食欲減退グルメ漫画『鬱ごはん』
串カツの二度付け禁止のソースを見て、他人の唾液を想像したことのある人にわたしはこの漫画をオススメしたい。
作者は『バーナード嬢曰く。』や『銀河の死なない子供たちへ』等の施川ユウキ先生だ。こちらもかなり面白くてオススメだが、今回は『鬱ごはん』について書こうと思う。
『鬱ごはん』はわざわざ言わないけど絶対みんな思ってるよね?ということを淡々とそして不味そうに描いている。不味そうなグルメ漫画ってありますか?ほんとにめちゃくちゃ食欲が減退します。(でもめっちゃ面白い。)
主人公の鬱野は就職浪人のフリーター、これがかなりのネガティブで陰鬱な男。でもなんかかわいい、卑屈で情けなすぎて。頑張ってるのに上手くいかない鬱野。人の一語一句一挙一動に一喜一憂する鬱野。「スミマセン。」と店員を呼んだ声が他の客と重なって気まずいことを気にする鬱野。どうでもいいことを考えすぎるところが愛おしい。
この漫画に出てくる"食"はチェーン店やスーパーで買える身近なもの。そしてそれに紐付けた日常。全然美味しそうじゃない作業的な食事。何も特別じゃない。詳細な味の説明や肥えた舌とオーバーリアクションが出てこない安心感。
一応だが、私は美味しいご飯が大好きだし、どちらかというと食に興味がある。だけど元来、"食事"とはグロテスクな行為だと思うし、この漫画はそのことを思い出させてくれるから好きなのだ。
野暮に噛みちぎって口の中でぐちゃぐちゃにする、それを飲み込む感覚、そしてそれが胃液で溶かされて、体内を巡り排泄するという感覚。汚くて気持ち悪い、そういう感覚のある人はこの漫画を読んで心地いいと思うだろう。
そして、なによりこの漫画の面白さは作者のひねくれた観点と感性、例えの逸脱さ。初めに書いた串カツの話も本編にあり、鬱野は串カツを食べなから十数年継ぎ足した秘伝のタレのその壺の底を考える。そこには埃に虫の卵と色々なものが沈んでいるんだろう。それをガンジス川の濁りに例えては不摂生であることも価値を生むのだと、二度付け禁止のソースに串カツを浸す。
わかる。不摂生だなと思いながら結局食べる。そういう諦めも含めてめちゃくちゃ共感する。
これはグルメ漫画ではなく作者のエッセイを読んでいるような面白さもある。心の中の独り言が多い人は共感しながら読めるんじゃないだろうか。
ちなみにわたしは「オーダーメイドサンドイッチ」と「パン屋」の話が大好きです。