ハートと脳みそ

　久しぶりに映画『オズの魔法使い』を見た。

子どもの頃から大好きなファンタジー映画で、これまでも何度も何度も見てきたお気に入りの映画。あれが1939年の制作とは思えないパーフェクトに可愛い。

家に帰りたい主人公のドロシー（と愛犬トト）と賢さが欲しいカカシと、ハートが欲しいブリキ男と、勇気が欲しいライオンが、エメラルドシティにいる魔法使いのオズにそれぞれの「お願いごと」をしに行くというおなじみのストーリー。

このお話し大好きなんだけど、彼らの「お願いごと」には昔から少し違和感があった。

ドロシーはまあ別にいい、帰宅したいという願いだからとても現実的。

ライオンもまあいいと思う。
愛とか勇気とかは経験して自覚するものだし、それ以前に生命として完全に存在できているからこその望みだと思う。

でも、カカシの「脳みそ」とかブリキの「心臓」っていう願いはなんなんだ。
これはそもそも生命体として必要な臓器ってことになるんだけど…。

カカシもブリキもライオン同じく喋ったり感動したりしてるじゃないか。

百歩ゆずって、脳みそは「思考、心臓は「ハート（感情）」だとしても、カカシとブリキは考えてたし喜怒哀楽を表現していた。それでもう十分でしょう？

そして、それが「生きてる」ってことなんじゃないのかね、人間みたいに。

じゃあ「生きてる」ってどういう状態のことを言うんだろうか。

二人は思考もハート（感情）もないと思いこんでいただけ。
ないと思いこんでいて探しに行くという、人間の自分探しの探求そのものだ。

子どものころは「フィクションだし」と思ってそれ以上考えなかった。

でも、今は本当に疑問に思う。考えれば考えるほど、常識の中にいろんな矛盾があることに気づく。

生きている感覚ってやっぱり「生きているっていう意識」そのものなんじゃないのかな。

臓器は身体に対してそれぞれの役割を機能しても、臓器自体に「意識」はないとされている。

だって脳みそ単体では思考はできないし、心臓単体では動悸は起きない。実は臓器は関係なかったりする。これ一体どういうわけ。

じゃ「意識」はどこから来るんだろう。

じゃあスマホの体を借りて喋るSiriは？人工知能はどう説明するんだろう。あれには確かにハートはなさそうだけど、合理的にしっかり「思考」はしている。

そして「意識」はなさそうだ。じゃあ「意識」と「ハート」は同じものなのだろうか。

何かを感じる「気づき」が「意識」であり、「ハート」であると言うことなのだろうか。

私はどう言うわけだかカタツムリを飼っている。

ひとり暮らしなので、同居している生物となんとか仲良くなれないものだろうかと観察してみると、たまにニュ〜っと目をのばしてこっちを振り向くような素ぶりをする。
寄生獣っぽいけど慣れてみるとなかなか可愛い。と言うわけでミギーと名づけた。

そのカタツムリのミギーには安定した形態がない。
安定しているとすれば殻くらい。本体は伸びたり縮んだりする。まさに変化の塊、謎の生命体だ。

安定した肢体もないし、脳も心臓もないし、胃袋らしきも腸もないし、骨もない。ほとんど水分でできているのに、動いて食べて排泄して睡眠をとる。

それらは生命体としての本能や反応かもしれないが、ミギーは間違いなく生きている。
今日も元気にキャベツを食べて水槽内をすいすい動いている。

思考しているのか感情があるのかはよくわからないけども、あれでも何かしら考えて動いているんだからすごい。

「意識」が動かしているのだろうか。オズのみんなと違って動力が脳でも心臓でもないことは確かだ。

カタツムリは殻をもった有機生命体だけど、これから先、AIやロボットのような無機質の機械が「思考」し、命令なしに自ら動くようになったとしたら？

そこに生まれるのは「意識」なのだろうか。それとも「自我」なのだろうか。

生命体の定義は何なのだろうか？

ミギーを見ながらそんなことを考えていたら、アマプラのおすすめに「攻殻機動隊」があがってきた。
甲殻違いだけども。

このアニメもすごいのよ、そのコンセプトやプロットなんかが。

映画マトリックスのウォシャウスキー（シスターズ）監督に影響を与えたっていうだけある。押井守監督ってすごい。

ここでもテーマは「生命体の定義」

「意識」ってなんだ。「ハート」ってなんだ。「自我」ってなんだ。

非二元のスピーカーたちが言う「自分（あるいは個人）」とはやはり勘違いなのだろうか。

生命体の定義を考えるより、非二元の「自我そのものが勘違いだった」と言う全く真逆のメッセージの方が私にとっては合点がいく。

◆

というわけで、今回は「オズの魔法使い」からブリキ男とカカシのイラスト。
彼らの大いなる勘違いはもしかして人類全体の勘違いかも知れないのだから。

何となくライオンは描かなかった。
勇気があろうとなかろうと特に問題はなさそうだし（自我的な問題はあるけど）

意識や魂や生命体について思うことはべつの記事に。