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9月前半の読書

「いい人でいる必要なんてない 」ナダル(KADOKAWA)


お笑いコンビ、コロコロチキチキペッパーズのボケ担当・ナダルさんによるエッセイ。

ナダルさんというと、水曜日のダウンタウンやロンドンハーツなどで歯に衣着せぬ言動や、いわゆる「クズ芸人」と称される振る舞いが有名ですね。私もテレビで観るたびに笑わせてもらいつつ、その反面、近くにいたら怖いな…とビビる気持ちも。

けど、エッセイを読んでみて、なんというか良い意味でも悪い意味でも、「かたい人」なんだな〜と印象が変わりました。子供の頃から正義感が強くて真面目で、「こうあるべき」という強い意志があって。それは芯の強さや大切な人に対する思いの強さにもつながるけど、場合によっては悪意の対象になったり、自分自身を苦しめることになる。これはすごーく共感できました。

0か100かになりやすいからこそ、開き直る。開ける道があるから、クズを演じる(もちろん全てが演技ではなく、根っこの変人ぷりはあると思いますが…!)。「いい人であること」に縛られがちな人こそ、響く本かもしれません。


「侍女の物語」マーガレット・アトウッド(早川書房)


キリスト教原理主義勢力によって崩壊した近未来のアメリカ。新たに生まれた宗教国家では、ほぼ0%にまで落ち込んだ出生率を向上させるため、子供を産める健康な女性には「侍女」という役割が与えられる。侍女は決められた制服を着て、情報から隔絶され、支配階級である「司令官」の屋敷に仕える。全てはただ、「司令官」の子供を産むために。

という、あらすじを読むだけでウッ…となってしまうような設定。ディストピア小説の金字塔「1984年」の姉妹篇と称されるだけあって、構成や監視社会のあり方に共通点が感じられます。

例えば、言語。1984年では、革命につながるような複雑な思考を阻害するために、単純な意味で構成された「ニュースピーク」という新たな言葉が市民の中で使用されていました。

侍女の物語でも、侍女たちは読み書きを基本的に禁止されています。彼女たちは資源である健康な身体を維持するためか、毎日屋敷で必要なものを買いにお使いに行きます(これも侍女同士がペアになって行います。道には監視がいて、必要以上の会話は禁止。どちらかが逃走すると連帯責任で処分されることになるため、侍女たちは、互いが互いの監視役になるという徹底っぷり…)。その際、お店の看板には品物を示すイラストが描かれているだけで、文字がありません。これは、女性が文字を読むべきではない、という作中世界の男女構造もあるけど、侍女から言葉を奪う意味もあるのではないかと思います。主人公たちは、侍女としては第一世代。以前の世界の記憶を残していますが、世代が変われば必ず言葉やそれを用いた思考は消えていくはず。事実、侍女たちの指導役にあたる「小母」と呼ばれる女性の台詞にも、次の世代はきっと楽になるという言葉がありました。

「侍女」システムが、現代の価値観を基にすればおぞましい仕組みである一方、あくまで世界は清廉潔白に描かれてるのが、かなり歪。セックスは儀式だし、誰も快楽を得てはいけない。全ての人間は自慰すら禁止されている。反面、支配階級の裏側には矛盾が存在している。それって、今の社会もさして変わらないかも。ディストピア小説を読むたびに、いま自分達が生きる社会に通ずるものが少なからずあって、フィクションとは思えない気持ちになります。

「動物農場」ジョージ・オーウェル(KADOKAWA)

侍女の物語を読み終えて、もっとディストピア小説読みたいな〜けどあんまり重すぎるのはな〜心にきちゃうからな〜と思い、短めの作品を読むことに。

1984年の著者、ジョージ・オーウェルによる、動物たちを主人公にした風刺的寓話。

ある農場で、反乱を起こした動物たちが人間を追い出し、動物によって運営される「動物農場」を設立する。比較的賢い豚たちが中心になって、自由と平等の名のもとに、取り決めや話し合いが行われるようになるが、次第に権力が暴走し始め…というお話。

おとぎ話のように描かれているので、読みやすい。これはイギリスの作品なのですが、当時の世論としてあった「ソ連=平等で統治された、理想の国」というソビエト神話を皮肉った作品なのだとか。なので、作中で独裁者となる豚や、盲目的に働き利用される馬、権力者から与えられた言葉をシュプレヒコールするだけの羊、反乱を起こしたために食物の供給を停止される雌鳥、すべてにモデルとなる組織や国があります。

とりあえず読み終わってから調べよう〜、と思い、あとでモデルと照らし合わせてみたところ、現在の社会情勢と完全に地続きなのでつらくなってしまった。けど、どこの国が…誰が…というより、集中しすぎた権力はいずれの社会でもこういったことを引き起こす恐れがあるということなのかも。

そして、単純に物語としても引き込まれる。勤勉な馬、ボクサーが主体となって描かれるシーンでは、つらくて思わず本を閉じてしまった…。

九月前半の読書はこんな感じ。
次は何を読もうかな〜。
またぼちぼちと記録していきたいと思います。

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