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するめなことば・その4

噛みしめればまた違った味わいがある、愛すべきことばたち。
またまた今回も前回に引き続き、ことばを並べて愛でてみることにしよう。

「いやいや、危うく押し出しになってしまうところでした」

職場に異動してきた同僚のことば。自己紹介の直後、緊張のあまりに段差でつまずいて転びそうになったが、近くの人が支えてなんとか事なきを得た、そのときの発言。

どうやらこの同僚はかなりの相撲好きらしく、日常における出来事を何かと相撲にたとえたがるのだ。
「同じ土俵に立ってないじゃないですか」「一人相撲はなはだしいですね」など、さもスマートに高等なギャグをかましてやりましたわ、とでも言いたげに、涼しげな面持ちで相撲ギャグを言ってのけるのがなんとも腹立たしい。塩もってこい、塩。

「あそこの焼き鳥、そんなにおいしくないよ。焼いてるのも豚の臓物みたいなやつばっかりだし」

近くに住んでいながらなかなか会えなかった友人と久しぶりに再会し、近所のスーパーの前に時たま現れる焼き鳥屋のワゴン販売について聞いたところ、友人が発したことば。
「ホルモン」といえば聞こえがいいけれど、「豚の臓物(ぞうもつ)とひとたび言い方を変えただけで、かなり印象が変わるものである。
焼いているのが臓物みたいなやつばっかりだから、だからなんなのかは明確に言語化できないのだけれど、そのニュアンスから言わんとすることは自然と伝わってくるおかしみがあった。

「あなたのその手で、この家の壁紙を救ってあげてください!」

数年前に結婚をした友人が、ついに家を建てることになった。
数件の家を内見しに行った際、何軒目かの物件の案内を受けていた友人。その物件はまだ建設途中で、壁紙が貼られていない状態だった。

案内してくれた業者いわく、オーナーが独特なセンスの持ち主で、このままだとものすごく奇抜な壁紙を貼られてしまうらしいとのことだった。
タブレットで見せてくれた完成予想図を見ると、たしかにどギツイ壁紙が貼られた邸宅は目に毒で、もっと他の物をチョイスしてあてがってやりたくなる様子。
そこで業者が発したのがこのことばだ。

「このままでは、この家はとてもかわいそうな末路を迎えることになります。どうかあなたのその手で、この家の壁紙を救ってあげてください!」

その口説き文句にぐらりと心が揺れてしまい、友人はその物件を購入することに決めたそうなのだが、本人がしあわせそうだったので、その業者のセールスに関する余計なことは、私の口からは何も言うまいと思った。

「シンドバッドむりなんですよね。だってあいつら目ぇキマってるじゃないですか」

いつも通っている美容院のギャルのことば。
ディズニー好きの彼女は、絶叫系も3Dもなんでも乗ることができるそうなのだが、唯一乗れないアトラクションがあるらしい。
「シンドバッド」というのは、歌や音楽が流れる中、人形たちが登場し、船のような乗り物でのったりと進んでいくアトラクションの俗称である。
そこに登場する人形たちの目が彼女いわく「キマっている」ように感じられ、それだけがどうにもNGなのだそうだ。
感じ方はひとそれぞれ。とはいえ、このワードセンスにはなかなか光る物を感じてしまった。


「あーしも、なんとかかんとか賞てきなやつほしいな」

職場の同僚の、わりと体育会系なギャルが発したことば。
上司が功績を讃えられて、とある表彰を受けていたのだが、その直後の発言である。
ちなみに、賞状のみで特に賞金や副賞などはないと知ったあとには、
「まじっすか。じゃあいらないわ。あ〜。カネほしい、うまい肉がたべたい!!!」
とのたまっていた。そのすこやかさに、なんとかかんとか賞てきなものをすぐにでも授与して差し上げたくなった。


「なにいっちょまえに人生楽しもうとしてんだよ、ドジのくせに」

以前、私が妹と通話をした際に、「最近サイゼリヤのメニューでアイストローチっていうおいしいやつがあってさ」と伝えたところ、「アイストローチってそれ、のど痛い時になめるあめじゃん」と言われ、正しくは「アロスティチーニ」という名称であることを指摘された。
まあ誰しも言い間違えはある。アロスティチーニは羊肉を串焼きにしたもので、それがあまりにもおいしかったので家で再現できるレシピがあって、という話題を私が持ち出して、話は流れていった。

それから、話題はハーブティーへと移った。ストレス軽減にはハーブティーがよいという噂を聞いたので、先日私がネットで購入したものが信じられないほど不味くて、でも捨てるのもしゃくなので、ティーパックをさっと湯通しする程度ですぐに引き上げて、鼻をつまみながらなんとか飲み、少しずつ消費しているが、飲んでいるものは実質、ほとんど白湯であるという話をした。

するとそこで通話相手の妹が涙混じりに爆笑をし、
「なにいっちょまえに人生楽しもうとしてんだよ、ドジのくせに。やれラム肉を焼いたり、やれ紅茶をいれようとしたり……ドジなやつは生姜焼きを焼いて日本茶を飲んでりゃいいんだよ」
とのたまった。
反論の余地もなかった私は、おとなしくくそまずいティーパックをすべて捨てて、スーパーで買ってきたペットボトルの生茶(2L)をコップに注いで毎日のんでいる。そして慣れない横文字は使わず、「羊の肉を串にさして焼いたやつ、あれ美味しいよね」などと言って事なきを得ている。

日本語って難しいなと、つくづく思う今日この頃です。


するめなことば。
またひかる言葉たちに出会えたらお会いしましょう!