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本の感想まとめ

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しあわせの詩の感想

しあわせの詩の感想

もし不死身の身体になったら、永遠の命を手に入れたら、湧き出る感情は喜びか悲しみか。

今この瞬間が一度だけで同じ時間は二度と来ないからこそ、限りある命だからこそ、この今という瞬間を命を大切にできる。

歳をとること、老いていくことは怖いし嫌かもしれない。
でも、歳をとらないこと、変わらないことはもっと怖いだろう。
一人だけ取り残されるのは孤独だ。

大切な人たちと共に歳を重ねること、日常の瞬間瞬間

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流浪の月の感想

流浪の月の感想

更紗のお父さんとお母さん、家の雰囲気がすき。
お母さん手作りのキーマカレー
夕ご飯にアイスクリーム
両親のボンベイサファイアを真似してアイシングカラーで作るカクテル風ソーダ
空色のカーダブル
好きなものを楽しむことは自由なはず。
でも、そんな幸せが崩れ去って…

周りの「普通」と違う
居場所がなくなる

そんななか、出会った文という存在。
文との思い出は幸せだったのに。
文は優しくて、更紗は可哀想

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正欲の感想

正欲の感想

水に興奮する
そのような人の世界を、そのような人が存在する可能性を考えたことがあるだろうか。
LGBTQという言葉が浸透し、多様性が尊重される社会へと時代は変容を遂げている。
「自分と違う存在を認めよう」
「幸せの形は人それぞれ」
そんなことを言って、私は理解があります広い価値観を受け入れますという自己満足的な態度で、全てを分かったつもりになっていないだろうか。

この物語は複数の登場人物の視点で

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ののはな通信の感想

ののはな通信の感想

時間が経っても、
距離が離れていても、
心が通じ合っている関係。
その人との思い出が、交わした言葉が、秘密が、
自分を形作っている。
心の中に常にその人の存在がある。

そんな大切な人のことを思い起こさせてくれた。

「あなたと私のちがいこそが、貴く、愛を生み出す根源なのだと気づいたのです。」

どれだけ憧れても、その人にはなれないから、だから、ずっと大切に思うことができるんだと感じた。

誰かを

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対岸の彼女の感想

対岸の彼女の感想

なんのために私たちは歳を重ねるんだろう。

学生の頃は、家が貧しいとか人と少し違うとか、あることないこと構わず一人をターゲットにして、団結して陰口を言う。仲間はずれにする。いじめる。

大人になっても、仕事をしている人、専業主婦の人で対立する。仕事のやり方が気に入らないからみんなで率先して愚痴を言う。人の過去を詮索する。

人の嫌な部分は確かにある。
自分とは違うものを敵にして、似たようなものを味

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うつくしい人の感想

うつくしい人の感想

百合は自分が分からなくなっていた。
他者からどう思われるかを考えて友達も恋人も仕事先も選んできた。
彼女は強烈な自己否定に苛まれていた。
親のお金に頼っている、会社を辞めた、怠惰な生活を送っている自分。
姉の存在が彼女をさらに追い詰めた。
美しい姉をみると、自分の汚なさを感じさせられた。
そして、彼女を不安や孤独の沼に陥れた。

そんな百合がある島のホテルに旅行へ行き、二人の人間と出会う。
物事の

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この嘘がばれないうちにの感想

この嘘がばれないうちにの感想

「コーヒーが冷めないうちに」の続編である。
今作も心温まる話が4遍。

人は誰しも心の奥に一つや二つ後悔を抱えているのではないだろうか。
人は一度くらい死にたいと思ったことがあるのではないだろうか。

自分が死ねばすべて終わる。
そんな風に感じていた幸雄だが、それは死んだ母を悲しませるということに気づいた。

自分が妻を殺したと感じ、警察官という仕事に自分を縛りつけた清。
自分が母を殺したと感じ、

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窓の魚の感想

窓の魚の感想

曖昧な沼のような雰囲気をまとった作品だった。
誰が死んだのか、小説には記されていない。
牡丹の刺青の女か、ナツか…
身元が分からないというから、牡丹の刺青の女なのかもしれない。
鳴き声だけが聞こえて姿が見えない(牡丹の刺青の女にだけ見えていた)猫の存在は何を示していたのか…

ナツ、アキオ、ハルナ、トウヤマの4人とも何かが欠落していた。
みんな秘密を持っていて本当の自分を奥深くに隠しているようだっ

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乳と卵の感想

乳と卵の感想

短い小説だけれど、難しかった。
文章の書き方が止まらなく、点の箇所が多くて一文が長かった。

豊胸手術を受けることに取り憑かれている巻子と、言葉を発することを拒否する娘の緑子が、東京の巻子の妹の家を訪ねる。

クライマックスの緑子が卵をめちゃくちゃに割りながら「お母さん」と叫ぶシーンが印象的だった。
言葉にならない声を発している感じがした。
緑子は初経を迎え、日記のなかで卵子について考えるが、生き

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神様のボートの感想

神様のボートの感想

あのひとが探し出してくれるのを待って旅を続ける旅がらすの親子の物語。

母、葉子はあのひとや桃井先生との思い出を胸に、宝物の娘、草子とピアノとともに、どこにも馴染まず生活をする。
「過去は箱にしまっておくのよ。しまっておけばどこにもいかないわ。」というようなセリフがとても印象的だった。
葉子は男に夢中になって娘を振り回すような母親ではない。ちゃんと娘を愛している。
でも、どこか夢見心地で草子に言わ

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ふたごの感想

ふたごの感想

傷つけあうと分かっていながらも離れられない二人が遠回りをしながらも同じ方向を向いて進んでいく物語。

月島がアメリカに行くとき、夏子が月島がいなくても1人で自分自身で立っていけるように努力する姿や、
月島が日本に帰ってきてからお互いが共倒れにならないように距離を保とうとする気持ちや、
ひっそりと月島に想いを寄せる切ない恋心が夏子の懸命な姿を感じられて心が動かされた。

ときに身勝手でぶっきらぼうな

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52ヘルツのクジラたちの感想

52ヘルツのクジラたちの感想

助けて
愛して
一人にしないで
届かない声を誰かに届くように祈る。

その声が届いたとき、受け取れなかったとき、受け取れたとき、人の心はどう動くのか。

人を助けることの難しさや助けられなかったときの後悔や人と人との繋がりを感じる作品だった。

人はいろんな過去を抱えていて、それを打ち明けられないときもあって、ただひたすら助けを待ってるときもあって、助けすら求められないときもある。
その届かない声

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騎士団長殺しの感想

騎士団長殺しの感想

村上春樹さんの独特なファンタジックで不思議で魅力的な世界観だった。
騎士団長殺しという絵を開封することによって起こりだす不思議なものごと。
ありえないようで確かなものごと。
完璧にみえてある事情を抱えている免色。
少女にして強い芯を持っているまりえ。
誰の子か分からない子を産もうとするユズ。
登場人物がとても興味深く、世界観に引き込まれる。
この世に確かなものはない。
でも、信じることはできる。

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