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「顧客理解」がBtoBマーケティングに必須な理由とは?

「NIKKEISHA STARTUP TABLE」では、「挑戦」と「変化」を目指す企業の「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。
 
コロナ禍で急務となったデジタル・トランスフォーメーション。BtoBの営業活動においても、急速にMAツール等を活用したオンラインマーケティングへの期待が高まっています。しかしながら、戦略設計ミスやズレた施策立案が原因となり、期待通りの成果を得られていない企業も少なくありません。

そこで今回は、株式会社才流の澤井和弘さん、株式会社日経BPコンサルティングの菅野和利さんにBtoBマーケティングの戦略設計とコンテンツマーケティングについてお話しいただきました。

よい購買体験は、顧客理解から。事例でわかる顧客理解の重要性。

BtoBビジネスにおいて、カスタマーサクセスやサポートなどの役割を設け、契約後の顧客満足度を上げるためのフォローをしている会社は多い。しかし、「契約前の購買体験」の最適化については、まだまだ取り組めている会社は少ない。

よい購買体験を顧客に提供するには、どうすればよいのか。才流の相談事例から紐解いていく。

■相談事例①「営業を挟まず、マーケティングの力だけで売りたい」

「検索してWebサイトでサービスを理解。その後、無料トライアルを申し込み、そのまま有料プランに転換する」というカスタマージャーニー構築支援の相談事例が紹介された。

澤井氏によれば、このような「マーケティングの力だけで受注する」というカスタマージャーニーは、多くの担当者が抱きがちな理想・幻想とのこと。

この事例では、実際に受注できている購買プロセスを調査してみると、営業を介在させずに受注を獲得するのは極めて困難なことがわかった。

BtoBのマーケティング・営業活動は、コロナ禍の影響で大きくオンラインシフトが進んだが、すべてがWebや無人で完結するわけではない。あくまでも顧客の購買プロセスに合わせたコミュニケーション設計が必要だ。

■相談事例②「デジタルマーケティングを強化したいが、どの施策から始めるべきか?」

次に、デジタルマーケティングにおける施策の相談事例が紹介された。

澤井氏いわく、施策から考えるのは間違いで、顧客理解から始める必要があるとのこと。顧客理解ができてないと、適切なマーケティング戦略が描けず、戦略がなければ施策は決められないからだ。

以下3つは、顧客理解ができていないシグナルだ。
・サービスサイトの内容が「顧客の知りたい内容」になっていない
・ホワイトペーパーやセミナー経由のリードすべてに商談を打診しており、顧客コミュニケーションが雑になっている
・リードや問い合わせは増えても、商談や受注に繋がっていない

このような状態に陥ってしまう原因の1つが、「想定していた購買プロセスと、実際の顧客の購買プロセスのずれ」である。

顧客理解が不足していると、実在しない自社に都合のよいカスタマージャーニーを描きがちだ。事例の相談者は「検索→問い合わせ→見積もり→発注」というシンプルなカスタマージャーニーを想定していたが、才流で調査を重ねた結果、実際の顧客は「検索する前に発注先を絞っている」ことが明らかになったのだ。

この結果を踏まえ、才流では「購買潜在層へのリーチの強化」「他社との差別化要素の露出」という対策を提案した。仮にこのケースにおいて、リスティング広告やSEOを強化していたら、受注に繋がらなかっただろう。

このように、顧客理解こそマーケティング活動の基盤であり、施策を考える前に顧客理解を徹底する必要がある。

●顧客理解を深めるためにできること
・既存・見込み顧客へのインタビュー
・ユーザーテスト
・問い合わせ内容やSFAの商談履歴の分析
・受注・失注・解約理由
・受注企業の経路分析
・(マーケティング担当の方)営業同行
・営業・インサイドセールス・カスタマサポートとの情報交換

BtoBマーケティング戦略の成功のカギは、顧客理解が握っている。カスタマーサクセスのように、顧客の課題や購買プロセスなどへの理解を深めた上でマーケティング戦略を行うことで、受注につながるよい購買体験を提供することができるのだ。
具体的な施策に悩んだ際も、顧客理解に立ち戻ることで、おのずと必要な戦略がわかるだろう。

「役立つ」「面白い」コンテンツを受け手によって作り分ける

顧客理解の後、どのようなコンテンツを作るべきか?菅野氏からは次の2つのポイントで紹介された。
①受け手にとって「役立つ」「面白い」。
②受け手によって作り分ける

編集という仕事は、誰かのために「集めて編む」仕事。編集は、読者が求めていることをコンテンツという形にする。コンテンツマーケティングも編集と本質的には同じ。受け手が求めていることをコンテンツにして届ける。

受け手は誰か?何を得たいのか?が分かってきた時に、どのようなコンテンツを作ればいいのか。菅野氏は、「顧客が読み飛ばすWEBページ」となる事態を避けるためには、以下のようなコンテンツづくりを意識するべきだと説く。

■「役立つ」こと、「面白い」ことの2軸を意識してコンテンツを作る

「役立つ」と「面白い」が両立するコンテンツが、最強である。ソリューション紹介コンテンツのタイトルの付け方を例にしてみてみよう。

改善前▼
DXの新機能を開発!!
独自のDX勤怠可視化ソリューションを発表。

よくありそうなニュースリリースだが、「流行っているから単にDXってつけただけかも」という印象もある。

改善後▼
【マンガでわかる】勤怠DX
本社も工場も手ぶらで出退勤 自動管理で負荷1/3に

「漫画って読みやすそう(面白い)」とか、「管理の手間が1/3なら助かるな(役立つ)」など、受け手に刺さる可能性が高くなる。このように「役立つ」「面白い」を入れていくことで、同じ内容でも印象が変わる。

