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NVICアナリストのつぶやき第11回 「国見という存在」

皆さん、こんにちは。NVIC note編集チームです。

今回のアナリストコラムは、チームきっての体育会系アナリスト友野が考える「強い組織の作り方」についてです。
前回のコラムの緩さとのコントラストもお楽しみいただきつつ、実はそこに通底する「上司いじり」を可能とする弊社のフラットな文化を感じてください。

国見という存在

偶然なのか、あるいは必然的に巡り合ったのか、弊社の投資チーム12名のうち6名がサッカー経験者です。

その中でも傑出した経歴を持つAさんは、強豪ひしめく福岡で、地元で知らぬ人はいないほどの有数の選手として、強いフィジカルを武器に元日本代表のB氏(トルシエ監督に召集され活躍)ともしのぎを削りあった猛者です。当時、B氏の学校との試合がはじまると、そのマッチアップ見たさに、複数ある他のコートからも観客が一斉に集まってきたとのことです。

そのAさんは、投資チームが困難に直面し、停滞した空気が流れるようなときに、士気を鼓舞するべく、決まって語気を強めて口にする言葉があります。

「国見のやつらを見習ってほしい。あの坊主頭は一日中走っている。試合中ずっと走っている。試合と試合の間も走っている。試合の後も走っている。あいつらは絶対に球際を諦めないからな。」

それを聞いている人たちは一様に分かったような、分かっていないような複雑な表情を浮かべているのを横目に、私はひとり奥歯を噛みしめて、あと少しで口から出かかった言葉を飲み込みました。

「知っています。」


国見。
同校を何度も全国優勝に導いた元監督小嶺氏の著書『国見発サッカーで「人」を育てる』によると、やはり「走ること」の重要性が強調されています。

「教え子が集まると昔の練習の話が出ます。一番よく聞くのは、学校から往復12キロのランニングをさせていたことです。雲仙の普賢岳が噴火を繰り返し、溶岩が塊になったところを焼山(やきやま)と呼んでいたのですが、学校からそこまでのアップダウンの道のりを黙々と走らせました」

※ただし、「その後、三十数年間指導者を続けてきて、ずいぶん私の指導方法も変わりました」とも述べられている。

実際、同著中に「国見高校の選手が後半戦にも強い理由」として、長崎大学教育学部の田原教授(運動生理学専門)が、8年間にわたって1,000人以上の県内の優秀スポーツ選手(陸上、サッカー、バレーボールなど)の身体能力について測定した結果、国見高校の選手は、最大酸素摂取量、最大酸素負債量、最大無酸素パワーの数値量が特に高く、「国見の選手には短距離選手と同じようにスピードとパワーがあり、さらにマラソンランナーのような持久力があると証明されました」と評されています。

・・・我を忘れてそんなことに思いを巡らせて、気が付けばひとり拳を握り締めて異様な空気を発している私の姿に、Aさんは気付いていないふりをされているようでした。

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この国見の話を聞くたびに、思い起こすもう一つの話があります。

半導体製造装置メーカーの株式会社ディスコの関家社長が2018年7月に、京都大学の弊社寄附講義で講演された際に、紹介された「あいさつ一級」の取組みです。

「内的動機経営」という大きなテーマでお話され、社内通貨「Will」などさまざまな独創的な取組みのなかのひとつの事例として紹介されたこの活動が、私の心を鷲掴みにしました。

同社では「あいさつ一級」のスローガンの下でみんなが、従業員同士、訪れた取引先の方々に元気よくあいさつすることを徹底されているそうです。

たかがあいさつひとつでと侮ることなかれ。
あいさつをするだけで従業員満足度が向上する(自分は組織に受け入れられているんだと感じるそうです)とともに、同社の工場を訪れた取引先の偉い方々はそのあいさつに感激し、「ここまで徹底するなんて本当にすごいですね。こんな徹底力がある会社の製品は間違いない。御社にします。」となり、会社に帰ってからも、「ディスコの工場を見てきた。あの会社、すごいぞ。あの会社と付き合わなきゃだめだ。」と部下に伝わって、評判が全社に轟くことになるそうです。

この二つの話の共通点としてひとつのキーワードが思い浮かびます。「ブランド」です。

20年を超える月日を経ても色あせることなく、Aさんというひとりの男の脳裏に焼き付いて、それが周囲に伝播している、「走る坊主頭=国見」というイメージ。

そして、実際に企業の収益を高めた、「あいさつ=ディスコ」というイメージ。これらは紛れもなくブランドと言えると思います。

一般的にブランドを形作るためには、広告宣伝など金銭的な投資が必要となります。人々の関心はうつろいやすく、継続的に莫大な金額を投資しなければ、ブランドはブランドとして維持されず、だからこそ、寡占が進んだ消費財の分野では特に、このブランドが参入障壁として機能します。

走る坊主頭とあいさつ一級のブランドは、金銭的な投資によるものではありません。伝統といえるほどに当たり前に定着した人の営みであり、集団がひとつの方向にポジティブなエネルギーをもって突き進んだ結果です。そこに強い組織づくりのあるべき姿が見出せると思われました。

例えば、現在多くの会社が取り組んでいる「働き方改革」の下では、どうしても労働時間の削減や労働条件の制度設計など、画一的なダウンサイズや労働者の権利保護に議論が偏りがちですが、それらと合わせて、自分たちが何をもってエッジを立てるのか、会社が歩んできた歴史や、強み、こうありたいという姿を踏まえて明確にし、そこに限られたリソースを集中させるような取組みが必要だと思います。

もちろん前提として国見もディスコも卓越した技術そのものがあるわけですが、「走る」や「あいさつする」など、身近で前向きなものを徹底しながら組織の団結力を高め、あわせて技術を向上させることにより、周囲の関心と支持の輪が組織の内外に広がり、個々人は喜びを感じる、組織も成長する、という理想的なサイクルがあるような気がします。

どんなに疲れていても走る、とか、どんな人にもどんなときにもあいさつする、というのは単純であってもとても難しいことでもあり、強いリーダーシップと個々人の努力が必要だと思われます。

私もその最後のひと踏ん張りや、思い切りを当たり前のようにできるような人間になりたいです。

押忍!

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(担当:友野)