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日本人のたんぱく質摂取量が減少している

行き過ぎたダイエットや中途半端な健康志向が問題か

日本人の食生活に問題が生じている

 日本の食糧安全保障問題とは違った意味で、「食」に関する問題が発生している。日本経済新聞のウェブ版2023年2月9日掲載の記事の内容は、かなりショッキングなものであった。2022年10月1日の日経Goodayに掲載された記事を再編集しとものであるとのことだが、これまで明確には気付いていなかった問題点を認識することができた。当該記事は、東北大学名誉教授で山形県立保健医療大学理事長・学長の上月正博氏に対する取材記事である。
 非常に重大な事実だが、日本人の多くがたんぱく質不足に陥っているという指摘である。現代の日本人の平均的なたんぱく質摂取量は、戦後間もない1950年頃と同水準にまで低下しているというデータがある。
 たんぱく質は、三大栄養素の一つである。人間の体の筋肉、皮膚などの組織や、体の中で働く神経伝達物質やホルモン、抗体なども、全てたんぱく質でできている。また、糖質が不足した際、脂質と同様に、エネルギー源にもなっている。
 たんぱく質が不足すると、人体には様々な悪影響が生じることは、間違いない。現代の日本人の食生活には、問題が生じていると言えるだろう。

日本人のたんぱく質摂取量の推移

 グラフに示すように、日本人のたんぱく質摂取量は、第二次世界大戦後1965年頃までは低水準であったが、経済の高度成長等によって、急速に改善し、1970年代以降、2000年頃までは、高水準を維持していた。1995年のピーク時には、日本人全体の平均で、日量81.5グラムを摂取していたが、その後低下傾向に転じ、一時は70グラム割れとなった。2019年の調査では、71.4グラムとなっているが、これは、1950年頃と同水準である。
 1950年というのは、第二次世界大戦に敗北してからわずか5年という時期であり、国民の栄養状態は、決して良好とは言えない状況であった。むしろ栄養不足、栄養失調の克服が課題だった時期である。そのような時期と同程度というのは、決して良好ではないことを示唆している。
 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2020年版」では、18歳以上の1日当たりのたんぱく質摂取の推奨量は、女性50グラム、男性65グラムとされている。しかしこれは、年齢や生活状況等の違いを考慮していない数値であって、本当に最低限の摂取量だと考えられる。
 上月氏は日経の取材に対して、「推奨量は、欠乏によって病気にならない最低限の目安です。日本人の食事摂取基準でも、良好な栄養状態を維持するのに十分な量を示す『目標値』は、例えば50〜64歳、デスクワークで身体活動量が普通の男性なら91〜130グラムですから、平均摂取量程度では足りないわけです」と語っている。

たんぱく質不足による悪影響が生じる可能性があること


 病気にならない最低限の数値を満たしているから、問題ないというわけではない。実際、たんぱく質不足に陥ると、どのような状態になるのだろうか。
 そもそも人体には、10万種類程度のたんぱく質が存在しているという。そして、そのたんぱく質を構成するのは、20種類のアミノ酸である。その内9種類に関しては、体内で合成することができないため、食事として摂取する必要がある。いわゆる必須アミノ酸と呼ばれるものである。これが不足すると、体内でたんぱく質を生成する際に問題が生じる可能性が出てくる。
 たんぱく質不足によって、人体には、様々な悪影響が生じる可能性が指摘される。表のように、「筋肉」、「皮膚・髪・爪」、「血管・骨」、「酵素・ホルモン・神経伝達物質など」という多くの領域において、深刻な影響が発生する可能性がある。

健康寿命にも影響が懸念される

 とりわけ懸念されるのが、高年齢層になってからの影響である。たんぱく質不足の状態は、健康寿命に大きく影響する可能性が指摘される。サルコペニアやフレイルは、運動能力に大きく影響するし、骨粗鬆症や動脈硬化等も、健康状態に深刻な影響が懸念される事柄である。さらに、精神面での影響や、免疫機能の低下等、健康状態を損なう可能性のある事項が多く並んでいる。
 健康寿命を延ばすことは、平均寿命を延ばすことと並んで、日本人の幸福追求には、非常に大事なことである。いくら長生きしているといっても、健康状態に深刻な問題を抱えている人が多いのでは、幸福度を高めることは難しいであろう。
 経済的側面からも、健康寿命を延ばしていくことは大事である。介護の負担を軽減することで、日本経済への好影響も期待できる。介護については、人的資源を投入しなければならない面が多々あるため、どうしても経済的には負担が重くなる傾向がある。もちろん、テクノロジーの進化などでカバーできる面もあろうが、そもそも介護の必要になる期間が短くなれば、それに越したことはないだろう。
 少子高齢化で、介護人材の供給面には、常にリスクが存在している。介護へのニーズが、健康寿命の延伸という理由で低下するのは、国民経済的にも、積極的に評価される。逆に言えば、健康状態を損なうような要因は、できることなら、排除したいものである。
 食生活を改善することで、たんぱく質不足は、かなり改善できる余地があるものと考えられる。以前から言われていることだが、肉、魚、乳製品、大豆等のたんぱく質の豊富な食材を取り入れることが推奨される。たんぱく質を摂取しなければ、人間は、健康を維持できないということを肝に銘じるべきだろう。
 飽食の時代と言われて久しいが、日本人の食生活は、意外なほど貧しいと言えよう。無理なダイエットや間違った健康法等による弊害は、極めて大きいものと考えられる。Quality of Lifeの観点からも、食生活を見直したいものだと思う。

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