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「NVICアナリストのつぶやき」第1回〜バイキンマンの憂鬱とライフ・シフト〜

皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。

今回から不定期シリーズとして、弊社運用チームのアナリストが綴るコラム「NVIC アナリストのつぶやき」をお送りします。

ここまで、弊社CIOの奥野の講義や対談を中心に、どちらかと言えば堅い内容をお届けしてきました。
本シリーズでは、弊社の若手アナリストが、日々の業務や日常生活の中で感じたちょっとした「気づき」を柔らかめの読み物として綴っていきます。

投資信託の「中の人」がどんなことを考えているのか、普段あまり触れていただく機会が無いと思います。本シリーズを通じて、弊社や「投資」をより身近に感じていただけるとうれしいです。

初回は、3人の子育てに奮闘中の岡島が、子育てのリアルな現場からあの国民的アニメのキャラクターについて考察しています。


「バイキンマンの憂鬱とライフ・シフト」

皆さん、こんにちは。NVICでアナリストをしている岡島と申します。

私には5歳、3歳、0歳の3人の子供がいます。一番下がまだ生後間もないこともあり、平日に十分な外遊びができない上の2人を、週末に1日遊ばせることが私の重要な日課(週課?)になっています。

近くの公園で遊ばせたり、ショッピングセンターに連れ出してみたりと工夫はするのですが、毎週となるとネタも尽きますし、私の体力にも限界があります。

せめて半日くらいは家の中で勝手に遊んでくれよと思うのですが、自分の好きなものを他の人とシェアしたいという現代っ子らしい欲求からか、家にいると彼らは録画しておいた「アンパンマン」を一緒に見ることを父に求めてきます。

アンパンマンのテレビ放送は昨年で30周年を迎えたそうですが、ご存知のとおり(?)、その基本的なストーリーは、主に食べ物をモチーフにしたゲストキャラ(先週は「いちごだいふくちゃん」でした)が作る食べ物を、トリックスターのバイキンマンが奪いにきて、ヒーローであるアンパンマンに懲らしめられる、という恐らく放送開始当初から何も変わっていないシンプルなものです。

子供たちは完全にこの丸顔のヒーローの虜なのですが、20数年ぶりに見る私としては、思いがけず敵役のバイキンマンに感情移入してしまいます。

それは、大人になり、「勝ち続けるだけが人生ではない」ことを知ってしまったから、という情緒的な理由からのみではありません。より現実的に、彼の置かれた境遇に同情を禁じ得ないのです。

まず第一に、あの世界にはお金の概念がありません

例えば主人公と暮らす「ジャムおじさん」はパンを生産し町の人へ配達していますが、その対価を受け取っている描写がありません。

その代わりに風車小屋の人(厳密にはヤギ)から小麦粉をもらったり、農家の人(同じくクマ)から野菜をわけてもらっています。

循環型の物々交換で経済が成り立っていると考えられます。

第二に、世襲制の問題です。

作中まれに親子関係や兄弟関係が描かれることがありますが、みな同じ食べ物をモチーフにしています(「ドーナツマン」と「ベビードーナツ」、「鉄火のマキちゃん」と「コマキちゃん」など)。

つまり、あの世界には職業選択の自由がないということです。

いちごだいふくちゃんとして生まれた以上、苺大福を作って、その材料を含む他の物と交換してもらうしかないのです。

……感じていただけたでしょうか。

「バイキン」として生まれてしまったが故に、奪うことでしか糧を得ることができない彼の哀切なる胸の内を。

しかしながら、武力をもって奪うというビジネスモデルは、より強い力を持つ反対勢力が存在している以上、持続可能なものではありません。そこで、誠に勝手ながら、今後の彼の生きる道について考えてみたいと思います。

まず思いつくのは機械の提供です。

彼はトンカチ1つで空飛ぶUFOを作ってしまうなど、非常に高い能力を持つエンジニアです。

例えば先に登場した農家のクマは、鍬で畑を耕す一方、しばしば作物を積んだリアカーが重すぎて坂道を登れないというトラブルに陥っています。

バイキンマンの技術力を活かして、農耕機械や運搬機械を提供すれば、大いに喜び野菜を分けてくれるでしょう。(ただし、リアカー押しを手伝うことで人々の信頼を勝ち得ている例の丸顔Guyの怒りを買う可能性はあります。)

更に人的ネットワークの活用を組み合わせることで、レバレッジすることも期待できます。

あの世界にも何故かバイキンマンのことを嫌わない、むしろ積極的に慕う人々が少数ながら存在します(「プリンちゃん」や「おしんこちゃん」など)。

彼女たちに生産設備を提供し、プリンや漬物の工業生産を行えば、生産量は飛躍的に上がり、より多くの物と交換できるでしょう。


さて、「バイキンマンなんかどーでもいいわい」とお思いの皆様、そのお気持ちはごもっともではありますが、必ずしも他人事ではないかもしれません。

ベストセラーになったリンダ・グラットン著「ライフ・シフト(原題:The 100-Year Life)」によって、「人生100年時代」という言葉があちこちで聞かれるようになりました。

同著によれば現在30歳前後の方は50%の確率で98-100歳まで生きると予想されるそうです。そうなると、これまでの教育→仕事→老後という3ステージ制の人生モデルは描きにくくなります。

引退後の貯蓄取り崩し期間が延びることで、年金以外に何らかの収入源を得ることが必要になる可能性もありますし、経済的には十分な貯えがあったとしても、十数年ならまだしも30-40年に渡る老後に何もしない訳にはいきません。

いまの仕事を離れたときに、取り組むことができる「何か」が見つかるかどうかは、晩年の人生の豊かさを左右しそうです。

これに対して同著は、心身の健康(活力資産)に加え、生産性資産(スキルや知識、仲間、評判)と変身資産(多様な人的ネットワーク、柔軟な姿勢)が重要だと説きます。

変化を伴いながら100年を生き抜くことを考えたときに、先に見たバイキンマンのような能力人脈を築くことができているかどうか、一度、有形・無形の資産を棚卸しされてもいいかもれません。


蛇足ですが、私個人的には、同著は、長寿化というマクロ的には確実でも、個人レベルでは不確かな現象に目を向けすぎているとも感じており、あまりその不安に囚われすぎたくはないというスタンスでいます。

すなわち、将来に向けた資産を築くべくコツコツと投資しつつ、今しかできないことこそを大事にしていきたいと考えています。

そのような思いから、今日もエンディングの「アンパンマン体操」を踊り狂う子供たちを、死んだ目……もとい、目を細めて見つめるのです。


(担当:岡島)