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改めて全景を眺めてみる!日本のスタートアップ・エコシステム戦略

「NIKKEISHA STARTUP TABLE」では、スタートアップの「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。

スタートアップの創業や成長のために、日本でもさまざまな政策や取り組みが行われています。成長のための環境基盤として、どのようなエコシステムが形成されているのか、改めて全体の概形を眺めてみたいと思います。

先般、「立役者と語る!日本のスタートアップ・エコシステム戦略」と題して、経済産業省でベンチャー政策や新規事業創出支援を牽引されている新規事業創造推進室長の石井芳明氏に、具体的な政策の内容や今後の動きについてお話しいただきました。その講座から、ポイントを少しだけご紹介します。

■スタートアップのグロースのために

ウェビナーでは、石井さんから現在の日本のスタートアップ・エコシステム戦略についてお話ししていただきました。

石井様_プロフィール画像

まず、スタートアップを巡る政策の現状についてですが、スタートアップ・エコシステムが盛り上げってきている中で、もっとグロースするスタートアップを創出すべく加速が必要だと思っています。

世界の流れと比べると、グロースする経済の中心となって動いていくスタートアップの数が現状ではまだまだ少ない。グロースの度合いが少ないため、そこをさまざまな切り口からしっかりと応援しようとなっています。

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創業基盤形成としては、起業家を増やすための教育や、シードの場面で事業立ち上げを応援する資金、支援機関の連携、スタートアップ・エコシステムを形成する都市を認定して盛り上がりを応援する等といった取り組みを行っています。スタートアップを育成する環境としては、やはり人材が重要ですので、「始動 Next Innovator」等、起業する人材を増やしていくプログラムも行っています。

グロースで大事なのはグローバル化の推進です。「J-Startup」をはじめ、「J-Startup」の地域版も動いており、グローバル展開を応援する動きを強化しています。

また、スタートアップが成長する上では、投資という観点も非常に重要ですので、投資環境の整備もし始めるところです。投資契約に関わるさまざまなガイドラインの作成や、未上場の投資環境を改善するために司法制度を見直していく等、金融庁と一緒に進めているというところです。上場についても、IPO後も成長を続ける企業が出てくるようにと考え、そうした領域における検討も進めているところです。

グロースで重要なのは、レイターステージにおける資金供給です。最近は日本のスタートアップも海外投資家から資金を得る例も増えてきましたので、こうしたところも応援していきます。もう一つ、日本の機関投資家もしくは年金基金からもスタートアップへ流れ込むお金が増えてくると、グロースのところがしっかり支えられると考えています。イグジットに関しては、M&Aをもっと推進していきます。IPOの数は増えてきていますので、それと併せてM&Aもしっかり応援できる形になればと。まさに今、M&A税制に取り組んでいますので、そうしたところも強化していけたらと思っています。

規制改革にもどんどん取り組んでいきます。スタートアップは、新しい分野に挑戦しています。その新しい分野に関する規制が存在するかどうか分からないという場合には「グレーゾーン解消制度」がありますし、既存の規制を突破したいという場合には「規制のサンドボックス」で実証、そしてそれを「企業実証特例」で制度化していく、といった流れも出てきています。

例えば、本日は渋谷(会場:日経渋谷センター)におりますが、渋谷で電動キックボードをよく見かけるようになりました。今は、さまざまな会社の電動キックボードが動いています。実は、警察や国交省と調整し、規制を緩和しながら新しい試みを応援しています。このように、いろいろな面からスタートアップを応援できればと思っています。(NST注:その後、2022年国会に道路交通法の改正案が提出される旨の記事が各メディアに掲載されました)

改めて整理しますと、グロースするスタートアップの創出のためには、基盤の形成、成長の応援、規制の最適化、が大事と思っています。

■大企業とスタートアップとの連携に向けて

オープンイノベーションの観点からも、少しお話しします。

「オープンイノベーション税制」を導入して僅か1年間ですが、100件を超える利用が進んでいます。スタートアップへの出資額の25%を課税所得から控除するといった、出資すると税金が安くなるという特例制度です。実はこの税制には時限がありまして、今年度の3月までとなっています。我々も延長要望・拡充要望を図っていきたいと思っていますが、もちろん沢山利用されることが第一ですので、ぜひスタートアップへの出資を増やすきっかけづくりとして積極的にご活用いただきたいと思います。スタートアップ側は資金・技術・販路といった大企業の経営資源が活用できますし、大企業側でもポートフォリオの見直しや新事業の開拓に役に立つと思います。

最近、大企業の方では、スタートアップとの連携を進めていく中で、新たに事業や連携事業を始めたりする方々が増えてきました。その中でよく聞かれることとしては、社長の指示で新しく設けられた部署に人事異動で着任したのだけれども、何から始めていいのか分からない、スタートアップとの連携ってどのように進めたら良いのだろう、という悩みです。そのような方々のために、経済産業省の方では、事業会社と研究開発型ベンチャーの連携のための手引きをご用意しております。

