バイアスと裏付けのお話/イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る
私がこの本を読んだ率直な感想は「時代錯誤で理屈っぽい論調だな」というものだった。コロナ禍によって社会的に大きな変革が起こる前に書かれたものだから現在に対応しにくいことは仕方がないが、コンセンサス偏重による経済低迷を打破したサッチャー時代のイギリスをロールモデルにしてアベノミクスと相違する点を並べているため、比較により論理的に解釈を述べているというよりは批判で完結しているという印象だった。
また「お・も・て・な・し」の件に関しては、客と主の契約関係の上に成り立つ心のこもったサービスであると思うし、どんな契約関係においてもサービスの範囲が存在し、日本人はそういった関係がある中でできるだけ関係性の上下を感じさせないようにダウンサービスを行なったり柔軟な対応を行なっている訳であり、チェックイン前(サービス開始前)に融通を聞かせるべきという姿勢には時代錯誤を感じるし自己中心的と感じてしまった。
しかし、著名なアナリストである著者の思考法はデザインのコンセプトメイクをするにあたって必要になると感じた。その点を2点あげていこうと思う。
物事を因数分解して捉える
企業の増資や新製品開発の動向、収益や経営状況、国内外の経済や情勢などの幅広いデータや情報を分析し将来の予測や改善を促すアナリストらしい思考法とも言えるが、物事を捉える時にバイアスを取り除き、要素を分解し予測を立てたり改善案を立てたりする営みはクリエイティブのコンセプトメイクの段階において心がけるべきことだと感じた。人は誰しもバイアスを抱えて物事を捉えているがその取捨選択によって見えなくなっていることが数多くある。「数字」を捉えることはそのバイアスを取り除き、物事を多面的に捉えることを可能にすると感じた。
「数字」から構想し、「数字」で裏付ける
新規のコンテンツを生み出す時、そのコンテンツによってどんな変化が望めるのか、どのくらい利益をもたらすことができるのかを裏付けるために「数字」は非常に強い効力を持っている。常識や固定の価値観によって取捨選択されている私たちの日常から見える世界からアイデアを出していっても見えないことが多く画期的なアイデアを創出することは難しい。市場調査や経済の動向などのリサーチを徹底的に行いそこから見えてきた課題を口火にアイデアを模索していくことでコンセプトとして耐性のあるものになるだろうし、決済者や評価者によってもリアリティのある裏付けと感じらるため、世に出すためのハードルをクリアしやすくなるのではないだろうか。