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ソニー・勝利の法則-小説「井深大と井深大と盛田昭夫」 大下英治
電気機器ブランドとして、他とは違うユニークな存在感をもつSONY。その強さの秘密を知りたくて手に取った1冊。少し古い本だがグイグイ引き込まれる。
戦争を乗り越えて再会した二人の共同創業者
この本の主題は、SONYの創業前である。創業者である井深大(いぶかまさる)と共同創業者の盛田昭夫(もりたあきお)がどのような環境で生まれ育ち、ある偶然の出会いをきっかけに友情を深めていったかということがいくつものエピソードで描かれている。戦争・終戦という時代背景も相まって、映画を見ているようにドラマチックなエピソードが多い。
昭和二十年十月六日、盛田は、自宅で朝日新聞名古屋版を手にした。新聞誌面は、まだ用紙不足のため、わずか一枚のみであった。
嘉治隆一の名物コラム「青鉛筆」に眼を落とした。
思わず、アッと声をあげそうになった。
コラムで、あの井深大のことが紹介されているではないか。
「よかった。井深さんは、生きていた・・・・・」
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再会を果たし、東京通信研究所で働く二人の周りには、続々といろんな才能が集まってくる。人を惹きつける二人だったようだ。
創業期の泥臭さ
多くの人が「SONY」と聞いて思い浮かべるイメージは、洗練されたデザインと先端技術、コンテンツや金融にまで広がる幅広い事業領域といったところだろうか。いわばベンチャーとして成り上がってきたSONYには、現在のイメージとはあまりにかけ離れた泥臭いエピソードがたくさんあり、これもまた、おもしろい。昭和二十一年、創業から1年で資金難に陥っていたときのエピソードがこちら。
”電気ざぶとん”は、井深が考案した新円かせぎの冬向け商品である。これは、2枚の美濃紙の間に細いニクロム線を格子状に入れて糊付けし、これをレザークロスで覆ったものだ。石綿も、ましてやサーモスタット(温度を一定の範囲に保たせるための自動調節機構)といった気の利いたものは入ってない恐ろしげな商品である。さすがに、これには東通工の名前を付けるのは気が引けて、"銀座ネッスル(熱する)商会"という名を井深が付けたが、物がない時代だけにこれが売れに売れた。
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どんなに反対されても曲げなかった社名に込めた思い
創業のドタバタ期を経て、SONYは次々とヒット商品を生み出していく。後半は、私たちがよく知る世界のSONYになるまでの痛快な快進撃が続く。その中でソニー株式会社の社名に井深、盛田の二人が込めた思いが素晴らしいエピソードと共に残っている。
昭和三十三年の年明け、井深や盛田は、いよいよ東通工の会社名も変えることにした。ソニー株式会社。商標と社名の統一は、伊深や盛田の悲願であった。「SONY」という商標をつくってすでに三年も経っていた。
が、メインバンクの三井銀行は、猛烈に反対した。
「創業以来十年間もかかって、業界に立派に知られるまでになった『東京通信工業』の社名を、いまさらそんな訳のわからない名前に変えるとはなにごとだ」
社内にすら反対意見が多かった。
「東京通信工業という名前で、なにをつくっているかがわかる。ソニーだけじゃ、なんの会社かわからない」(略)
盛田は、みんなの意見を聞いたうえで、ピシャリといった。
「われわれが、世界に伸びるためだよ」
別の役員が、発言した。
「ソニー電子工業等か、下に電気とかなんとかつけたらどうだろう」
が、盛田は、譲らなかった。
「駄目だ。断固、ソニー株式会社でいくべきだ」
盛田は、単なるソニーに固執するはっきりした理由をいった。
「東通工は、設立当初から、テープレコーダー、トランジスタ、トランジスタラジオと次々にちがったものを開発してきた。これからも、世界にいまだかつてない新しいものをつくり出していくことだってありうる。それは、電気製品にかぎらないじゃないか。飛行機や車をつくるかもしれないよ」
創業から10年、まだまだベンチャーの域を出ないソニー株式会社の創業者の思いや想像力は、時を超えて、確かに今の時代でも生き続けている。実際SONYは、ソニー・ホンダモビリティを設立。2025年の発売に向けて、着々と準備を進めている。「世界に伸びる」という創業者の思いを受けて、もう一度世界をアッと言わせることができるのか。
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