No.32 石原元氏〜世界と日本の漁業を維持したい〜
JICA(独立行政法人国際協力機構)等での漁業支援活動を世界約40カ国で従事されてきた石原先生は、東京水産大学(現東京海洋大学)で学ばれた後にコンサルタントとして世界で活躍されました。日本の水産業を憂い、食糧自給と海洋環境の保護のために今でも提言を続けています。
ーー少年期のご関心はどのようなものでしたか?
どちらかといえば冒険、自転車、読書好きだったでしょうか。東京都大田区の自宅から那須塩原まで自転車踏破もしましたし、進学先を考えるのも漠然と東京の大学が良いなと位しか考えていませんでした。大学競争率は厳しかったので、高3になってからと駿台予備校でも必死に勉強したものです。特に志望はありませんでしたが、東京水産大学に入学しました。そこで生物や魚の生態を学び、養殖を研究し、次の東大農学部大学院では農業という一次産業の重要性を再認識しました。
ーー日本の漁業課題とは何でしょうか
漁業の経営学、開発学、資源学を生かしてJICAでは途上国をたくさん回りました。約40の国を回り、どの国も同じように1次産業から発展せざるを得ない状況にあり、産業連関を構成するためにも漁業だけでなく、漁獲物の流通や加工生産、貿易まで幅広く経験できたのは有意義でした。いわばコンサルタントとしての関わり方になるので、様々な分野に枝葉が伸びてゆくことで、自分自身も多くを学ぶことができました。漁業の中でも養殖は、経済性のために海洋汚染を生じさせます。公害の低い植物性の餌の開発や海洋環境保全にも関わった経験から、現在は秋田県の洋上風力発電の環境影響低減にも携わっているのです。
電力会社からの要請で、火力発電の温排水問題対策にも従事しましたから、特定領域の一途な研究ではなく、様々に拡がったテーマを扱ってきたわけですね。
日本の水産業は食糧自給の問題や海洋資源の豊富さからもっと注目されるべきですが、「板子一枚下は地獄」と言われるように、常に危険と隣り合わせの厳しい職業であり、収入も自然任せによるところが多いのです。若い方にはなり手として選ぶ仕事候補に上がらないので、日本国にとっての漁業従事者は、例えば公務員としての育成や身分保障が必要ではないかと思うのです。
魚の生態から、漁業経済圏、の指導、養殖や海洋汚染対策まで、幅広いご経験と研究の成果がたくさんのレポートとして残されています。
ーーご趣味は?
趣味の書籍はマルクス、レーニン、サルトル、フーコーからハンナ・アーレント(アメリカ政治思想家)、ヴァルター・ベンヤミン(ドイツ哲学者)まで読みます。映画はゴダールが好きです。「ウイークエンド」で字幕テロップが流れ、「結婚とは合法的な性行為である」とか、「アンドレ・ブルトンも読んだことのない奴ら」とか、映画らしくない所が好きです。クエンティン・タランティーノも好きですね。
最近では、『小山さんノート』(都内公園のホームレス婦人が描いた街の風景)を読んで、人が暴力を用いて支配することの危うさがとても気になっています。「もしトラ:もしも、トランプが大統領になったら」は、世界が再び一変するだろうとほんとうに心配です。
魚類学者と哲学者を兼ね備えた石原先生は、研究生活がお好きなようです。ご自身の探求を「今西錦司ーそのアルビニズムと生態学ー」としておまとめになるほどの文人でもありました。
<取材:2024/03/22>