粗忽ぬめり

エッセイや小説を気ままに書いています。

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  • するめなことば

    妙に印象深くて、味わい深いことばたち。 噛めば噛むほど味のある、愛おしいことばたちをあつめた記事です。

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【プロフィール】粗忽ぬめり について

●ペンネームの由来「粗忽ぬめり」(そこつぬめり)と申します。 ・「粗忽」とはそそっかしい、おっちょこちょいな様子を表すことばです。好きな落語から名前を付けようと思い、古典落語にたびたび登場する「粗忽者」というキャラクターから名付けました。粗忽者はいつも間抜けで失敗ばかり、だがどこかにくめない人間らしさがあるキャラクター。日常にあるささいなイライラを笑いに変えられるようになりたい! というささやかな願いをこめております。 ・「ぬめり」はその名のとおり、ぬるぬる、ぬめぬめとし

    • 「ペイペイ」に負けた

      以前PayPayを使いたくない、という旨の記事を書いた。 理由は簡単。「名前が軽すぎる」からだ。 金銭の授受を任せるにしては、どうにもこの「ペイペイ」という名前の語感が軽すぎるように感じる。 だから私はPayPayを使わない。 これからも意地でも使わんぞ、という内容だった。 時の流れは恐ろしいもので、あれから2年が経った。 結論から申し上げると、私はいま、PayPayを使い倒している。 しかもPayPayにのみ対応しているから仕方がなく、という感じでは断じてない。 他に支

      • 【小説】「nullに接続しました」⑴

        あらわれた通知をクリックすると、メッセージが表示された。 ”センセイ”からぼくに宛てたメッセージだ。 むずかしい言葉が並んでいるけれど、さっき提出した「宿題」について、もう一度出し直さなきゃいけないことには変わりないみたい。 ところで「汎用性」ってなんだろうか。……ぼつようせい? そう思ってキーボードを叩いてみたけど、うまく変換されなかった。 メッセージをコピーして検索してみると、どうやら「はんようせい」って読むらしい。 『様々な用途に利用したり、適用したりできること』だ

        • 【小説】ナツメグ

          スリッパをぱたぱた鳴らしてキッチンへ向かう。 チャイティーのパックを取り出して小鍋に入れ、火にかける。ふつふつと小さな泡が立ち始める。 私はそれを見ている。 ただ、じっと見つめている。 ぐらりと水面がゆれた。スパイスの香ばしいにおいが立ち登り始める。 もうそろそろ彼も起きてくる時間だろうか。 キッチンのシンクに、汚れたままの皿が置き去りにされている。皿の中に浮いた脂が、差し込む陽の光に照らされて、ぬらぬらと光っている。 照り返した水面はちかちかと光る。思わず眉を寄せた。美

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        • するめなことば
          4本

        記事

          連帯

          とあるチェーンのファストフード店へ入る。 昼時でそれなりに混雑していたが、カウンター席は全5席で、両端だけが埋まっている。両側ひと席ずつ空いているとうれしい。会計が終わったらあの真ん中の席に座ることにしよう。 ここ数年の「ディスタンスこそ正義」という風潮から、近頃では真隣に見知らぬ人が座ることにいささかの抵抗を抱くようになってしまった。もちろんそれは、そこまで大きなものではない。ただ「近いな」とか、「隣に人がいるなあ」とか、わずかに、でも確かに感じる程度のものである。 レ

          妖怪!めし食わせばばあ!

          人がめしを食っているのを見るのはうれしい。 特に親しい人が相手ならなおさらだ。 何故かはわからない。でもとにかく、うれしくってたまらないのである。 先日、久しぶりに高校時代の友人と再会した。 先に合流した友人と共に、もう一人の友人を待ちながらお茶を飲んだ。 こんなふうにゆっくり語らい合うのは、一体いつ以来のことだろうか。 互いの近況について伝え合う中で、以前わたしが若いやつにめしをたらふく食わせたときの話をしたのだった。 当時のことを思い返しながら友人に語る。 その時わた

          妖怪!めし食わせばばあ!

          「具」

          年度末の忙しさにすっかりやり込められてしまって、ドタドタ、ダバダバと駆けずり回る日々が続いている。 3月。なんでこんなに慌ただしくてせわしないんでしょうね。 冷静に考えてみれば、3月ってやつは1年間のうちのただの1ヶ月にすぎないはずなのに、たまたま年度の末に位置しているというだけで、ちょっと調子に乗りすぎではなかろうか。 3月に、あとで体育館裏に単独で来てほしい。 わたしの前に正座をさせて、「一気にいろんなこと詰め込みすぎ!日頃からちゃんとコツコツやんなさいよ!」と、こん

          テーピングテープ

          この年になって久しぶりに転んでしまった。したたか酒を飲んで酔っぱらっての失態なのだから、お恥ずかしい限りだ。見ると傷はかなりの深さだった。 急いでドラッグストアへ。ガーゼと薬と、それから仮止めできるようなテープを求めて棚に目をやれば、そこに並ぶのは数種類のテープたち。 価格やサイズなどを見比べていくと、ふいにある商品に目が止まった。 「テーピングテープ」 そう書かれたパッケージ。 おもわず声に出して読みたくなる音の響きだ。 動名詞と名詞がならぶ、くすぐったいような字面で

          テーピングテープ

          知らねえ舞台、知らねえ黒服。

          少し前に、知人が出演したバレエの舞台を観に行った。 久しぶりに観るバレエで、知人が登場していることもあって感動もひとしおの、すばらしい公演だった。 ところがすべての演目が終わったあと、ラストに黒服を着た2人の女性がいきなり舞台に登場してきた。 デン!というSEと共に、スポットライトが2人を照らし出す。 続く司会者によるアナウンス。どうやらこの2人は、今回の公演を取り仕切っている指導者らしい。 そうした紹介でその日の公演は幕を閉じた。 公演終了後、一緒に観劇に行っていた妹が

          知らねえ舞台、知らねえ黒服。

          パンはパンでも食べられないパンってな〜んだ?

