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9月後半の読書

9月前半の読書では、男性絶対優位社会で生きる女性を主人公としたディストピア小説「侍女の物語」を読んだ。

さらに、それをきっかけとして、ディストピア小説の金字塔「1984年」の著者、ジョージ・オーウェルによる寓話的小説「動物農場」も読んだ。

これは農場に暮らす豚や馬、鶏といった動物たちが、人間を追い出して、理想の農場を築こうとする過程を描いたもの。おとぎ話のように見えて、実際は当時のソ連による全体主義を比喩的に批判した小説。

ここから、「ソ連」ってどんな国だったんだろう?今の世界情勢は、ソ連とどう関わってるんだろう?と思うように。

というわけで9月後半の読書は、「ソ連」「現代史」についての本が多くなりました。それに加えて、世界情勢について考えるのがしんどくなったので…、息抜きとしてSF小説も少し。では、次からさらりと紹介していこうと思います。

ウクライナ戦争と世界のゆくえ 池内 恵他(東京大学出版会)


2022年8月発行。複数の専門家(ロシア関連はもちろん、アメリカや中央アジアまで様々)による、ウクライナ戦争と各国の様相が解説されている。

リアルタイムの報道や戦況は、精神的な影響が大きすぎるのでほとんど見れていない。けど、何も知らないと漠然とした不安や偏った考えに囚われそうになってしまう。という自分にとっては、分かりやすくていい本だった。

ニュースを見ていると、西側vsロシアと一部の国=善と悪、という対立構造が作られがちだけど、どの国も一枚岩なわけではない。この問題に関しては状況が日々変化していくので、何が正確かは一概には言えないけど、現状に向き合う助けにはなると思う。

いまさらですがソ連邦 速水螺旋人他(三才ブックス)

Kindle unlimitedにあったので読んでみた。ソ連の成り立ちから終焉までを、歴史や軍事、生活といった側面から解説している本。イラストとその横に加えられた手書きの解説、さらにコラム…と、とにかく情報量が多かった。

私が生まれてすぐソ連は崩壊したので、あまりそういう国があったことは認識していないけど…当時の日本人はどんな気持ちでソ連を見ていたんだろう?国によって文化や風習が異なるのは当たり前なんだけど、あまりにも現代の自分が生きる生活や価値観と違う世界なので、想像がつかない…。

日本人にはわからない感覚が明らかに存在していて、それがもしかしたら問題の一因になっているのかも。と、考えさせられる一冊だった。

そんなふうに世界情勢と向き合って、気分が落ち込んでしまったので、一旦読書の舵を小説に切り替えた。この時に読んだ一冊がめちゃくちゃ良かった!

アメリカン・ブッダ 柴田勝家 (ハヤカワ文庫JA)

まず著者の柴田勝家さんについて。

柴田勝家?武将?と目を引く名前はもちろんペンネーム。だけど、ご本人の風貌はひげもじゃ、ロン毛、がっしりした体躯、と武将のようにも見える。一人称は「ワシ」で、執筆はお気に入りのメイド喫茶で行なっている。

という…漫画のキャラのような方だそうなのですが、それを知らずに読んでもこの本は個性的だった。

この本には、表題作「アメリカン・ブッダ」を始めとした6冊の短編が収められている。その多くがSF小説でありながら、民俗学・文化人類学的な側面も併せ持っている。

例えば冒頭に収録されている「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」という作品。

雲南省に暮らす少数民族であるスー族は、生まれてすぐにVR(バーチャル・リアリティ)のヘッドセットをつける。成長をする中でヘッドヘッドは付け替えを行うが、必ず目を瞑り、外の世界を見ないようにする。目を開けた人間は「薄目で世界を覗いた者」として「元の」世界に戻れなくなってしまう。

世界を内と外に切り分ける。そしてその境界の向こうには禁忌がある。という構図はとても民族学・文化人類学らしい。

文化人類学では、自己の文化と他の文化を比較して、その違い…見ている世界の違いを見出そうとする。そこにVRの世界で生きる民族と、それを調査する人々を当てはめるのが新鮮で面白い。

柴田勝家さんはインタビューで「SFそのものが、民俗学・文化人類学の中の1つの文化でしかない」と述べていたけれど、確かにその通りかも。宇宙人との邂逅だって、ディストピア社会だって、タイムリープだって、まるっとまとめてしまうと異文化との邂逅なんだから。

と、自分でも色々と考察しながら楽しめる一冊でした。今年読んだ本で一番面白かったかも!

あまりにビビッ!ときたので、続けてデビュー作である「ニルヤの島」も読んでいる。また面白い作家さんに出会ってしまった。

9月後半の読書は、そんな感じでした。
ではまた、機会がありましたら。

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