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デヴィッド・リンチの自伝『夢みる部屋』翻訳版発売記念! 『ブルーベルベット』と『ツイン・ピークス』

 2020年10月24日(土)に鬼才、デヴィッド・リンチ監督の自伝『夢みる部屋(原題:『Room to Dream』)』の邦訳版が発売されました。

 デヴィッド・リンチの人生に関わった人々のインタビューにより、立体的に浮かび上がった「人間・リンチ」が語られた各章と、リンチ本人がそれに対して言及する章とが交互に語られる構成になっており、非常にユニークかつ、約700ページどこを切ってもリンチ100%、濃厚なファン必読の自伝になっている。

 噂では赤裸々な内容と聞いていましたが、まさかリンチの精通の話まで語られる事にびっくりしました。

 思春期に入り始めた時、成長の早い同級生がチンコをいじると白い液体が飛び出すと聞いてリンチは「何だって?」と言って驚いたと同時に、直感でそれが真実だと分かったという。それは瞑想による超越と同じだと思う。という発言にリンチの瞑想愛を感じると共に、良い意味で適当(すぐに瞑想で例えちゃう。)なのが、より尊敬に値するなと思いました。

 と言う訳で本書の発売を記念して今回、大ヒットドラマシリーズ『ツイン・ピークス』を始めとした、デヴィッド・リンチ監督作品について紹介したいと思います。

『イレイザーヘッド』

 デヴィッド・リンチは「カルトの帝王」の異名を持つアメリカの映画監督です。

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 少年時代に画家である友人の父親のアトリエに遊びに行った経験から画家になる事を志し、美術学校で絵画を描いていた所、「この絵が動いたら面白いなぁ。」と思いつき、短編アニメーションを制作。

 作品が評価されて得た助成金でリンチは長編『イレイザーヘッド』の制作に着手し、5年の歳月をかけて完成させた。 

 有名なエピソードですが『イレイザーヘッド』公開初日、観客が不入でリンチは肩を落としたそう。次の日も同じ人数でガッカリしていたのですが、よく見ると全員初日のリピーターだった。

 このエピソードが象徴するように、後にカルト的人気を獲得し注目されたリンチは『エレファント・マン』の監督に抜擢され、その年のアカデミー賞にノミネート、現在の活躍に至る。

・絵画からの影響

 『夢みる部屋』の青春時代の章を読んで、僕の最も大好きな映画の一つ、『ブルーベルベット』はリンチの悪夢的半自伝作品だなぁと思いました。

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 表層的な話から始めると、リンチは画家を目指していたので絵画からの影響を強く受けている。『ブルーベルベット』では二人の画家の作品からインスパイアされたショットが散見される。

 その一人、エドワード・ホッパーは1930年代頃のアメリカの大恐慌を背景に、当時の市民生活をメランコリックに描いた画家です。特に『ナイトホークス』という作品は有名で、一度は目にした事があるのではないでしょうか。

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 この作品のように引きのショットで、絵のように人物が計算された配置でポツンと佇むカットが印象に残る。

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 リンチに影響を与えた二人目の画家はフランシス・ベーコン

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 この絵、何かを連想しません?

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 そう、あの言わずとしれた『エイリアン』のデザインを担当したH・R・ギーガーに影響を与えているのですが、リンチも多大な影響を受けており、

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 左がベーコンの絵で、右が『ブルーベルベット』の一場面。

 本作のみならず『エレファント・マン』に代表される、グロテスクに歪んだ人間の顔というリンチ作品に一貫して見られるモチーフは、ベーコンの作品から由来している。

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 ・デヴィッド・リンチから見た世界

 『ブルーベルベット』の主人公の青年は清廉潔白な好青年なのだが、謎の美女との出会いがきっかけで(その前に耳を拾ったりしますが笑)アブノーマルな世界に巻き込まれていく。

 デヴィッド・リンチがどの様に世界を捉えているのかが最も集約されている本作のオープニングをまず観て欲しい。

 晴わたたった青空綺麗な花のモンタージュ、不自然なまでに笑顔で手を振る消防士通学する子供達が道路を横断するのを見守る善良そうな大人、お茶をしながらテレビを観てくつろぐ老婆、その夫は庭で水撒きをしているのだが、急に首を抑えて苦しみながら倒れる。男性が倒れた原っぱにカメラがクローズアップしていくと、昆虫達が殺戮を繰り広げている。

