見出し画像

海苔漁師と料理人を繋ぐ。その時生まれたそれぞれの想いとは。

『自分が育てた海苔を誰が買って、どんなお店でどういう料理に使ってもらっているのか?実は全然知らないんですよ。』

ふとした時に海苔漁師さんが言ったその言葉は、私の中で強く残っていました。

そもそも海苔は「有明海産」とあっても、佐賀?福岡?熊本?どこ産なのかがわからなかったりする。時には「国産」としか書いていない時も。
なので消費者から海苔の生産者は見えづらい。

生産者もまた入札で海苔を出荷してしまえば、自分の海苔がどこに行くかは追いきれない。

そんな本来は見えてこない両者が顔を合わせ、お互いの仕事を理解した時に、どういう反応が生まれるのか?

本日はそんなお話です。どうぞゆるりとお付き合いください。

【海苔はトレーサビリティが難しい?】

そもそも海苔のトレーサビリティが一般的に難しいと言われているのはなぜでしょうか?

ごく稀に海苔漁師さんの名前が商品名となり販売されていることもありますが基本的には海苔屋の商品名、例えば《初摘み特選海苔》などで販売されます。

有明海の中でも佐賀・福岡・熊本と産地があり、漁場も細かくあるため全てを細かく記載するのはオペレーション面からも難しいのです。

海苔の入札会場でライセンス権を持つ海苔屋が仕入れた海苔は、一般的には他の海苔屋さんに転売されます。そこから各地のスーパーや百貨店など行く先が広がり追いかけきれない、というのが現実です。

商品に具体的な産地情報の記載がなく、出荷ルートも複雑に広がっていくために海苔はトレーサビリティが難しい、となるのです。

『海苔を使う料理人として、もっと生産者や産地のことが知りたです。』
と奥浅草に店を構える「食堂うゆき」の金澤さん。
これはぜひ引き合わせたいと思い、一緒に有明海の海苔生産者をめぐりました。

【料理人と海苔生産者をめぐる旅へ】

以前noteでも紹介しましたが、今年3月佐賀県鹿島市で行われた植樹祭に参加、同時に各地の生産者をめぐる旅路へ。
実は裏ミッションとして"海苔生産者と料理人を引き合わせる"という目的がありました。

鹿島の海苔を料理で振る舞う金澤さんの話に、生産者の皆さんは興味津々。
同時に金澤さんも海苔養殖について知りたいことがいっぱい。あちこちで談義していました。

福岡の両開漁場を訪れた際は、生産者さんのご好意もあり海へ。
鴨による食害、温暖化による海苔の病気など生産者が直面しているリアルな問題を知ることができました。

以下はこの旅路を通しての金澤さんのコメント。

『海苔養殖の難しさを生産者から直接聞くことで、より深く理解できたと思います。
同時に、結果を出す人は海にいっぱい出る人だとも聞きました。結局は人の手が大切で、そこは料理と同じなんだと。下処理をどれだけできるか?食材とどれだけ向き合えるか?みたいなところが海苔養殖にもある。
環境だけではなく生産者の努力もあってこそ、この海苔のクオリティというところは強く感じました。
いち料理人として、その年の海苔の漁場等級に合わせた料理というのを、だからこそもっと考えていかないとなと、あらためて。
料理を提供しながら、海苔のことを私自身の言葉でもっと伝えていきたいです。』

ここまで考えてくれて本当に嬉しいですね。植樹についてはこちらのnoteよりどうぞ。

【海苔生産者と料理人めぐりへ】

6~8月、海苔漁師にとっては夏休み期間。こちらも以前noteに書きましたが、この期間を使い全国の海苔屋さんに挨拶まわりをすることがあります。
今年の夏も、ぬま田海苔に様々な産地の皆さんが勉強も兼ね来店されました。

そんな中、先日植樹でお世話になった鹿島からも第一・第二・第三全ての漁場から海苔漁師が来てくれたではありませんか!

これはチャンスとばかりに、皆で食堂うゆきへ。
自分たちの海苔がどうやって料理されているか?どんなおいしさか?
知ってもらう、またとない機会です。

■食堂うゆき

今回は金澤さんからの提案もあり、サプライズで海苔も鹿島第一から第三までの3種類を使用。自分たちの漁場の海苔が並んだ時の嬉しそうな顔を見てください。

お凌ぎは《穴子の海苔手巻き》。こちらは《鹿島第三壱重1》を使用、ふっくら柔らかな穴子とパリッと力強い重等級の海苔の歯応えがよく合います。噛むほどに、どちらのおしさも絡みあう。

お造りは《コチ》。醤油の代わりにピリッと塩味の効いたうま味の《鹿島第二初◯上1》を使用。海苔とお魚のおいしさがダイレクトに伝わります。
金澤さんはソムリエの資格を持っているので、ここは白ワインと合わせて。いつも醤油や日本酒でお造りを楽しむ漁師たちも、この提案にすごく満足の様子でした。

