ギャラリーストーカーという言葉を知る。

ギャラリーストーカーという言葉を知った。ギャラリー(画廊)や美術系の学校など、無料で作品を鑑賞できる会場に行き、在廊している若い女性作家にむやみに話しかけたり、連絡先を聞こうとしたりする男性のことを指すらしい。そしてその多くは40代以上の中年男性のようである。もともと美術関係に関心がない人であれば、そもそもギャラリーに行けば女性に会えるという発想がないだろう。したがって、ストーカー化してしまう男性のほとんどは、おそらく美術鑑賞を趣味にしている人であると思われる。

じつは、わたしにも心当たりがある。ある20代女性のアーティストがいる。その人の描く絵も、Xで呟く文章の文体も、どうやってそのような味わいを創出したのかというほど突出して個性的であった。そして文章の内容から、おそらく若い女性であろうと察することができた。その人が原宿で展示をすると告知したので、わたしはさっそく観に行った。

アーティストは在廊していた。Xでわたしのことを知っていたのか、「ヌマタさんですよね?」と声をかけてくれた。アイドル的な小顔の、まだ少女のような面持ちに、わたしは舞いあがってしまった。ひとしきり話をしたあと、彼女の絵を一枚、買って帰った。その頃のわたしはまだ、ギャラリーストーカーなる語を知らなかった。

今、あの展覧会に行ったときのことを振り返る。たしかに作品に関心があったから行った。作品に強烈な翳を、壊れそうなものを感じたから、1万円は安いと思った。その作品は葉書より少し大きいサイズのペン画であった。今も仕事机の前の壁に貼ってある。だが、あのとき、わたしは要らぬ一言を放った。

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