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#40 『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』を読んでみて

こんにちは。なびです。

突然ですがみなさん、『運』を信じますか?

運、といってもあまりにも漠然としすぎていますが、例えば。

星座占いで1位だった日にずっと探していたものが見つかった、といった日常の些細な(当人からしたらそれは素晴らしい)運がある一方で、

故郷から遠く離れたハワイのビーチで初めて出会った二人が、実は腹違いの兄弟だったというドラマチックな奇跡に近い運もあります。

改めてみなさん、こういったことは『本当に稀で驚くべきことで意味や意義、影響、宿命を伴う事例』と思いますか?

それとも、『起こるべくして起こる。それはあくまで偶然だ』と思いますか?

今回紹介する本は、こういった古今東西の『運』をテーマに「統計的」な切り口で語ってくれるこの本です!


【読んだ本】『それはあくまで偶然です 運と迷信の統計学』
【著者 / 訳者】ジェフリー S ローゼンタール / 柴田裕之
【発行所】早川書房
【初版】2021年1月21日


ーーなぜ読もうと思ったか

端的に言ってしまうと、「タイトルに惹かれたから」です。ちょっと煽るようなメインタイトルと、『運と迷信の統計学』といった副題に目が付きまして、おなじみのジャケ買いをかましました。なので、前知識はまったくなく買ってみました。

データや統計に関係したところに身をおいている自分からしたら、運とか迷信とか、正直あんまり信用していないんだけど、なんか統計っぽさと語られている視点は普通に面白そうだなあという漠然とした予想を持って、本書を読み進めてみました。

ーーどんなことが書いてある?

この本はタイトルにあるように、運や迷信をテーマにした統計学がベースの読み物です。著者はトロント大学の統計学教授であり、アマチュアミュージシャン、コンピュータ・プログラマー、即興コメディ・パフォーマーといった顔も持つそうです。

本書の内容をざっくりと書くとこんな感じです。

統計の専門家が「運」や「迷信」に対して統計的アプローチで解釈するとどうなるか、といったことを実際にあった様々なエピソードを交えて展開されています。

例えば、冒頭で紹介した「星座占いで1位だった日にずっと探していたものが見つかった」といったエピソードについて、占いで1位だったことが本当に探しものを見つけたことに影響を与えたのか?こういうことを統計的に考察していく、そんな本です。

著者曰く、数学の大学教授の立場から「ランダム性」と「不確実性」についての知識と知恵を広めることに打ち込んでいるとのこと。本書の執筆もその活動の一環であるといいます。

本書に対する著者の思い、冒頭でこのように述べられています。

どうすれば、運をほんとうに測定したり評価したりできるのか?どの予測が正確で、どの予測がでたらめか、どうやって判断できるのか?何が何を引き起こしているのかを、どう突き止めればいいのか? 私たちの周りじゅうに見られるランダム性を、実際には何が支配しているのか、どんなふうにして特定できるのか?そして、これらいっさいを、いったいどうまとめたらいいのか?
運が働いているさまざまな例を考察し、運の意味(あるいは、意味の欠如)を整理してみたい。(中略)ランダムで無意味な運と、ほんとうに意味や意義、影響、宿命を伴う事例とを見分けるのに、どんな原理が役立つのか?私たちは、間違った結論を引き出すのを避けるために、どんな「運の罠」に気をつけなくてはいけないのか?原因があるときには、どうすればそれを見分けられるのか?そして、原因などないときには、どうすれば勝手な想像をしないで済むのか?
私たちは、どの幸運な出来事がただのまぐれで、どれが現実の科学的影響によって引き起こされたか、そして、どういう出来事には影響を与えられ、どういう出来事には影響を与えられないかを突き止められれば、もっと望ましい決定を下し、もっと理にかなった行動をとり、身の周りの世界をもっとよく理解できるだろう。

このような文章に少しでもドキッとした方、ぜひともこの本を読みすすめることをオススメします。後悔はさせませんよ。。


ーー印象に残ったこと

前述の通り、この本は様々なエピソードを題材にして「運」や「迷信」に対して疑問を呈しています。例えば、祈りや占いといった神秘的な力で幸運を手にした、といったものすごく表面的ですがよくある話、これに対して著者は

意味のないただの偶然という単純明快な説明は、はっきり言って退屈なのだ。胸が躍るようなところも、謎めいたところもいっさいない。魅力も面白味もない。満足も目的も与えてくれない。自分の意味や重要性も感じさせてくれない。それに比べると、カルマや宿命、運命や魔法には、はるかに多くの意味や重要性が感じられる。そして、人は身の回りの運やランダム性について考えるとき、それらには特別な意義や意味があってほしいと願う。

これは痛烈ではないでしょうか。。?

