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『小さき者へ』有島武郎

人の親でない私が目に涙をいっぱい溜めてこらえながら読んだのだから、子を持つ親ならなおのこと胸に込み上げるものがあることだろう。これは作者である有島武郎が愛する妻を結核で亡くした際に、まだ幼い3人の我が子に向けて書かれたものである。
有島は本作で「何故二人の肉慾の結果を天からの賜物のように思わなければならぬのか」と正直に自身の気持ちを述べ後悔にも似たことを記している一方で「斃(たお)れた親を食い尽くして力を蓄える獅子の子のように、力強く勇ましく私を振り捨てて人生に乗り出して行くがいい」と我が子を鼓舞し「小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は長い。そして暗い。しかし恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ」と未来の成長した我が子に熱いエールをおくっている。
人の親とはなんともか弱きものか。
我が子の未来を切に願うしかなく、時には見守ることすら叶わない。
しかしその愛情は海より深く、太陽のように暖かい。最後に有島の妻安子の歌ををここに記す。

「子を思ふ親の心は日の光世より世を照る大きさに似て」

『小さき者へ・生まれ出ずる悩み』有島武郎


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