最後は《花巻そば》で海苔は《鹿島第一初◯2》を使用。
蓋を開けた瞬間に、海苔の良い香りがパッと広がる。初摘み○等級の海苔ならではの柔らかい溶け方。おいしさも汁いっぱいに広がっていました。

※《鹿島第一初◯2》は年末に発売予定の海苔なので楽しみにしていてください。

続いてもう1軒!観音裏から浅草橋へ。

■スタンドバー ハトヤ

ゆったり落ち着いた和の空間から、浅草橋でもひときわ賑やかなスタンドバーへ。鹿島の海苔を使った料理は洋の提案でも大活躍。

ハトヤはぬま田海苔でもお手伝いしてくれているカオリさんがオーナーのお店。黒板にはぬま田海苔を使ったメニューがいつも並んでいて、嬉しいことに人気メニューなっているそうです。

うま味の強い《鹿島第二初◯上1》を使った《発酵バターと海苔》。これは手軽でおいしい最高の組み合わせ。危険なおつまみです。

《生ハムと海苔》では香りの強い熊本の青混ぜ海苔を使用していますが、この海苔の使いわけがまた漁師さんにとって勉強になります。生ハムの塩気には甘味があり少しビターな青混ぜが合う。

カジュアルなバーでは実際に注文し食べるお客さまの顔が見れたり、会話できたりするのが良いのでは?と思い連れてきましたが、本当にその通りでした。

オーナーのカオリさんから、こんなコメントをもらいました。

『私自身ワイナリーに行き生産者の方々を知ることで、おいしい料理に合わせたいと思うし、そのおいしさを伝えたいという気持ちになります。
今回鹿島から生産者の皆さんが来て直接話もできて、私にとって海苔も本当に同じ気持ちだと思いました。
実際に自分たちの産地の海苔料理を食べ、他のお客さまと楽しそうにしている絵を見て、海苔もワインのメーカーズディナーみたいなのがあってよいなと感じましたし、そういうことが一緒にできるようになりたい!ってモチベーションが生まれました。』

海苔の生産者が主催のメーカーズディナーは確かに面白い。


【生産者が見える海苔屋として】

ぬま田海苔では漁場や等級を全て開示し商品名にしています。
単一品種ならではのおいしさを、産地の情景を思い浮かべながら感じて欲しい、そんな想いからはじめました。でもこの提案は買う側だけではなく、生産者にとって何よりモチベーションになっていると、年を追うごとに感じています。

嬉しいですが、同時にプレッシャーでもありますね。
実際に自分たちの産地の海苔料理を食べての感想を、鹿島第一の中島さんからいただきました。

自分が作った製品が実食されてるのを目の当たりにできた事に、生産者としての喜びがまず第一にありますね。しかも、こんなにおいしく頂けるなんて名誉な事ですよ。自分がおいしいと思える製品が認めて貰えたのも嬉しい。 ですが直ぐに生産者としての責務も実感させられました。 同じ製品を作る同一組合の生産者としては、喜びと責任を背中合わせに感じましたね。

海苔はご飯との相性が一番だと信じてきた海苔漁師が、 ワインやチーズと一緒にとか、料理人さんの発想や工夫に驚きと同時に勉強になりました。
そして世界を相手に海苔を輸出する時代になるなんて… 海外からの海苔の輸入増加に危機を感じていたからギャップを凄い感じます。 海苔にまだまだ伸びしろがあることに気づかせてくれて感謝です。

正直、今回参加した海苔生産者は皆んなすごくやる気になりましたよ。またこういうおいしい海苔を作らなきゃと。去年もなかなか大変だったんですが、また今年も頑張るぞってやる気をもらいましたね。』

それぞれのコメントを聞くと、生産者と料理人を繋げることでお互いにこれだけのモチベーションが生まれるんだと、正直驚きました。
それは海苔屋である私も同じく。
生産者と料理人の橋渡しになれるよう、今年の入札も頑張らねば。

最後に、現在かっぱ橋では10月3日〜9日まで「かっぱ橋道具祭り」が開催されています!10月8日はなんと「焼きおにぎりの日」。この日限定で、羽根つき焼きおにぎり《だし醤油バター》を隣のうまみラボで店頭販売いたします。

よければぜひ、かっぱ橋道具街へいらしてくださいね。

去年書いたnoteもよければ参考にどうぞ。かっぱ橋の皆さんとご来店をお待ちしております。

以上、本日も最後までありがとうございました。
ぬま田海苔へ何かリクエストがあればいつでもご連絡を。note/Twitter/Instagramどこからでもお待ちしております。フォローや投稿も大歓迎です。
--------

《ぬま田海苔 合羽橋本店 店舗情報》
〒111-0035 東京都台東区西浅草3-7-2
連絡先:05017459617

[営業情報]
Open : 全曜日営業(11:00〜17:00)
※年末は大晦日まで休みなく営業予定

「Twitter」

「Instagram」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。これからも皆様に海苔の魅力や合羽橋の楽しさをお伝えしていきます。どうぞよろしくお願いいたします。