

豊津 さんま資本主義っていうのを書こうか?(笑)

角田 うん、さんま資本主義っていうの(笑)、ありますよね。明石家さんまこそ資本主義の体現であるみたいな。これ、日本経済というか、なんかどんどん調子悪くなったりすると、どんどん開こう開こうみたいな、本も売れるし、そういう言述が広がるじゃないですか。ところが本当はそうじゃないのかも知れないですね。

13.

豊津 オンラインてさ、今日二人で話して1時間ぐらいでぽんっと終わるじゃん。いいじゃんこの閉じ方。でもこれ会社でみんなでやってるとそうはいかないじゃない。

角田 だらだらと何時間も話すし。

豊津 それで飲みに行ったりさ。ぽんっとやってさ、で、角田くん今度70周年展見に来てよっていうぐらいがいいじゃん。

角田 それ、なんかいいし、確かに江戸っ子な感じがしますね。

豊津 そうそう、だから僕たちもそろそろ大人になってさ、閉じるってことを真剣に考えた方がいいんじゃないかと。で、閉じてることを非常に今良くないって言う言い方になっちゃうじゃない。自閉とか。

角田 怖がると言うかね。

豊津 でもあの自閉してる人の方が正しいのかも知れない。

角田 この時代に自閉してることの方が正しいのかも知れないですね。

豊津 そっちの方が僕は…、だからそっちから天才が出てくると思う。

角田 僕なんか今のオンラインサロンとかYouTubeの人気とかライブ配信の人気とかってちょっとやだなと思ってるのって、そういう開く技術が上手い人じゃないと世に出られないみたいな風潮がちょっとあるなと思うんですよね。でも昔って、まさにそういう、開く技術がないんだけとキラリと光る才能を持った人を芸能事務所のマネージャーだったりとか、レコード会社のプロデューサーだったりとか、テレビのプロデューサーとかが、開かしてあげたじゃないですか。
 ところが今相対的にそういう、出版社もそうだし、レコード会社も力がなくなってるから。一方でYouTubeとかで自分で広がる人が多いじゃないですか。だから逆にその広がる能力がある人しか世に出られなくなっちゃうんじゃないかなと思って。本当はそこって、その能力ないんだけど、俺たちがなんとかするぜみたいな(笑)、まさに東京画廊がアーティストを育てるみたいな、立ち位置みたいなものがむしろ必要なんじゃないかなと思ったりしてるんですよね。

豊津 でも、このオンラインのシステムはさ、開くために使うって意味でよく分かるけど。SNS見てるとさ、炎上するじゃん?だから開くのも限界があるな。だからやっぱりもうすぐこのオンラインの使い方を本当に考える時代になるんじゃないかと思うんだよね。

角田 そうですよね。だってiPhoneが出たのって2007年くらいだとすると、みんながSNSを使いはじめたのって、昔からありましたけど、ここ10年ですもんね。そうするとこの10年でやっと、リテラシーじゃないですけど、使い方みたいなものがやっと体得されるのかも知れないですね。

豊津 だから今回あなたに誘われてこういうことやってるけどさ、僕にとってはさ、角田くんと話してるだけじゃん。

角田 うふふふ!そうですよね!

豊津 それは周りの人は見てるかどうか分からないけど、少なくとも角田くんと僕は話してるだけのはなしだから。このレベルで僕のところに来て、前の時も話したけど、角田くんと僕がなんとかっていうとんかつ屋が美味いよねって話をここで言ってる分には、角田くんと僕の話を聞いて面白いなと思った人はそのとんかつ屋に行くけど、グルメの番組とは違いじゃない。だからなんかそいういう角田さんと僕が話す中で、これは自分も同調できるなとか、同調できる人同士がまたこういう話をしていけばいいじゃない。これはポピュリズムにならないよ。

角田 ならないですね。そっか、だから過剰に広げようとか開こうとかするとポピュリズムに堕するというか落ちるんですけど、そうじゃなくて、本当に僕らが話したとんかつ屋さんが美味いね、じゃあ行こうかって思う人だけが行けばいいっていう。

豊津 そいういうことだよ。それからだから二人で話してるからここに聴衆が100人目の前にいたら、こう言う話できないよね。

角田 うん、そうですね。

豊津 やっぱり緊張しちゃうしさ。ちょっと喋っちゃいけないことも喋らない方がいいかなーとかさ。

角田 色んな忖度が動いちゃいますもんね。

豊津 でも角田さんと二人で話してるからさ。ね。で、別に二人で話してることがさ、SNSで炎上するような内容にはならないじゃない。個人名も出さないしさ。ね。だからなんか、こういうのが特にマンツーマンには合ってるね。シンポジウムやるのには向いてない、これ。

角田 向いてないですよね。まさに100人だ1,000人だみたいなのが向いてない気がしますね。ただ僕も今ほら東大通ってて、指導教官の方とこういうzoomとかでやりとりしてるんですよ。なんかむしろプライベートな感じで教えを乞うみたいなことが出来て、なんて言うか、対面だと僕がまだ若い学生なら先生教えてくださーいって言いますけど、こんないい年になったりすると、むしろこのくらいの閉じてる感じで相談してる方が逆にちょっと気持ちいいなと思う時があるなと思うですよね。

豊津 だから今度逆に東大の先生が角田くんから違った現実を教えられた方が学問は活きてくるじゃない。今、学術会議で揉めてるのはそういうところじゃないの?もうちょっとこうさ、面白く話ししてよって感じするじゃない。ね。

角田 はい。僕のあの事件ってどっちもどっちだなってちょっとだけ思ってて。そうですよね。

豊津 もうちょっと楽しそうにやってもらいたいよね(笑)

角田 ほんとですね(笑)

14.

角田 いやー、もうあっと言う間に1時間です!

豊津 え?もうそんななっちゃったの?

角田 はい。面白かったです。でも今日は本当に閉じることの大事さみたいなことが僕分かったので、まさに、あの、豊津さんんもこれ(天才になる方法)買っていただいたって言うか、読んでいただいたと。

豊津 読んだ読んだ!

角田 ありがとうございます!

豊津 10年前に読みゃ良かったと思う。あっはっはっはっはっはっ!

角田 やっはっはっはっはっはっ!いやいや!逆ですよ!豊津さんと話してることとかが僕の頭に入って、こういう本が出来たんですけど。

豊津 そう?僕がもう一つ知りたいのは、角田さんのこういう本を、角田さんの本をお父さん面白いよって娘から貰ったのよこれ。

角田 あ、そうなんですか?!

豊津 娘が僕のLINEに角田さんの本、こういうの出たよって教えてくれたの。

角田 あぁ〜!なんか僕がFacebookに書いたらいいねくれてました(照)

豊津 そうでしょ?だからそれで今回天才論の話になったから、ちょっと読まないとと思って読んだんだけど。

角田 どうもありがとうございます!

豊津 いえいえ。

角田 また来月やるでよろしいですか?

豊津 わかりました。

角田 はい。ということで一回配信の方は止めたいと思いますんで。観ていただいた方、ありがとうございました。

豊津 どうもありがとうございました。

角田 はい、じゃ一回配信止めます〜。

豊津 よろしくお願いしま〜す。

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