また、大企業やスタートアップのM&Aに関する調査等も実施していますので、ぜひご参考にしていただければと思います。

一つ注意していただきたい点としては、大企業とスタートアップの連携やスタートアップ投資が進む中で、対等でフェアな取引がなされていることが非常に重要だということです。スタートアップと大企業がwin-winな関係をきちんと作れるかどうかが大事です。しかし、一部の案件では、大企業側のいわゆる優越的地位の乱用的な動きが起こっています。お金を出す側として、もしくは大きな企業として、スタートアップと交渉する際につい行き過ぎた交渉をしてしまう。そうした場面が起きていることを受け、公正取引委員会の方でも、一昨年から調査を実施しています。

この調査結果からは、例えば共同研究を始める際にNDA契約をしっかり結ばなかったりNDA違反してしまう、あるいは交渉においてスタートアップに取引を制限させたり、他者との交流を制限する、等もところどころで起きていることがみてとれますので、こうした事態には、注意喚起の指針を出しています。

現在、ベンチャーキャピタルとスタートアップの関係でも時々優越的地位の乱用のような動きがあり、これらについてもベンチャーキャピタル協会の方々と、少し不適切なものがあるならば是正する指針を検討してはどうかとお話ししています。

スタートアップとの連携がどんどん進んでいくのにつれて、より適切な関係構築が求められる時代になっています。ぜひその点もご留意いただければと思っています。

■これからのJ-Startup

ちょうど先週(2021/10/20)、「J-Startup」の第3次選定を発表させていただきました。メディアやSNSでも話題にしていただき、本当に有難いなと思っています。

そもそも「J-Startup」がどのような試みかというところから、少しお話ししたいと思います。

「J-Startup」は、日本のスタートアップに次の成長を、世界に次の革新を、という意図で始めています。スタートアップは、今では日本に約1.5万社存在しているかと思います。しかし、グローバルに展開して大きく伸びていく企業はまだ一部しかいません。政府としても、世界で勝てる企業を創り出す、その応援をする、といったことが必要だと考えていますので、J-Startupを選んで集中的に支援を行っています。

「ブームから、カルチャーへ」として、スタートアップのチャレンジが当たり前なものとなり、そのチャレンジが経済の大きな柱になっていくようにと考えています。ここで生まれた企業が次々と育っていき、スタートアップ・エコシステムがさらに強くなることを期待しています。

具体的な支援としては、政府の海外ミッションや国内外の大規模イベントへの出展支援等を行っています。また、JETROで世界各地にイノベーションハブがありますので、こちらを活用して現地との繋ぎを支援しています。さらに、NEDOではテック系スタートアップの支援制度をたくさん持っていますので、NEDOのテック系支援制度を優先して活用したり、その他諸々のビジネスマッチングを進めていったり、といったことを行っています。規制緩和に関しても、J-Startupは優先的にファーストトラックで規制緩和を推進しています。

民間からも、事業スペースや研究開発のための機器の提供、テストマーケティング等の協力をしてくださっています。また、アクセラレーションプログラムを実施しているところでは、優先的にJ-Startupを採択してくださっているところもあり、官民でスタートアップの支援を強化しています。

では、この集中支援する企業をどうやって選ぶのかというところですが、政府で選ぶというよりも、民間の目利きの力で選んでそれを官民で連携して応援する、といった取り組みになっています。推薦委員、民間のベンチャーキャピタル、大企業でオープンイノベーションに取り組まれている方々、それから大学や研究機関の有識者の方々。こうした方々に推薦していただき、その中から選定しています。

今回、第3次の選定にあたっては、推薦人を追加しています。今まで男性に偏っていたため、女性の推薦人を新たに追加させていただきました。ベンチャーキャピタルの推薦人も多いのですが、もう少し大所高所のところから見ていただく必要があるということで、機関投資家関連の方々、そしてエコシステムビルダーの方々にも新たに推薦人として加わっていただいています。

第1次選定は92社、第2次選定で49社、今回は50社と、合計で188社となっております。

図2

今回のポイントとしては、医療・宇宙・モビリティ・DXといった、新規の成長分野を選定させていただきました。また、SDGsやグリーンテックというような分野が加わっています。資金調達のステージも幅広く、シードからシリーズが進んだところまで選んでいます。地域については若干偏りがあり、首都圏に集中しているため、もう少し地域のスタートアップが出てくることに期待したいところです。「J-Startup地域版」がJ-Startupの登竜門となっている部分もありますので、地域版からも企業を探していければと思っています。経営者の男女比率でみると、やはり男性が多くなっており、女性の活躍の場を今後拡大することが大事なテーマとなっています。

公的機関でしっかり応援することと併せて、民間企業の方々にもJ-Startupをぜひ応援していただければと思います。たくさんの企業にJ-Startupサポーターになっていただいております。またJ-Startupに限らず、挑戦する人やスタートアップを応援していく動きをどんどん進めていければと思っています。

岸田新総理の所信表明演説の中で、イノベーションの担い手であるスタートアップを徹底支援するという意思が示されました。政府を挙げてスタートアップを引き続き支援していきますし、オープンイノベーションの推進や民間企業との連携でのスタートアップ支援も進めていければと思っています。



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