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ファントムが愛したのはクリスティーヌか、その音楽か

映画「オペラ座の怪人」4Kリマスターが公開されました。

2005年当時、映画館には観に行けていないはずなので、この上映は本当にありがたいです。


リマスター版の公開に際し、映画のサウンドトラックを聴いています。

ミュージカル版(ロンドンオリジナルキャスト)のCDを流しながら、英語歌詞を追いかけて聴いたりもしていましたが、改めて日本語訳を確認すると、こんな歌詞だったんだと驚くことも。

クリスティーヌが最初にファントムの仮面を外してしまったときの、パンドラ、デリラ、毒蛇などの呪詛は、邦訳で読むとより迫力があります。

対訳を見ていると、全体をとおして、劇団四季の日本語版はよく考えられていると思います。
英語と日本語の音数の違いを考慮すると、心から敬意を表するところです。


一方で、クリスティーヌに対するファントムの思いが、「愛」に偏りすぎているのではないかと感じます。

英語の歌詞からは、ファントムは、「自分の芸術を実現してくれる存在」としてクリスティーヌを見ています。

“The Music of the Night”のフレーズ”soar!”にあるように、自らが作曲したオペラに命を吹き込んでくれる、羽ばたかせてくれる、それがクリスティーヌです。

You alone can make my song take flight
Help me make the music of the night

The Music of the Nightより


その点、劇団四季の日本語版では、人間同士の愛、憧れとしての描かれ方が強いと感じます。


第1幕のラストでは、英語と日本語でそれぞれ次の歌詞となっています。

You will curse the day you did not do
All that the Phantom asked of you!

これほどの辱めを 決して許しはしないぞ

英語では、「ファントムの望み」を拒んだクリスティーヌに焦点が当たっています。
その点、日本語では、ただ悔しさと復讐心だけに感じられます。

そもそも、この直前にクリスティーヌとラウルが歌うAll I ask of youのアレンジであることが伝わりません。

せめて、「お前は悔やむだろう 私を拒んだことを」のような表現の方が、ファントム像がはっきり浮かぶと思うのです。


また、第2幕最後の歌詞は、英語では、

You alone can make my song take flight—
It's over now, the music of the night!

日本語版では、

我が愛は終わりぬ 夜の調べとともに

とされています。ここには、ファントムが求めた芸術の要素はなく、単にクリスティーヌという人物への愛がうたわれています。

ただ、こちらについて「夜の調べとともに」は動かしがたいので、前半の9音だけで表現せざるを得ず、なかなか難問です。


そのほか、英語版を聴くと、要所要所で現れるsharingやtriumphが、ファントム、クリスティーヌ、ラウルの3人を伝えるキーワードだと感じました。

そう考えると、第1幕のThe Mirror(Angel of Music)でファントムが初登場する際の、

Sharing in my triumph!

がとてもとても重たいです。

ファントムの悲劇―あくまで彼にとっての、ですが―は、この台詞から始まっています。




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