性のズレ

今年、精神科病院における、看護師による患者への虐待が、内部告発により発覚した。そのときには『牧師、閉鎖病棟に入る。』冒頭に描いた出来事が頭をよぎった。告発の虐待映像には既視感があった。それとはまたちがう形であるが、ジャニー喜多川氏の性加害が世界的なレベルで問題になった折、わたしは、それはキリスト教の世界でも見聞きしてきたし、自分自身も綱渡りしていることではないか、『弱音をはく練習』で語ったことにもつながっているではないかと感じた。

フランス系カナダ人のカトリック信徒であったジャン・バニエ氏が創設したラルシュ共同体では、知的障害者がアシスタントとともに、地域のコミュニティで家族的な共同生活を行う。その活動は、今日の障害者福祉や多様性理解に大きな影響を与えた。そう、「貢献した」と言ってよい。しかし、共同創設者であるトマ・フィリップ神父、およびバニエ氏自身による、女性たちへの性虐待が明らかとなった。問題への本格的な改善の取り組みが始まったのは、フィリップ神父およびバニエ氏の双方が亡くなった後である。ラルシュ共同体についての書物はキリスト教の書店にいけばたいてい売られていたし、一般の書店でも宗教や福祉のコーナーで取り扱われていた。それくらい有名な団体の内部で起こっていた性加害が明るみとなったのである。衝撃的な事件であった。わたしがジャニー喜多川氏による性加害事件に既視感を感じたのは、そういう理由もある。

ただ、わたしはやはり、そういう他人の不祥事のみが理由で既視感を覚えたのではない。51歳という、身体的には性機能が衰え始め、それにもかかわらず、心理的な性的欲望だけはいっこうに収まる気配がないという、このわたし自身の「心身の性のズレ」とでもいったもの───性的不祥事の報道を見聞きするたび、わたしはこのズレが、自分のうちにうずくのを感じるのである。この、わたし自身の性の問題について、今後少しずつ書いてゆきたい。

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