自由と保護の袋小路

むかし、こんなことがあった。あることがきっかけで、教会にホームレスの方を泊めることになった。中年の女性の方であった。つれあいにも協力してもらって、銭湯に連れて行ったり、新しい下着やTシャツを用意したりした。まず、一日は泊まってもらった。

二日目の夜。彼女は教会の掲示板に貼ってあるWi-Fiの文字列を見て、動揺し始めた。
「まさかわたしの思考を盗み見てはいないですよね?」
それからわたしと彼女との信頼関係が崩壊するのに時間はかからなかった。想いだすのも疲れるようなやりとりのあと、わたしは彼女がトイレに行っているあいだに警察を呼んだ。彼女は警官を見ると大人しくなり、わたしに作り(?)笑顔で挨拶をして教会を去った。その笑顔は今もわたしの脳裏にこびりついて離れない。

わたしは警官に尋ねた。「彼女はあちこち渡り歩いて、寝るところも食糧もお金もないと言っていました。そうした方を保護するところはないのですか?」警官は答えた。「ありますよ。でも、ご本人が希望しない限りは、強制的にそういった場所に入れることはできません。それは人権の侵害になりますから」
わたしは食い下がった。「でも彼女は精神を病んでおられますよ!?自分で判断して、そういう場所を探して、入所の手続きができますか?」警官はあくまで慇懃に応えた。「いえ、やはりそれは、ご本人にしかできないことなんですよ。ご本人が希望していない場所へ、犯罪も犯していないのに強制的に連れていくことは、誰もしてはいけません」
わたしには返す言葉もなかった。警官とは互いをねぎらいあって別れた。

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