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『私たちは銀のフォークと薬を手にして』島本理生

🍴あらすじ🍴
残業も休日出勤もいとわない仕事熱心なOLの知世。そんな彼女の楽しみは、仕事で出会った年上のエンジニア・椎名さんとの月二のデート。江の島の生しらす、雨の日の焼き鳥、御堂筋のホルモン、自宅での蟹鍋…。美味しいものを一緒に食べるだけの関係だったが、ある日、彼が抱える秘密を打ち明けられる。行方のわからない大人の恋を描いた恋愛小説。─本書あらすじより

🍴感想🍴
「大人になるって、この人を好きになると思わなかったっていう恋愛が始まることかもしれない」の一文を読んで、本当にそうなのだろうか?と訝しむ私がいた。だって、やっぱり外見や年収がいいに越したことはないし、自分の人生を彩りたいから。でも、本書を読み進めていくうちに、そんなことはただの幼稚な幻想で、自分はまだ”愛する”ってことを知らないんだ、って思い知らされた。格好つけて、見栄張っていた"何か"が音もなく崩れたのは「薄々わかっていた。年収じゃない。顔でもない。いや、外見はちょっと大事だけれど、それよりも必要なもの。それはなに一つ特別じゃないわたしと向き合ってくれる、関心と愛情」の一文だった。
まさにそのままで、30代にもなるとだんだんわかってくる。何一つ特別じゃない私に関心を寄せてくれる人こそが、本当に自分が欲してる人なんだって。
一緒に美味しいものを食べて、自然と笑みがこぼれる人。呼吸で上下する胸を見ながら、健やかな明日を願う人こそが、きっと本当に大切な人なんだ。
でも、必ずしもそれがマストな訳じゃない。

結婚したい人、事実婚がいい人、そもそも興味が無い人、それさえもかなわない人…色んな人がいるんだってわかった。
特に、結婚にこだわる自分を一度解放してあげないと、この先私は自分を見殺しにしてしまうだけだと思った。
結婚だけが全てじゃない。そう、わかってはいるものの、振り切れない30代の性が、焦りを助長させる。

色んな人がいるんだと。そして、どんな人だって関わるのは難しいことなんだと、実感できた一冊だった。
30代にこの本に出会えて、よかった。
何ひとつ特別じゃないわたしが、いつか、誰かの特別な人になれますようにと願いながら、今日は眠ろう。
未来の自分のために。


『私たちは銀のフォークと薬を手にして』島本理生


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