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「インターネットの父」村井純先生に聞く(その2)...インターネットも英語US-centricではなくTruly Globalであるべき


「インターネットの父」村井純先生に聞く(その1)の続きです。2012年5月に掲載したインタビュー記事です。





キャンプ参加とビートルズを聞き日常会話、インターネット共同研究、会議を通し専門英語を


鈴木:なるほど、それはすごいですね

村井:ええ。今考えると、そんなには喋れなかったと思いますが、そ れでもほかの国からのキャンプカウンセラーにそういうことを やらせるっていうのも、いいことだと思います。キャンプで子 ども達と英語を使って生活していたので、言葉に不自由するな んてことは感じたことなかったんです。

それで、専門になって 研究していた時に、Purdue University パデュー大学に、私とそっくりの研究をし ている偉い先生がいらっしゃって、その先生の話を聞く機会を 持てたときに話そうとしたんですが、そこで全く話せなかった んです。

鈴木:それはどうしてだったんでしょう。

村井:つまり、自分では日常英会話 はできると思っていました が、専門分野の話は全くダメ で、これは全然違う力だとい うことがわかりました。そこ で専門の話が英語でできるよ うに、海外の学会に行くよう にしました。大学院に進んで 助手をしていた時から、カリ フォルニアのUC Berkeley(※2) と共同研究をしていまし た。BSD開発をしていた時のことです。

鈴木:そこはとても重要ですね。村井先生くらい英語が話せると、大抵の人は、アメリカに留学したから話せるのではないかと思っ てしまいます。

村井:いえいえ、僕は純粋なドメスティックですから。

鈴木:共同研究で、研究室を通してUC Berkeleyと共同研究されてい て、もちろん、そこでは英語を話しておられたのですね。

村井:そうです。私は中学の時は、英語の成績は良かったんです。ビ ートルズが大好きで、小学生の時、歌詞カードをタイプで作る 遊びをしていました。家にタイプライターがあったおかげで、 タッチタイプは小学校4年生の時に出来ていました。それでビ ートルズの歌詞を全部タイプで打って、レコードも擦り切れる くらいまで聴きました。私はB型なので、マニアックという か、はまるタイプなんです。小学校でビートルズの歌は全部歌 詞を覚えて歌えていたし、スペルも全部わかっていましたが、 歌の意味は全くわかりませんでした。中学に入って英語の勉強 を始めたら、そのぼんやりしていたものがハッキリしてきたん です。 「I’m only sleeping」とかも、ああそうかそういう意味だっ たのかと、そういう感じで歌詞をまるごと覚えているから、わ かってくると楽しくてしょうがないわけです。だから、中学時代の英語のテストでは、94点以下は取ったことないんですよ。 英語がものすごく楽しかったですから。英語と数学だけで慶應 義塾高等学校に入ったようなものですから。

鈴木:そうでしたか。

村井:ええ、数学は大好きでしたし、英語はそういう形で強かったん ですね。ビートルズのおかげで、英語の基礎と文法は身に付き ました。ですが大学の専門の時には、全く話せずにすごく打ち ひしがれて自信が崩壊し、それで専門を英語で議論できるよう になることはとても大切だと思いました。よく中学3年間の教 科書がわかっていれば英語はなんとかなるだろうと言われます が、その意味では基礎の力があったのでブランクがあっても大 丈夫でした。

グローバルコミュニケーションの基盤としてのインターネットと英語


村井:グローバルガバナンスやグローバルな会議体というものは、イ ンターネット以外では存在していないんです。インターネット が初めてなんです。そもそも国際会議といっても、実際は、全 部ナショナルの会議体ですよね。国の利益を追求するのが外交 ですが、グローバルガバナンスを本当に議論し始めたのはイン ターネットなんですよ。

インターネット以外で、僕はWIPO と、WIPOが対象としていたドメイン名○○.comの争いがあっ た時に、インターネット界を代表してWIPOとの調整にあたり ました。WIPO(ワイポ)というのはWorld Intellectual Property Organization/世界知的所有権機関という国際機関 で、取り扱っているのは、全部インターナショナルなことで す。

例えばインターネット上に表示されるcoca-cola.comって いうのは本当にコカコーラという企業が取得しているのか、 madonna.comは本当に歌手のマドンナの商標なのかと言われ ると、そんなことばかりではないわけです(この二つは本物で すが)。そういうグローバル商標としてのトレードマークや、 Intellectual Propertyの議論をするのは、WIPO側も初めてで した。おもしろかったのは、WIPOにとってのacronymとして のIPは、Intellectual Propertyの略ですが、こちらにとって はIPはInternet Protocol で全く違う言語を話すということに なりました。

