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ファイリング・マトリョーシカ

「クリアファイル収納ファイル」というものがある。
アニメや漫画、アイドルなどのグッズとして発売されているクリアファイルを、ファイリングして保管・鑑賞するためのツールだ。

この場合の「クリアファイル」とは名ばかりで、実際にはそこに印刷された絵柄や写真を楽しむためのものであるのだが、あくまでその本来の用途は「ファイリング」であるから、そのサイズはA4サイズよりも少しだけ大きい仕様になっている。
従ってクリアファイル収集家たちが、「ファイルをファイルしたいわ〜」と思い立ったとして、収集したファイルをアルバム型のファイルにファイリングしようとしても、若干サイズが大きいため入らないという、じつに悲しい事案が発生するわけである。
これではクリアファイル収集家たちはかなしみに暮れて夜も眠れない。あんまりである。

そこで登場したのがこの、「クリアファイル収納ファイル」というツールなのだ。
通常のファイルよりもひとまわり大きい、いわばクリアファイルをファイルするためのアルバム型のファイルなのである。
これにはクリアファイル収集家たちもにっこり、夜もぐっすり、朝もすっきり間違いなしという最高のアイテムだ。

私はこの「クリアファイル収納ファイル」がとても好きだ。開き直りとも言える、その潔さが好きだ。
「物を収容する」ということこそが「ファイル」の定義だとするならば、こんなにファイルファイルしたファイルは他にないと言っても過言ではないのではないだろうか。

「トゲアリトゲナシトゲトゲ」という言葉を耳にしたときのゾクゾク感にも近い、何とも言えない満ち足りた気持ちがそこにはある。
ファイリングという目的を果たさんがために、ファイルの形を変える。
つまり、「いま」目の前にある「これ」をやっつけるために生み出された、ものすごいパワーのようなものを感じるのである。


少し話題が変わる。
「iNSPiC」というツールがあるのだけれど、私はこれも好きだ。
スマートフォンで撮影した写真を、シールにして印刷するためのツールである。

一度デジタルベースで撮影したデータを、アナログに出力し直すという行為。これは一見するとものすごく冗長なものに感じられるかもしれない。しかもサイズの小さなシールであるから、ノートに貼るくらいの用途しかないのである。
だが、好きな物や日々の思い出をあえてアナログで出力してノートに貼り、日記と共に手書きで残すという手段を経ることによって、物や体験に対する思いの強度が、より確からしいものになる気がするのだ。

だからこの「iNSPiC」という物を知ったとき、あまりの嬉しさで速攻で購入をし、手元に商品が届いた際にはスマートフォンで「iNSPiC」を撮影し、まずは「iNSPiC」で「iNSPiC」をシールにして出力した。
(なんなら「iNSPiC」で「iNSPiC」を出力しているところも、スマートフォンで撮影して「iNSPiC」で出力したいくらいだったが、さすがにそれをやってしまうと収集がつかなくなるのでやめておいた。)

やはりこちらも、目的が限定されているからこそ、「きみ、わかっているね」とにっこりできるツールなのだと思える。


類似したものでは、チェキというツールも好きだ。
チェキで撮影すると、その場で写真が出力されるという点は確かに便利である。
しかしデジタルで写真を撮った方が、データを加工したり転送したり、もしくはプリンターで焼き増ししたりできるわけであるし、利便性が高いことは明らかだ。
だが、「いま」目の前にある「これ」を確かに切り取って残しておくためには、デジタルではそぐわない瞬間があると思う。

たとえば風がふいたとき。
空に風船がたゆたっていたとき。
鳥が飛び立ち、はばたいていったとき。
そんな一瞬を空気ごと切り取りたいと思った時、シャッターを押す。
出力された写真はもしかしたらブレているかもしれないし、ピントが少しボケていることもあるかもしれない。
だがチェキはその時間や空間をアナログな物として、そこに存在した確からしいものとして、残すことができる気がするのである。

しかしチェキは替えが効かない。撮ってしまったらフィルムが出てしまうわけであるから、スマートフォンでぱしゃりとやるよりも、シャッターを切るのに少し勇気がいる。
そうした手間をかけなければ残せないツールを使うことで、自分が本当に愛でているものは何か、思い入れのあるものは何かと、今一度問い直すことができるのだ。

だから私は、チェキを撮っている人が好きだ。それこそ、チェキで撮ってしまいたいくらいに好きだ。
必死な表情で対象を切り取ろうとしているその姿を、切り取っていまここに残しておきたいと思えるから好きだ。


だからこそ、ファイルをファイルするファイルのような、いわばマトリョーシカ的な、ある種の禅問答とも言えるツールを、愛おしいと思えるのかもしれない。
これはもう、本当に好きなので、きっと近い将来に、「クリアファイル収納ファイル」をファイルする「クリアファイル収納ファイルファイリングファイル」が発売されることを、心から願っている。