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ユカイツーカイ 怪獣ブームは怪奇ブームと二人三脚カイ

怪奇ブームというものを知っているか。
1968年のアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」をきっかけにして起きた、と言われているブームだ。
そして、1966年の後に第一次怪獣ブームに寄り添ってきた兄弟のようなブームである。

そう、怪奇ブームと第一次怪獣ブームは二人三脚だった、というと否定的な反応を貰うのだが、まずはものの本を見てみよう。
「KODANSHA Oficial File MagazineウルトラマンVol3」の白石雅彦による、「ウルトラマン物語 ウルトラの消えた頃」を見てみよう。
「ウルトラセブン」の後番組「怪奇大作戦」の解説である。
白石は怪奇ブームを妖怪ブームと記述しているが、これは白石が妖怪ブームは水木しげるブームであると考えているからだ、そして当時週刊少年マガジンの編集部員であった田中利夫のコメントでそれを裏付けている、だがそれは結果的にそうなったという話である。
怪奇ブームの実態はかなり複雑だ。
白石は66年時の「悪魔くん」と大映の「妖怪百物語」を怪奇ブームの先駆けとするのにすら否定的なのである。 
それは、怪獣ブームの産物だからという理由だが、百物語は同時上映が「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」だから、というのは些か苦しい。
実は「懐かしのテレビアニメ99の謎」(二見書房)において「悪魔くん」は「鬼太郎」のテレビ化企画難航の末に生まれた旨が記されている。
京極夏彦は「妖怪の理 妖怪の檻」(角川書店)で、怪奇ブーム、いやこの時期に起きた通俗的妖怪の成立について事細かに記述している。
こちらでも、「悪魔くん」は「鬼太郎」テレビ化企画の前哨戦とされ、マガジン版の「悪魔くん」と「墓場の鬼太郎」は貸本で人気があった水木しげるのテレビ化企画の為に開始されたのだ、
何故?怪奇ブームを見据えたから。
とにかく、先駆けであったことは間違いない。
「妖怪百物語」は?、京極は同書籍で、妖怪油すましのデザインが実は蟹首という文楽人形をモチーフにした水木しげるオリジナルデザインである事実を語るついでに触れています。それは、水木デザインの油すましが同映画にでているからですね。
事の概略は、1966年に水木しげるの「ふしぎなふしぎなはなし」という絵物語の連載に油すましを出し、それを大映のスタッフが参考にしたからだろうと、更に水木はこの映画のコミカライズを依頼され、怪奇ブームの前哨戦を彩ります。
何故、怪奇ブームの手応えがあったからに他なりません。京極がいうところの戦略に乗った訳です。
しかし、戦略にはやはり裏付けがあるはずです。
実は大崎悌造の「昭和こどもブーム」(学研)によれば怪奇ブームは楳図かずおの怪奇漫画による少女初のブームであったという話が記述されています。 
米沢嘉博の「戦後怪奇マンガ史」(鉄人社)でも、1965年から69年までが楳図初の少女漫画における怪奇ブームであるとされている。
更に少年漫画での妖怪ブームは同書では1966年から67年とされている、実はこの書籍でも怪獣ブームが下火になったから妖怪ブームがと言われているが66年時点では早すぎるような気はする。
そして、それは短編連載から始まった「墓場の鬼太郎」と手塚治虫の「バンパイヤ」であり、後者は少年漫画初の長期連載怪奇漫画であるという。
だが、「墓場の鬼太郎」は怪奇ブームの折り、テレビ化を狙っていた事実は先程から記述している通りである。
京極の「妖怪の理 妖怪の檻」で「墓場の鬼太郎」が最初は妖怪漫画でなかった事実を指摘している。まず、先行した特撮版「悪魔くん」に怪獣ブームに便乗して妖怪を出すことにした。
そして、手応えがあったから鬼太郎の方でも、作品の転換点となる「妖怪大戦争」をやって妖怪路線になったと。
勿論、この時点の怪獣ブームといえば「ウルトラQ」を指す。
実はもう片方の雄「バンパイヤ」も映像ありきの漫画ではないか、と思いはしたが、そこまで断定的な話はさすがになかったが、「バンパイヤDVD-BOXシークレットファイル」(銀英社)によれば、1966年中に実写化は決まっていたようで、やはり怪獣ブームの盛況を見てのことで、少年怪奇漫画の始まりの2作品が「ウルトラQ」の影響下にあったともいえる。
しかし、ここまで来たら「ウルトラQ」や「ウルトラマン」にも怪奇ブームの担い手として期待されていたのではないかと。
米沢は、少年漫画の妖怪ブームは怪獣ブームの形を変えた再生であり、スーパーヒーローものの流れに乗っているのだから楳図が「ウルトラマン」のコミカライズを手掛けるのは当然であるという。

ちなみに、京極夏彦によれば、本来妖怪は人知を超える怪異を指していたものが、完全に化け物のキャラクターを指す「通俗的妖怪」に変質したのは鬼太郎以後であり、そこに荷担したのは大友昌司、ただし妖怪の概念が固まってないから、洋画のムービーモンスターを絡めて紹介したし、鬼太郎にはムービーモンスター、つまりドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男も登場している。
それについては実は怪獣も事情は変わらない、「ウルトラQ」開始当初はゴメスなどは登場動物として紹介されたりもしていた。
岡本英郎が一次ブームのときはムービーモンスターも怪獣として扱われていたと指摘しているのは、類似の既存キャラクターをバックボーンに挙げることで世界観を補完したとも言える。
大友の第二次ブーム時の「怪獣図解入門」(小学舘)でも、「禁断の惑星」のイドの怪物や蠅男のようなムービーモンスターをウルトラ怪獣の同類として挙げているし、思えば「ウルトラQ」の中でもムービーモンスターである半魚人ギルマンをオマージュした海底原人ラゴンを出したのは当の大友昌司である。


とまあ、怪奇ブームの大まかな流れを見てきたが、少女漫画の怪奇ブームが少年漫画の怪奇ブームに伝播し、妖怪ブームとなる過程にメディア化を前提にしたため、少なからず「ウルトラQ」の影響があった事実は、やはり怪奇ブームは第一次怪獣ブームの兄弟ともいえる。
第一次ブームには「サンダーバード」のスーパーメカの影響も見られるが、最初期の「ウルトラQ」、「ウルトラマン」よりも「ウルトラセブン」に顕著な要素であり、あとづけでもある。
「ウルトラセブン」放送時の1968年に結局怪奇ブームはアニメになり改題された「ゲゲゲの鬼太郎」の一人勝ちという結果になる。

ここで、「ウルトラセブン」の「ノンマルトの使者」という話があって、幽霊が出るのは「ゲゲゲの鬼太郎」の影響説を唱えた御仁を思い出したが、脚本の金城哲夫が前作「ウルトラマン」の「恐怖のルート87」でも幽霊話をやっているが、それは鬼太郎ブーム以前の1966年であり、説としては完全に瓦解している。
それに、ノンマルトが怪奇だというならば、この話の本筋は誰にも正体を明かせない宇宙人のモロボシダンだけがノンマルトという名前は地球人を指す事実を知ったが明かすこともできないで、根本をどうにもできず、ノンマルトの攻撃と種族としての全滅(「基地」がどう見てもただの集落である)にほぼ介入できず、行き場のない無力感を宇宙人であるがゆえにダン一人が抱えてしまうところで、幽霊に目をつけてしまうのはあまりに近視眼的としかいいようがないのではないかと。

追伸、2023年10月誤認を訂正しました。
ノンマルトはダークゾーンが下敷きになっているのではないかとも思えます。

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