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主役が惜しい! 「ドン・ジョヴァンニ」海外組

兵庫県立芸術文化センターで上演されているモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を観に行ってきました。

事前に「オペラ創造ワークショップ」で制作の舞台裏を教えてもらっていたので、期待に胸が躍ります。

休憩を含めて3時間半の長丁場が気にならないくらい、生のオペラは良いものです。こればかりは他に代えることができません。

めいっぱい堪能してきましたが、終演後の第一印象は、

「ドン・ジョヴァンニの物語」ではなく「彼を取り巻く人々の群像劇」

ではないかということ。
主役のジョヴァンニよりも、周囲の人々の方が輝いていたように感じました。

その感覚に、何とも言えない違和感を覚えましたが、朝日新聞の記事を読んで多少腑に落ちました。

しかし、今回のプロダクションでは主客転倒。主役はドン・ジョバンニと従者レポレッロのコンビではなく、「その他大勢」として束ねられた人々の方となる。ドン・ジョバンニという「劇薬」を触媒に、社会的通念から解き放たれ、めいっぱい愛し、憎み、怒り、嫉妬し、嘆き、笑う。人間としての感情を取り戻し、それぞれの人生の価値に目覚めてゆく市井の人々の物語として、「ドン・ジョバンニ」は新たな生を得た。

上記朝日新聞から

ドン・ジョヴァンニが「触媒」という表現に、非常に納得ができます。
今回の彼は、物語をまわすキーとしての人物でした。
そう感じた理由を拾っていきたいと思います。

※ 本公演ではカーテンコールのみ撮影OKでした。記事中の写真はすべてそのときのものです。



ドン・ジョヴァンニの声

まず一番に挙げたいのが、ジョヴァンニを演じたジョシュア・ホプキンズさんの声です。

彼の他の公演を知らないため、あくまでも今回の印象と前置きしますが、声が通らない。

オーケストラの音、他の歌手の声に包まれ、溶け込み、良く言えば調和して、言い換えれば混然として、突き抜けるものがありませんでした。

第1幕の「シャンパンの歌」、第2幕地獄落ちでの「No!」、そして彼がこの物語で唯一本音をあらわにする叫び、それらが響いてこない。

対して、女性の3人、ドンナ・アンナのミシェル・ブラッドリーさん、ドンナ・エルヴィーラのハイディ・ストーバーさん、ツェルリーナのアレクサンドラ・オルチクさんはそれぞれ個性が際立って素晴らしかった。

特にツェルリーナは、表情豊かな甘い声で、ジョヴァンニのお株を奪うほどです。
エルヴィーラもアンナも、事前にはあまり意識していなかった歌に聞き惚れました。

男性陣では、騎士長のニコライ・エルスベアさんは良かったですし、レポレッロも雰囲気がありました。

その点ジョヴァンニが…
声域の問題なのか、演出意図なのか分かりませんが、やはり主役の見せ場はしっかり魅せてほしいと、痛切に感じました。

これらは私の聴き方の問題かもしれませんが、Twitterでも日本人組への絶賛を多く目にしますので、そちらを観てみたかったなと思います。


ドン・ジョヴァンニの衣装

次に挙げたいのが衣装です。
事前の「オペラ創造ワークショップ」で、18世紀ではなく1950年代に置き換える、という話を聴いて、やや危惧していたところです。

ここでも、ジョヴァンニがぱっとしない。
貴族然としたところはほとんどなく、稀代のプレイボーイらしさも3階席からは見てとれませんでした。

第2幕でジョヴァンニとレポレッロが衣装を取り換えても、どちらも茶系の上着なので遠目には見分けがつきません。
動きがなければ、カバンの有無くらいでしか判断できないのです。

一方、エルヴィーラはよく合っていたと思います。
第1幕冒頭の旅装も、第2幕のモダンなスカートも雰囲気がありました。

それでも、やはり男性陣がぱっとしません。
ネクタイ姿では、なんだか現実を感じてしまいます。

1950年代に置き換えるというのも、どれだけ効果があったかよくわかりません。
現代の衣装で「騎士長」と言われてもピンときませんし、レイピアとナイフで決闘というのも…
ジョヴァンニの帽子に羽根飾りついてないですし。

演じている内容は18世紀なのに、衣装だけ現代風というちぐはぐさが拭えませんでした。


まとめ

声と衣装、これらを通じてジョヴァンニが特別化されることなく、翻ってその他の登場人物が生き生きと表現しているため、朝日新聞が言う「主客転倒」が起こったように感じました。

演出家のデヴィッド・ニースさんからお話はありませんでしたが、これが今回の演出意図だったのでしょうか。

それでもやはり、タイトルロールの主役には、主役らしく振舞ってほしい

じゃないと、ジョヴァンニがスペインで「1003人」らしさが伝わってこないのですよ。

ラストでアンナは結婚を待ってほしいと言い、エルヴィーラは修道院に入ると言う。
それを言わせるだけのジョヴァンニの抗えない魅力を、もっと存分に発揮してほしかった、というのが今回の感想のまとめです。


最後に、音楽

最後に音楽について少しだけ。
序曲では、コントラバスが秀逸でした。短調を下支えする弦の低音に惚れ惚れします。

舞台上に登場されるバンダの皆さん。
モーツァルトの時代に合った(ということはキャストとはだいぶ異なる)衣装で、華やかさがあふれていました。

そして、第2幕のセレナーデ。
マンドリンが聴けたのは嬉しかった。大西功造さんありがとうございます。


これまで、兵庫県立芸術文化センターのオペラは「セビリャの理髪師」、「フィガロの結婚」と喜劇ばかりを観てきました。
そろそろ悲劇が観たい、と思っていたところ、来年は「蝶々夫人」との発表が!

頑張ってチケットを取りたいと思います。



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