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自動運転レベル5 ~プログラムは命の選択を迫られる⁈~

 交通事故・渋滞の減少と移動の快適性向上を果たすべく車両運転の自動化が進んでいます。米国や中国では既に先行して自動運転レベル4の運行が始まっています。わが国でも道路交通法の改正に伴い今年4月からレベル4が正式に認められ、5月からは福井県永平町でレベル4に対応したサービス運行も始まりました。
 自動運転は、その自動化程度によりレベル0〜5までの6段階に分類されます。レベル0は完全手動運転です。それ以降、ざっくりレベル1~2は自動ブレーキやレーンキープサポートシステムなどドライバーサポートシステムが搭載された車両です。運転の主導権と責任は依然としてドライバーにあります。レベル3~4は条件付き自動運転です。特定の走行区間・環境条件内ではシステムが運転を主導します。そしてレベル5はまだ世界的に実現していないものの、あらゆる条件下で運転の主導権と責任が全てシステムに移行する完全自動運転車です。運転席さえも必要ありません。

 自動運転レベル5が実現すると人が運転するためのハンドル・アクセル・ブレーキ等の操作器具が全て要らなくなるばかりか、ドライバーという概念も不要になります。このことはドライバー不足に悩む物流業界や公共道路交通部門においては朗報です。
 また、一般ユーザにとっても運転が不要な車内は移動オフィスとして利用したり、リラックスするための場所として使ったり、友人とカラオケパーティを楽しむレクリエーションスペースとして活用したりすることができます。窓全面をディスプレィにして映画鑑賞を楽しむという使い方もあるかも知れません。このように自動運転レベル5の実現によって、移動時間を有効活用した新しいライフスタイルが生まれると思われます。
 さらに自動運転レベル5が実現すると自動車を所有するという概念自体が変わるかも知れません。必要な時にカーシェア或いはロボットタクシーを呼び出し、自宅から目的地まで移動できればクルマを所有する必要は無くなるのではないでしょうか。
 現在日本の自動車は動いている時間よりも駐車場に止まっている時間の割合が圧倒的に多いと言われています。カーシェアやロボタクシーサービスが広まれば、この莫大な無駄が解消されるかも知れません。

 このように自動運転レベル5が実現すると交通事故・渋滞の減少、物流・公共交通部門の効率化と共に新しい移動ソリューションの提供、さらに高齢者の移動手段の拡大に大きく貢献するものと期待されます。
 自動運転レベル5を実現するためには現状技術の更なるレベルアップ・情報通信インフラの整備と共に法律・国際的ルールの見直しが不可欠です。完全自動運転車が事故を起こした場合、責任の所在を法的に明確に定める必要があります。また、海外の多様な自動運転車との共存を考慮した国際的なルールの見直しも必須です。ハッキング対策にも万全を期することが求められます。

 完全自動運転車が事故を起こした場合、ドライバーは存在しませんので特殊な瑕疵が無い限り搭乗者が責任を問われることはありません。事故の状況が詳しく調べられることになります。自動運転システムサイドに問題アリとなったとしてもシステムのどこに問題があったのか? センサなのか、アクチュエータなのか、コントローラなのか、通信システムなのか、インフラ側か、自動運転プログラムのソフトウェアバグなのか、またはプログラムそのものなのか・・・? 正確な原因究明は難しそうです。少なくとも車載カメラと運転状況を常に記録しておくドライブデータレコーダの義務化は必須でしょう。
 
 自動運転プログラムを実装する際、トロッコ問題は避けて通れません。例えば、直進すれば急ブレーキを掛けても人を轢いてしまう、ステアリングを右に切れば対向車と正面衝突、左に切れば崖から落下、という状況ではどのようにプログラムすれば良いのでしょうか? 人間が操縦している状況であれば咄嗟のことなのでよく覚えていないとしても自然です。しかし、十分な時間が与えられるプログラマーやエンジニアには、妥当な選択をすることが求められます。このような難しい選択を繰り返しプログラムすることは容易ではありません。
 将来、カメラやセンサの能力が向上した場合は、より難しい状況に直面するかも知れません。例えば、子供か老人かといった選択が必要になるかも知れません。

 このように自動運転プログラムを実装するに際し、命の選択を迫られるような場面に出くわすことになるのでしょうか? 実際には自動運転プログラムは多くの走行パタンを学習したAI(ディープラーニング)が担うことになると思われます。そのため、必ずしもシステムエンジニアが命の選択を迫られるということにはならないのかも知れません。しかし、プログラムの本質にはトロッコ問題のような難しい選択の問題を内包しているということを理解する必要はあると思います。
 また、ディープラーニングの特性上、多くのデータを用いることで信頼性と安全性が向上するということも忘れてはいけません。初期モデルよりもデータを積み重ねた将来モデルの方が高性能になるのは確実です。

 自動運転レベル5の普及を促進するためには、その利点だけを強調するのでは無く、状況と課題を正確に伝える透明性が大切です。難しい課題や選択の困難さも公に認識し、多くの人々の理解と合意を得る努力を惜しまないという姿勢も大切だと思います。
  

                                   <2023/8/15>

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