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寄り添うJUDY抱きしめて

GARNET CROWの楽曲の中には、実際に存在する小説や映画がモチーフ(元ネタ)になっている歌詞というものがいくつかある。

私は一時期、GARNET CROWの歌詞のモチーフになっている原作小説を本屋さんで買い求めて、時間があれば読み耽っていたことがある。
その理由は3つあり、

・原作内容を知ることで、より深く歌詞の世界観を理解出来るかもしれないと思ったから。

・あのAZUKIさんが自らの作品に落とし込むほど影響を受けた小説とは一体どんな内容なのかが気になったから。

・AZUKIさんを少しでも理解したい、AZUKIさんに少しでも近付きたいと思い、彼女が読んだことのある本や観たことのある映画なら何でも同じように摂取したかったから。


……というのは前回の記事(海をゆく獅子)の冒頭でも同じことを書いたのだが、大事なことなのでもう一度記しておく。

上記の理由で私が手に取った作品がイギリスで2005年に発行、日本で2006年に発行された『わたしを離さないで』という小説だ。


『わたしを離さないで』(わたしをはなさないで、原題:Never Let Me Go)は、2005年発表のカズオ・イシグロによる長編小説である。同年のブッカー賞最終候補作。(Wikipediaより)

簡単なあらすじとしては、1990年代末のイギリスで『提供者』と呼ばれる者達の世話をする31歳の介護人であるキャシーは、提供者達の世話をしつつ自分の育ったヘールシャムにある施設で暮らした奇妙な少女時代や卒業後を回想し、自分達の秘密を紐解いていく。--というもの。

映画化もされており、こちらは映像としては非常に美しいがストーリーはやや説明不足に感じた。
原作読了済みであれば何とか大筋は理解出来るが、最初から最後までずっと総集編を観せられているような、何だかそんな感じ。
ただし、小説の映像補完として観るのであればとても良い資料。

この作品が日本でも話題となり、多部未華子さん主演で舞台化、綾瀬はるかさん主演で連続ドラマ化もされている。(こちらは未履修)

そんな話題作の『わたしを離さないで』が元ネタとなった曲はGARNET CROWの9thアルバム、メモリーズに収録されている『JUDY』

この楽曲はいわゆるGARNET CROW王道路線の、重厚でドラマティックなバラード。
アルバムの曲順では3曲目なのだが、頭からアップテンポな明るいナンバーが2曲続いたあとにここでグッと気が引き締まるように『JUDY』が組み込まれている。

メンバーの中村由利さんが作曲したデモを初めて聴いた時に、『わたしを離さないで』の情景が思い浮かんで作詞したとAZUKIさんは回答している。
なぜ『JUDY』というタイトルなのか、『JUDY』とは一体何なのかは原作小説を読了していれば明白なのだがここでは説明を割愛する。

9thアルバムのメモリーズがリリースされた時期、各ラジオ放送でGARNET CROW(主に中村由利さんと岡本仁志さん)が出演した際には高い頻度でラジオ内で『JUDY』が流され紹介されていたように記憶している。
また、この曲はシングルではなくアルバム曲なのだがフル尺のMusic Clipが存在する。
そして9thアルバムをメインに行われたライブ『livescope 2012~the tales of memories~』ではアンコール第1曲目に配置されるなど、恐らくJUDY』はメンバーの中でもお気に入りの楽曲なのだろうかと個人的に推測している。

そんな楽曲『JUDY』に『わたしを離さないで』からインスピレーションを受けて歌詞を乗せたAZUKI七さん。
原作を読み終えてから改めて歌詞を読み込むと、かなり原作の内容が色濃く反映されているように思う。
原作読了済みのファンなら思わずニヤリとしてしまうほどに。
(ちなみに前回noteに書き記した海をゆく獅子でも同じ感想を抱いた)
よほどデモ段階の曲と声からどぎついインスピレーションを受けたのだろう。

先ほども少し触れたように、『JUDY』はアルバム曲だがMusic Clipが存在する。
少女漫画家 夏目ひらら先生とのコラボレーションにより描かれたオリジナルキャラクターの女子高生が主人公として漫画風に進行するストーリー仕立てとなっており、その女子高生が持っている『JUDY』という名前のクマのぬいぐるみがストーリーのキーとなっている。
また、少女漫画テイストに描かれたGARNET CROWメンバーも映像内に登場したりと、従来のMusic Clipとは全く毛色の違う仕上がりのものが公開された。
最初に『JUDY』を聴いた時に物語性の高いMusic Clipが思い浮かんだという監督により、このような形の映像が制作されたようだ。

しかしここで少し注目したいのが、前述の通りこの『JUDY』という楽曲は小説『わたしを離さないで』からインスピレーションをゴリゴリに受けたAZUKI七さんにより作詞されていることだ。

監督は制作段階では『JUDY』の元ネタが『わたしを離さないで』ということを恐らく知らない。
AZUKIさんもまた、撮影前はMusic Clipが女子高生が主役のストーリーになるということを知らない。
そんな齟齬が生じたまま、100パーセント監督アイデアでの『JUDY』のMusic Clip撮影が進行してゆく。

主人公の女子高生とその恋人が繰り広げる切なく悲しい純愛ラブストーリー。
恋人にもらったクマのぬいぐるみ『JUDY』を抱き締めながら、今日も少女はもう二度と会えない彼に思いを馳せる……。

これAZUKIさん、たぶん

知らんがな


って思ってはないだろうか。
そんなふとした心配がりーぬの脳内を掠める。

一応その後監督との会話の中で「楽曲や歌詞から受け取る印象って人それぞれで興味深いよね」と笑顔で語るAZUKIさんが確認されているので撮影は円満に終了しているようだ。

AZUKIさんは本来歌詞の解釈を受け取り側に委ねるスタンスであり、自分が作詞した内容について言及すること自体はとても少ないのだが、この『JUDY』については「カズオ・イシグロのわたしを離さないでが思い浮かびました」とハッキリとコメントを述べている。
これは映像イメージが自分の意思と違ったことへのささやかな抵抗なのか、それとも……。(考すぎか)

(一応誤解が生じないように書き残しておくが、決して『JUDY』のMusic Clipに対しての批判ではないし貶しているわけでもない)
(ただ、どうしても映像のイメージが固定されやすい作りになってしまっているのでもう少し配慮も欲しかった気もするという個人的要望)


余談だが夏目ひらら先生とはこの後もご縁があり、GARNET CROW初のカップリングBestアルバム『GOODBYE LONELY~Bside collection~』の初回限定盤のジャケットイラストにも携わっている。(こちらは現在入手困難品)

そしてリーダーの古井弘人さんは『JUDY』やカップリングBestのジャケットでイラスト化された自分が大層お気に入りのようで、「自分のアー写を全部これにしたい」と語っている。
かわいい。

以上『JUDY』のお話でした。
今回は読書感想文を回避したぞ。

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