みたものの記録『哀れなるものたち』
すごく、よかった。
たしか『君たちはどう生きるか』のときにも書いた気がするが、物語やフレームに余白があるようなものがどうにも好きなんだと思う。
『君たちはどう生きるか』では無数の時間軸だったり画面外の世界が広がっていることが楽しかった。この『哀れなるものたち』は見せられたものだけ追っているとよくわからないけど、たぶんカメラの外でいろいろ経験したんだろうな、という感覚がある。
例えばベラが最初にロンドンにいたころは、捕まえたカエルをすぐ殺そうとしたり、船の上で酔っぱらったダンカンがマーサを殺そうとしに行くときも嬉々として付いていく。一方でアレクサンドリアではスラムで子供たちが地面に突っ伏して死んでいく様に痛く感傷的になりお金を手放そうとする。一瞬はてなが浮かぶが、おそらくマーサ達とのふれあいによって何かが変わっていっているのだと推測ができる。
そもそも船では寄港地が明示されているのになにも触れられないところがあり、確実に映画にまとまっているのは旅のごく一部でしかないことがわかる。
背景も、どこをとっても綺麗だ。技術的な面から過去のようだけれども、とはいえ歴史的な風景ではない。エンドロールの背景で見せていたように、美は細部に宿ることを大事にしているんだろうな、と思う。
佐久間宜行がラジオでこの映画に触れたときに「マジックリアリズム的だ」と言ったのはこの辺りが意識されているんだろうか。とはいえ私ならこの映画はマジックリアリズムではなく完全なファンタジーだとカテゴライズする。
いま調べて知ったのだけどこの監督『ロブスター』の監督なんだなあ。どちらも好きだ。
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