しかし議論をしていくなかでWIPO側が、本当の 意味でWorld Intellectual Propertyの実態が出てきたと、こ の議論をしたことを先方も大変喜ばれていました。 それは、言い換えれば、本当のグローバルな空間と言うものを 議論できる場を、インターネットが作ったことです。これは間 違いないと思います。WIPOで議論しているときに感じました が、「Truly Global」というのは、インターネットにとっては とても大事な概念です。

インターネットも英語もアメリカ中心US-centricではなく真にグローバルTruly Globalであることの重要性

村井:最初の質問でTOEFLテストがアメリカ から始まっていて、それが今globalなテストになっていると伺 いましたが、それは、実はインターネットと同じなんですよ。 インターネットは技術としては、完全なグローバルな空間を作 ることで頑張ってきていて、US-centricかどうかというのは、 実はとても大事な意趣で、そうではないようにアメリカ側も気 を付けながら議論をしてきました。だからアメリカ側のリーダ ー、ヴィントン・サーフ氏Vinton Gray Cerfやこの議論 に関わった人たちもみなそう思って、私たちと一緒にそういう 世界を作ろうとしてきました。

そんな中、ある会議で意思決定 を待っていた時に、口笛を吹きながら「これはなんかニューオ リンズみたいだ」とかいうジョークを言った人がいたので、 「あなたのそのアナロジーはダメだ」っていうことを注意しま した。大人になっても大学時代にやっていたように、また言葉 遣いの風紀委員になり、アメリカ的なanalogyを使った議論は しないっていうことを確認しながらやっていました。そのこと はそのとき相当意識しましたけれど。

いずれにせよ、インター ネットはアメリカ発祥でグローバルなモノになりました。例え ば、World Economic Forumをご存知でしょうか。スイスの 経済学者、クラウス・シュワブ氏Klaus Schwabが設立し た非営利の財団です。World Economic Forumでは、彼は年 次総会をはじめ様々な場所で必ずインターネットを使っていま す。最新の技術を使い、総会にはインターネットの関係者も必 ず参加させています。彼は、World Economicはインターネッ トで始まったという考えを主張していて、それが全てなんで す。したがってインターネットというのは、「Truly Global」 の本当のグローバルな空間って何?と考えたときの共通基盤に なるんです。

私は、少なくとも今の段階では、誰が何と言おう と、英語は基本的に共通の基盤のコミュニケーションの言語だ と思っています。インターネットと英語はすごく似ていると思 うんですよ。これは、いろんな言語があるのになぜ英語かとい う議論とは全然別のレベルのことです。『インターネットが世 界をつなぎました』という事実と同じで、『英語が世界をつな ぎました』ということだと思います。

つまり言語としての Englishではなくて、基盤としてのEnglishであるのであって、 グローバルな共通の言語を人類が持っているということは、イ ンターネットを持っていなきゃいけないのと同じくらい大事な ことで、そこに英語の役割があるのではないかと思います。

鈴木の感想

1990年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(通称 SFC)が発足しまし た。問題発見・解決、学生は未来からの留学生、英語を必修から外し選 択制に、などなど多くの改革キャッチフレーズを掲げておりました。わ けても、最先端のIT環境を導入し、その環境の中で知はどのように変革 するであろうかという未来学的な命題もその一つです。当時30代の村井 先生は、SFC創立メンバーの一人で、「環境情報学部」に籍を置き、最 先端のデジタル技術を駆使したIT環境の基盤整備、特に、インターネッ トの導入に奮闘されていました。同学部に籍を置いた私たち英語専任教員は、インターネットを取り入れた英語プログラムを立ち上げようと暗中模索しておりました。村井先生は、私たちがITに不得手なことを知 り、村井研究室(WIDE)の学生を送っては、惜しみないIT環境のサポ ートをしてくれました。その結果、遠隔会議システムによる海外交流プ ログラムなど、他にも枚挙にいとまがないほどインターネットによる先 端的な試みをすることができました。

インタビューからも分かるとおり、村井先生は、もともと英語にもかな りの興味を持たれておりました。私たちは、発足と同時にTOEFL ITPテ ストをSFCの英語プログラムの授業前のクラス分けに導入しました。全 キャンパスに導入したのは私たちが最初であったと記憶しております。 1992年頃でしたか、村井先生は、プログラム修了時にもTOEFLテストを 受けさせて、習熟度を測るべきだと主張されました。村井先生の言うと おりでしたが、私たちは、SFCにTOEFLテストを導入したことで満足 し、その見識ある意見には応えませんでした。私は今でも大いに悔いて おります。あの数々の素晴らしい英語プロジェクトを行い、ネットで発 信していた学生諸君は、相当英語力を伸ばしていましたから、それを示 す一つの指標として行うべきであったと反省しております。

ちなみに、 現在、私が管轄するプログラムでは、入学時のプレイスメントに加えて 学期ごとにその後の2年間に4回の習熟度テストを行っています。次回も 村井先生のITや英語に関する興味深い話を聞くことができます。お楽し みに。


(その3)に続きます。


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