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High Jumpの読書記録~すべてがFになる~(ネタバレあり)

High Jumpの読書記録のコーナー!!

第3回は......

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森博嗣先生の「すべてがFになる」です!!

前回もお話ししたと思いますが、自分はyoutuberのヨビノリのたくみさんが大好きで、とても尊敬しています。そのたくみさんはメインチャンネルの他に「ほんタメ」という本好きのためのチャンネルのMCをやっているのですがその中に「理系ミステリ小説√9選」という動画があり、自分も工学部の大学院生というガチガチの理系なので見てみたところ、この小説を紹介していて、気になったので読んでみることにしました。

事件の舞台は、妃真加島という小さな島。この島は天才工学博士、真賀田四季の研究所になっていて、ここで彼女は15年の間、密室で外部との物理的接触を断ち、日々研究をしている。ここに大学の研究室旅行で来ていた助教の犀川創平と学生の西之園萌絵。しかし、二人が旅行に訪れたその日、真賀田博士は研究所内の密室の中で死んでいた....。一体何が起きたのか。S&Mシリーズの第1作目。

著者の森博嗣先生は元名古屋大学工学部助教授で、がちがちの理系である。がっつり理系の話であった場合、自分でもついて行けるのか不安であったが、理系の内容の部分は、比較的説明もしてくれていて、読みやすかった。

ミステリー小説の一番の見所、事件の真相の部分については、謎を一つ一つ論理的に解き明かしていっていて、最初は「どうやって解決するのだろう。」と思って読んでいたが、読み終えるときには、「なるほどなぁ」と納得している自分がいた。しかしその内容は、論理的にはもちろん可能であるが、現実的にはとてもあり得るようなものではなかったですが、(笑)

なにより自分が読んでいて一番面白いと思ったのは、事件を解決していく過程で繰り広げられる、犀川創平と西之園萌絵の会話です。日常にはびこっている抽象的な概念などを、二人が論理的に考えを練りながら正解と呼ばれるものを探していく、この会話が自分はとても面白く、「つぎはどんな会話が来るのだろう」と注目して読んでいました。

その中で印象に残ったところを1つご紹介します。
これは事件に遭遇する前の大学の研究室で、学生の一人である浜中のパソコンの調子がおかしくなり、調べてみるとウイルスに感染していた場面での会話です。(以下本文より抜粋)

「十九世紀に発明された技術も、大衆にはマジックの延長みたいに思われたはずだからね。ところで、生命がある、つまり、生きている、ということは、どう定義されていると思う?」
「いつか死ぬものが、生きているという意味ではないですか?」
浜中が真面目な顔で言った。
「それは、だめよ。浜中さん」
萌絵が先輩の浜中をみてすぐに言う。
「死ぬという定義のまえに、生きていると言うことを定義しなくちゃ。私は......、そうですね。自己繁殖することだと思います」
「じゃあ、コンピュータウイルスは生物だね」
犀川は口もとを上げた。
「それに、稀にだけど、子孫を増やせない生命もあるよ」
「有機物でできていなくちゃいけないんだわ。そう、生き物は全部、有機質でしょう?」
「有機と無機の定義は、現代では、もう非常に曖昧だね」
犀川は答える。
「もともと、生物を構成する物質を有機と名付けたんだからね......。つまり、それは生命体の死と同じように定義には使えない」
少し考えてから萌絵が言った。
「先生、答があるのですか?」
浜中深志も黙って頷いた。
「そう、僕の認識ではね......、生物の定義は、やはり曖昧だ」
犀川は煙草を右手に持って先を回した。
「自己防衛能力、自己繁殖能力、それに、エネルギィ変換を行うこと、それくらいかな......。しかしね、たとえば、木でつくられた可愛らしい起き上がりこぼし想像してごらん」
「起き上がりこぼし、ですか?」
浜中が繰り返した。相手の言葉を繰り返す場合は、認識に時間がかかっている証拠であり、ほとんどの場合、思考が停止していると見て良い。
「いいかい?それは有機質だ。木でできているからね。それから自己防衛能力がある。倒されても起き上がるだろう......。それにポテンシャルエネルギィを運動エネルギィに変換している。」
「自己繁殖はしないわ」
萌絵が言った。
「ところが、その起き上がりこぼしは、ものすごく可愛らしいんだよ。だから、それを一目見た人間はそれが欲しくなる。そのため、どんどん生産される。つまり、可愛らしいという自分の能力で、結果的には自己繁殖していることになる」
「でも、つくるのは人間でしょう?自己繁殖ではありません」
「他の生物の助けを借りないと繁殖できない生物は世の中に沢山いるよ。花が咲くのは、昆虫に可愛らしく見せて、自己繁殖の助けを求めているからだろう?」
「それじゃあ、先生は、その起き上がりこぼしが生命体だとおっしゃっているのですか?」
萌絵はきいた。
「さっきの定義だと、そうなるね」
犀川は答える。
「だから、曖昧だって言っただろう。もちろんDNAなんかで厳密に定義すれば、答は違う物になるけどね......。というで、僕は、コンピュータウイルスは生命体だと思っている」

どうですか?「生きている」という私たちと密接に関係しているのにもかかわらず、抽象的な言葉について、いろいろな角度から説明を試みている会話です。
「起き上がりこぼし」は生命体なのでしょうか?
一見、「そんなわけないじゃん」と思っていても、犀川先生の話を聞くうちに、「確かに生命体といえるのかもしれないな、そもそも最初にそんなわけない、と思った理由についても自分では説明ができない。」と自分は考えてしまいました。突き詰めていくと曖昧なものっていうのは世の中にたくさんあって、私たちはそれを分かった気になって生きているのかもしれませんね。
とりあえず、僕は「起き上がりこぼし」が以前からとても欲しかったので、落ち着いたら、会津若松にでも旅行にいって買ってこようと思います(笑)

非常に面白かったので、つぎのお話も読んでみようと思います。
読了し次第、またここで感想を書こうと思います。
ではまた次回、バイバーイ

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