■受け手によって作り分ける

「役立つ」「面白い」を入れればいいだけでなく、適切なタイミングで届けることも重要だと菅野氏は説く。
他社事例や導入コストがすぐに知りたいと急いでいる担当者には「【マンガでわかる】」のコンテンツは刺さらない。競合比較や機能表といった具体的な内容が求められる。
「ちょっと調べておこうかな」という顧客は、「役立つ」トレンド、課題解決策などの読み物コンテンツが刺さる可能性が高い。

こういう場合、同じ元ネタでも書き分けられる。1つの導入事例でも、あえて2本の事例コンテンツとして出すこともできる。ここでも、コンテンツを作り分けるには顧客理解が必要だ。

■チューニングし続ける

菅野氏いわく、もう1つ重要なポイントは、チューニングし続けること。 チューニングして反応が増え、より顧客が見えてくる場合もある。

コンテンツのチューニング事例①
もともと決裁者向けだった記事を、いい記事なので20代の若手にも読んでもらいたいと考え、記事のターゲットを拡大した。20代のビジネスパーソンにヒアリングをしたところ、コンテンツ消費で失敗したくない傾向があった。記事の冒頭に、この記事で何を得られるのか「3つのポイント」を入れ、有用な記事であることを初めに示した。

コンテンツのチューニング事例②
興味を持ってもらう目的で作ったWeb記事が、テーマの時流に乗ってPVが急増した。問い合わせになんとか繋げたいと考えた。記事下に「ご相談はこちらから」というバナーを挿入したら来訪者から問い合わせがあり、トライアルにつながった。

このように、ちょっとした変更が成果につながる可能性がある。チューニングし続けることが非常に重要である。

BtoBマーケティングにおけるコンテンツ発信も、雑誌などの編集と同じように、受け手(顧客)への理解を基盤にしたコンテンツ作りが重要だ。事例やホワイトペーパーなどのコンテンツも、タイトルなどでの「役立つ」「面白い」を意識した見せ方で、より受け手に刺さりやすくなる。これからコンテンツ発信を始めるスタートアップのみならず、これまでにコンテンツの蓄積のある企業も、顧客理解とマーケティング戦略をもとにチューニングしていくことが望ましいだろう。


◇会場からのQ&A

Q
顧客理解が大事だと分かっても、実際どんな手法を取るか悩まれる方も多いかと思います。よく行う方法・最初に行う方法があれば教えてください。

A:澤井氏
見込み顧客へのインタビューが一番効果的です。
たとえば、「ビザスク」というサービスを使えば、かんたんに想定見込み顧客にインタビューできます。または、ターゲットに近いお知り合いがいれば、少しお話を聞いてみてください。これだけでも、かなり顧客理解が深まるはずです。
おおよそ5〜10名インタビューすれば、何かしらの傾向が掴めることが多いです。迷ったらまず顧客に聞く。これを徹底してみてください。

Q
コンテンツを作り始める時に「役立つ」と「面白い」を意識して作るのは難しいかと思いますが、最初の1歩として作るコンテンツについて教えてください。

A:菅野氏
事例が1番作りやすいと思います。
実際に課題を解消するために使っていただいている方の声なので、そのままコンテンツになる。これは明らかに「役立つ」ものです。「面白く」見せるかは腕の見せどころですが。
事例を出せないケースでは、自社の開発者の方が語るコンテンツでも、十分に「役立つ」コンテンツになると思います。特に技術オリエンテッドな企業の場合は、開発話は「役立つ」かつ「面白い」コンテンツになり得ます。しかも、自社の社員であれば情報を出す範囲をコントロールできます。
まずは、人のインタビュー、事例インタビューから始めてみるといいですね。ユーザーへのインタビューも非常に有効だと思います。例えば事例1つを見せて感想を聞き、それを反映して2つ目の事例を作る、というのも有効です。

Q
カスタマージャーニーは、ペルソナごと、課題ごとに作成していくのがよいのでしょうか。課題を洗い出してみると、大小数多く出ますが、優先順位はどのように決めていくのがよいのでしょうか。

A:澤井氏
ペルソナごとに抱えている課題が異なるので、カスタマージャーニーはペルソナごとに作るのがおすすめです。ただし、課題を細分化しすぎても、そのペルソナのニーズに当てきれなかったり、そもそもパイが小さすぎたり、ということはあり得ます。
市場や課題の大きさを加味しつつ、ペルソナを分けていくとよいと思います。

Q
SIerのマーケティングと、他社のSaaSを販売する販売代理店のマーケティングを担当しています。どのようなマーケティング施策やコンテンツがよいでしょうか。

A:菅野氏
ご質問だけでは“顧客理解”の情報が不足しているので、なんとも言えないのですが、IT系では、レジリエンスやゼロトラストといったキーワードの把握が重要になります。
そういったキーワードの解説と、そこに結び付けるソリューションの記事は必須だと思います。注意すべきは、キーワードのライフサイクルへの理解です。すでに普及期にあるキーワードの記事で「○○がこれから必要です」はもう遅い。そのキーワードはこれから盛り上がるのか?すでに競合が多くてコスト勝負なのか?を理解して、トレンドを外さないコンテンツにすべきです。


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