          少し仕事が落ちついたので、久しぶりに料理教室に通い始めた。あるレッスン終わり、講師の方に 「あっ!ちょっとお時間あります?」と呼び止められた。 「たったいまちょうど、パンが焼けたところでして!」と言う講師。鼻をひくひくさせてみると、たしかに焼きたてのパンのいい匂いがする。そういえばパンのレッスンは数年前に数回受けたっきりで、それ以来からっきしだった。 講師に連れられて焼きたてのパンの元へ向かった。 オーブンから上げられたばかりのほかほかのパンたちが並べられている。 ふわふ

          パンはパンでも食べられないパンってな〜んだ?

          するめなことば・その4

          噛みしめればまた違った味わいがある、愛すべきことばたち。 またまた今回も前回に引き続き、ことばを並べて愛でてみることにしよう。 職場に異動してきた同僚のことば。自己紹介の直後、緊張のあまりに段差でつまずいて転びそうになったが、近くの人が支えてなんとか事なきを得た、そのときの発言。 どうやらこの同僚はかなりの相撲好きらしく、日常における出来事を何かと相撲にたとえたがるのだ。 「同じ土俵に立ってないじゃないですか」「一人相撲はなはだしいですね」など、さもスマートに高等なギャグ

          するめなことば・その4

          【小説】日雇い稼業

          新しいステレオデッキを手に入れた。左右のスピーカーから音が出力される高級品だ。左が山口さん、右が後藤さん。それぞれ日給8,000円。昼食付。交通費全額支給という高待遇。 以前使用していたデッキは、左右ともにそれぞれ日給5,000円で食事なし、交通費は1日500円の定額支給だった。比較してみると、今回の待遇がどれだけ手厚いものかお分かりいただけることだろう。 音さえ出ればいいと割り切ってみれば、安価なものはいくらでも見つかる。しかし安かろうは悪かろうというのは本当で、悪条件

          【小説】日雇い稼業

          ファイリング・マトリョーシカ

          「クリアファイル収納ファイル」というものがある。 アニメや漫画、アイドルなどのグッズとして発売されているクリアファイルを、ファイリングして保管・鑑賞するためのツールだ。 この場合の「クリアファイル」とは名ばかりで、実際にはそこに印刷された絵柄や写真を楽しむためのものであるのだが、あくまでその本来の用途は「ファイリング」であるから、そのサイズはA4サイズよりも少しだけ大きい仕様になっている。 従ってクリアファイル収集家たちが、「ファイルをファイルしたいわ〜」と思い立ったとして

          ファイリング・マトリョーシカ

          「ペイペイ」では軽すぎる

          スマートフォンにとことん頼りっぱなしだ。 単なる電話としての役割以上に、アラーム機能だとかマップ機能だとか、日常生活におけるありとあらゆる場面で頼りまくっている。 中でもICカードをはじめとする電子決済の機能はとてつもなく便利だ。 もはや財布を持ち歩かなくても買い物をすることができる、そんな手軽さに助けられている。 しかしこうした機能が導入された当初は、なかなか使う勇気が出なかった。 ……というのも、あまりに手軽すぎるからだ。 「金銭の支払い」という行為には多大なる信用が

          「ペイペイ」では軽すぎる

          するめなことば・その3

          噛めば噛むほどおいしい味がする、愛すべきことばたち。 またまた前回に引き続いて、いくつか並べて愛でてみることにする。 職場の同僚のことば。わたしの隣の席に座っている彼女はかなりのベテランで、業務に関する知識と経験はすばらしいものの、電子機器類の操作が苦手だった。 とりわけパソコンに関する知識や操作が振るわないため、操作の仕方を教えたり作業を手伝ったりして差し上げていたのだ。 そこで彼女は言ったのだ。「なんかほんと、介護施設みたいに色々やってもらってごめんね」と。 いつもお世

          するめなことば・その3

          「知人」と「友人」のはざまに

          こうしたエッセイじみたものを書いていると、他者との会話や、そこで起こったできごとなどを引っ張ってくることが多い。 そうしたときに、その第三者を「知人」と記すか「友人」と記すか、たったそれだけのことで数分悩むことがある。 (この人は仕事つながりで交流があるだけだし、「友人」なんて書くのはおこがましいよなあ……。でも趣味の話題でかなり盛り上がることもあるし、ここは勇気を出して「友人」って書いちゃってもいいんじゃないかな?) (こっちの人はめちゃくちゃ仲がいい友だちの友だちなん

          「知人」と「友人」のはざまに