特別な意義や意味があってほしいという思いから、ただのランダムな出来事を魔法や超自然現象のように捉えてしまうという。

著者はまさにフィクション作品にある興奮と魅力のようなものと述べています。

フィクションは、ある種の運に満ちあふれている。けれど、それはけっしてただのランダムな運ではない。フィクションの運にはいつも意味がある。そして、魔法のような力が働く。

つまり、フィクション作品における「運」と現実世界をごちゃまぜにしてしまっている、と説いています。たまたま起きたことを「あ、これ奇跡かも、すごい!!」って思い、何らかの意味付けを行うのはフィクション作品に毒されている、なんて感じでしょうか。(やや乱暴かも)


運や迷信をテーマにした様々なエピソードをバッサバッサと切ってきた本書ですが、特に印象に残ったこととして、ある出来事が起こった時にどのような観点で判断するべきかをまとめています。本書では、射撃の名手を見極めるといった架空の話で説明されています。ある人が射撃のテストをして、的に当たった時にどういう可能性があるのか、を議論していると思ってください。

まぐれ当たり:射撃が下手なのに、1発撃ったらたまたま当たっただけ
散弾銃効果:実は散弾銃を使っていて、的には当たったけど大半は外れた
下手な鉄砲も...:何度も打ちまくってやっと的に当たった
大勢の人:素人1000人に撃ってもらい、当たった人だけをピックアップした
特大の的:実は的が非常に大きくなっていた。下手でも当たりやすいくらい
隠れた助け:かならず的に当たる特殊な銃を使っていた
偽りの報告:当たったというのは実は嘘だった
バイアスのかかった観察:特定の出来事だけ観察し都合の悪いことから目を伏せる

これらの項目は本書において「運の罠」と表現されており、様々なエピソードに対して有用な切り口として紹介されています。

例えば、故郷から遠く離れたハワイのビーチで初めて出会った二人が実は腹違いの兄弟だった、というエピソード。確率でいうと限りなく小さく、まさに奇跡と呼べそうな事象ですが、上に紹介した「運の罠」に照らし合わせてみると、

では、ここにはまったく運の罠がないのか? いや、じつはある。「下手な鉄砲も……」だ。アメリカには三億を超える人がいる。その多く(最低でも一〇〇万人は固い)には、何かの形で疎遠になってしまった近親が少なくとも一人はいて、その人にたまたま出くわしたら、とても大きな意味があり、特別だと感じるだろう。そして、その一人ひとりが、何をするかやどこを訪れるかについて、毎日無数の決定を下す。これらの一〇〇万組もの人のうち、そして彼らの人生のすべての日のうち、さらに彼らのあらゆる行動や動きのうち、あの腹違いの兄弟の、たった一度の場合に限って、特別な出会いが起こった。これほど多くの機会があるのだから、その驚くべき出来事も、偶然だけによって起こることは十分ありうる。

つまり、どういうことかと言うと、

腹違いの兄弟はだいたい100万組くらいの母数が存在しているため、数としてはそこまで少ないわけではないということ。

生まれてから死ぬまでのあらゆる行動の中で、ハワイのビーチで出会ったというたった一度の出会いがクローズアップさせただけであるということ。

以上の2点を考慮すると、実はそんなに確率は低いものでもなく、たまたま起こったことが起こるべくして起こる単なる偶然であると述べています。100万組が毎日無数の行動をしているのだから、どこかのタイミングで出会うことだってあるでしょう、と。



ーー本書を読んで

前述したように、本書は「運」といったものの特別な力というものに対し待ったをかけ、様々なエピソードに対して「それはあくまで偶然です」と突きつける内容でした。

一見、よく考えてみればそのとおりだと思う事象ばかりなのですが、実際自分の身の回りのことを考えてみると、「運」や「迷信」に囚われる経験がありました。なので、著者からの指摘が時折痛いほど刺さります。。

このように、統計的アプローチで切っていく姿を見ていると、あたかも運とか迷信とか信じてはいけないんだ、と解釈してしまいそうになります。しかし、それは本書の趣旨ではないことに留意すべきです(著者自身も「運」の存在は否定しきれていないのです)

もっと大事なことは「あらゆる事象に疑いの念を持つこと」だと思います。

奇跡、運命、魔法だとかの言葉で片付けるのではなく、実際のところそれは本当に意味があるのか、意味があったとしてどういうことなのか、ということを正しく判別することが重要である、と説いています。そして上で紹介した「運の罠」、これはあらゆるところに使える素晴らしい観点だと思います。これらを意識するだけでも情報に対する向き合い方や、正しく解釈するための道標にもなりうると感じました。

間違った結論を引き出さないようにするためには、物事を評価するための正しい軸でもって評価する。特に情報が蔓延する情報化社会の世の中は非常に重要なスキルと言えるでしょう。このあたりは以前読んだ『ファクトフルネス』にも通じるところがありそうです。

最後に、この本は統計がテーマであるにも関わらず、数式は一切出て来ず、軽快なタッチで書かれており万人に読みやすい本だと思います。統計って知っておいたらいいんだろうけどなんか難しそう、と苦手意識を持っている人には最初の取っ掛かりとして非常におすすめです。他にも、「運」や「奇跡」という言葉ってなんかあやしい、みたいなモヤッとした疑念を持っている人は、そのモヤモヤをスカッとしてくれると思いますw

注意点としては、奇跡体験を謳う某番組を楽しめなくなることでしょうか、、w


いつも読んでくださりありがとうございます!!!
それでは!!

TOP画像:Edge2Edge Media on Unsplash

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