【交通事故】自転車×貨物車の事故被害者(20代女性)が腰部につき後遺障害が認められなかった事案

1 はじめに

 大阪地裁令和5年6月9日判決(自保ジャーナル2162号88頁)をご紹介。自転車×貨物車となると相当強い衝撃が生じただろうと思われますが、具体的な治療経過等を踏まえた上で、後遺障害が認められなかったという事案です(なお自賠責は当初から非該当)。

2 事案の概要

 自転車を運転する女性(27歳)が歩道を走行中、右側路外駐車場から公道に進入しようとした普通貨物車に衝突され転倒し、地面に両足の膝や右肘、頭部の左側を打ち付けたという事案。
 事故日は令和2年8月19日午後3時43分頃。
 被害女性は、8月26日に右臀部から下肢にかけてのしびれを、同年11月21日に両手指のしびれを訴えはじめたが、通院期間中はしびれが解消されることはなかった。
 その後の腰部のMRIを実施した結果、L4/L5、L5/S1の椎体間レベルにて椎間板の膨隆性変化による椎間孔狭窄所見が認められ、右側のヘルニアが存在し、これが神経根等を圧迫していると認められた。
ヘルニアの症状は事故前はなかったが、外傷性の所見はなく、主治医も事故によるものではないと所見を示している(経年性の疑いがある)。

3 裁判所の判断

 腰部に加わった事故の衝撃は、ヘル二アが発症する程度の強い衝撃であったかは疑問が残ること等から、ヘルニアが事故によって発症したとは考えられない。
 無症候性のヘルニアが、事故を契機として発症したと考えることもできるが、事故直後からしびれの訴えが申告されておらず、事故から2年半以上経過した現在においても症状が改善しないことからすれば、本件の症状は、事故によって生じた傷害の影響より、事故当時に存在していたヘルニアの影響による部分が相当大きいといえる。
 裁判所は、「事故を契機として自らの身体の状況をより正確に感じ取るようになったために、右臀部から下肢にかけてのしびれについても自覚するよういなった可能性は否定できない」と述べた。

4 まとめ

 本件は、頻繁に問題になる、無症候性だったヘルニアが事故の影響で発症するという事案の一つです。
 一般の方から見れば「事故が原因なんだから後遺障害を認めるべきだろう」という見解が多いと思いますが、法的にはハードルが高いのは難しい所です。
 MRI等の医学的所見は本人にはどうしようもないところ(客観的な事実)ですが、本件のように、事故直後から痺れを訴えなかったことが不利に働くことは往々にしてあります。しっかりと、どこが痛いか、しびれはあるか、ということをお医者さんに説明・申告することが大事な事案と言えるでしょう。

  


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