詩:エンビカンの竜神より

塩ビの灰色のつるつるとした表面に
"竜神"と書いてある
養生テープの緑色にサインペンの"竜神"
そんなものを眺めていた
それをあなたから受け取っていた

ギフテッド
と誰かには呼ばれ、また
チショウやアスペ
と誰かに呼ばれた
あなた(たち)が この"竜神"を祀り、
時に守り、時に守られていたことを思った

2m近くあるその、地下を思わせる塩化ビニールの灰色は
確かにある存在感があって
樹木のようであって、龍樹という偉い人を思い出しもした
マンダラの真ん中にこの塩ビ管を据えて、あなたたちを周りに描こう 赤や緑や金色の筆で

ギフテッド、授けられた者
はギフター、授ける者に。
私はただの媒介者で
子供は授かり物だから、というときに
受精卵とギフターとの間に交わされる密約に私(たち)は加わっていなかった

風の強い日で
ビル風が谷間に吹きつける日で
この谷にいる私たちの周りで
グゴォグゴォと音がなる
竜の息が、竜巻が谷底で生まれ、
はつらつな声、それを見る好気の目、
そこには私の好気もあったろう、ある寄せ鍋のような谷底で、ミキサーのような谷底で、
撹拌される
撹拌されている。竜神が来ている。

普通が分からないことが分からない
あなたたち多分ギフター
普通が分からなくて普通になりたいと叫ぶ誰か
何者かになりたくてギフトを欲しがる誰か
私たちが撹拌されている。竜神が吠えている。

《普通、っていうのはさ、異物からの逆照射からしか見えてこないもんじゃないかな。
私たちが日常、異物を作ってそうやって生きている仕草、その仕草。だから普通、って演劇みたい。演劇からきた言葉みたい。》

塩化ビニールの樹木、空洞の樹木に逆さまにしがみついている猿のようないきもの
が穴を覗きこんでいる
穴に息を吹きかけたり 縁をこすったりしている 音

養生テープというのが良い
あとも残らずにはがせる
はがせばただの塩ビ管だ
あなたたちはまた新たに竜神を作るだろう
新たな樹木に養生テープを貼るだろう

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