 う~む、何とも象徴的ですね~。

 『ブルーベルベット』で映画史に残るキチガイ演技を見せ付けたフランク役のデニス・ホッパーは本作を「アメリカの分裂症をめぐるもの」と評している。

 因みにこのデニス・ホッパー演じるフランクというキャラクターが強烈で、「Fuck」が口癖(「Fuckに乾杯!」「ファックンロール!」「動く物みんなFuckしてやるぜ!」等)。女性をレイプする際、ガスを吸いながら股間を拝み、「ママ〜、僕ちんFuckしたいよ〜。」と言い、突然ブチギレたかと思うと、ベルベットを咥えながら女性の上で(服を着たまま)腰を振り、パンツの中で射精する。

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 デニス・ホッパーが指摘する「アメリカの分裂症」とは何を指すのか。それはデヴィッド・リンチが少年時代を過ごした1950年代のアメリカの欺瞞を意味しているのではないかと思います。

 ダースレイダーさんのYouTubeチャンネルで、ゲストとして出演していた映画秘宝のアートディレクターで映画ライターの高橋ヨシキさんが面白い指摘をしていました。

 それはリンチ作品の根底には冷戦時の核戦争の恐怖があるのではないかという事です。

・集大成!『ツイン・ピークス リターンズ』(2017)

 ジョージアのCMで本物のキャストとスタッフを起用して制作されたりする程、日本でも社会現象になった『ツイン・ピークス』の続編が25年ぶりに放映されました。

 『ツイン・ピークス』に関して僕は『ブルーベルベット』のドラマ版だと思っていて、まず主演が同じカイル・マクラクランであるという事。

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 また平和な田舎で巻き起こる殺人売春ドラッグなどの異常事態、その裏側で暗躍する邪悪な存在との対峙などの共通点があります。そう聞くと禍々しい怖いドラマかと思うかもしれませんが、実は松本人志が90年代に手掛けていたコントの様なシュルレアリズム・コメディでもあります。一つ一つ面白ポイントを上げていきたい所ですが長くなるので、ここは割愛しましょう。

 その最新作である『ツイン・ピークス リターンズ』の第8話が超衝撃的な展開でして...。

 ↑の動画をご覧いただけましたでしょうか?

 1945年の7月16日にアメリカ・ニューメキシコ州で行われた、人類最初の核実験を映像化した物で、不協和音の様なBGMは「広島の犠牲者に捧げる哀歌」というタイトルの楽曲。まるで『2001年宇宙の旅』のスターゲートの場面を彷彿とさせる映像です。

 『ツイン・ピークス』シリーズ最大の悪役、キラー・ボブというキャラクターがいまして、説明すると、この物語にはブラックロッジという、もう一つの邪悪な裏世界があるのですが、そこに住みつく悪の化身ボブがツインピークス(因みにタイトルは物語の舞台である町の名前です。)に住む善良な市民の体を乗っ取って悪さをするという訳であります。

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 そのボブが人類最初の核実験によって生まれたという壮大な話が、この『ツイン・ピークス リターンズ』第8話なのです。

 核実験後にアメリカは広島と長崎に核爆弾を投下、第二次世界大戦は終わり、リンチが少年時代を過ごした50年代に突入するのですが、古き良きアメリカと言われる、この時代の裏側では今以上に人種差別が存在し、女性社会的に抑圧され、旧ソ連とは冷戦状態で互いに核を突きつけ合っている状態でした。

  古き良き50年代の理想の様な暮らしの中で育ちながら、一方で当時のアメリカが背負っていた原罪を、時代の空気から察知していたリンチ少年の中で生じる自己矛盾が、もしかすると彼の作品郡の根底に流れているのではないでしょうか。

 もちろんリンチ作品は社会批評的な側面だけでは語りきれないし、リンチ自身も解釈を狭める様な事は嫌いなので、全部ひっくるめて瞑想による超越と同じだと思います。(適当)

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