「海色マーチ」の舞台をゆく:沖縄の奥武島(おうじま)
裏表紙まで広がる海の透明感あふれる表紙が目立つ、まんがタイムきらら(芳文社)連載のマンガ「海色マーチ」。惜しくも2巻で完結となりましたが、せっかく聖地巡礼までしたのだから、何か書かねばもったいない……ということで、作品に出てくる宇御島(うおじま)のモデルとなった奥武島(おうじま)を歩いたときの写真を載せておきます。
海色マーチはファンから「狂気を抜いて日常の質感を得たキルミーベイベー」という謎の形容がされています。登場人物の比屋定 珊瑚(ひやじょう さんご)ちゃんが、小波 周(さざなみ あまね)ちゃんにパワーあふれるスキンシップをするシーンが目立つからでしょうか。
周ちゃん「こんなのハグじゃないよ!朝ごはんでちゃう──!!」
沖縄の中心地・那覇から南西へ行ったところにある南城市(なんじょうし)。沖縄本島から橋で繋がる離島が舞台のモデル奥武島(おうじま)です。航空写真では、島の東側にある漁港とグラウンド、南側にある広い礁池(イノー)を確認することができます。
作中のコマでは奥武島の特徴をとらえて宇御島が描写されています。
(海色マーチ第1巻,芳文社,ミナミト,2019,p.7より)
裏表紙にある宇御島の全体図。モデルの奥武島にはないスーパーや中学校が設定上追加されているのが分かります。
(海色マーチ第1巻,芳文社,ミナミト,2019,裏表紙より)
奥武島をバス車内から見たところ。写真中央の島が奥武島です。
旭橋にある那覇バスターミナルから50系統百名線に乗ると、所要1時間弱で奥武島唯一のバス停・奥武に着けます。
バス停の前は黄色で斜線が引かれており、バスの転回場所であることが示されています。余談ながら、沖縄のバス停はほとんどこの形と色です。
バス停の前には作中にも出てきたような天ぷら屋さん(中本鮮魚てんぷら店)があります。奥武島は天ぷらが名物らしく、島内では数軒の天ぷら屋を見ることができます。天ぷらは1つ75円から売っており、ちょっとしたファストフード感覚で買っていく方が多いようです。
点在する各店舗、店構えには特色があります。訪問時も次々に車が来ては、袋いっぱいの天ぷらを積んで去っていきました。時間によっては長い行列ができているようです。
周ちゃんが目を見開いて「うんめっ!」と唸るほどの味らしいです。
(海色マーチ第1巻,芳文社,ミナミト,2019,p.18より)
せっかくの聖地巡礼なのだから、登場人物の周ちゃんや珊瑚ちゃんが食べた天ぷらを味わうべきだったのでしょうが、このときは前日に飲みすぎたせいで軽く二日酔いしており、コッテリな天ぷらを食べるのは避けておきました……。
奥武島のシンボルともいえる奥武橋。橋のたもとは浅いビーチになっており、海水浴を楽しむ子供たちを見ることができました。
対岸となる沖縄本島側から見た奥武橋。奥武島ハーリー(奥武島海神祭)では、この高さ5メートルにもなる橋の上から海へと飛び込み、そのまま舟に乗り込んでレースを行う「流れ船」が有名なのだとか。
ハーリー自体は海色マーチにも学年対抗戦として出てきますね。後輩ちゃん(ひなたちゃん)と周ちゃんの初対面となるお話です。
奥武橋も作中でそれとなくでてきます。
(海色マーチ第1巻,芳文社,ミナミト,2019,p.22より)
ビーチからすぐのところには、島の北東部を占める漁港があります。設備や停泊している船が雰囲気たっぷり。
この囲われた区画では、トビイカの天日干しをしていました。こちらも奥武島名物のようですね。支柱から渡された有刺鉄線を利用してイカを吊るすのだとか。こちらは「トビーチャ(飛びイカ)を干す風景」として日本の離島でみられる光景を集めた「島の宝100景」にも選出されています。
漁港の目の前にある奥武島いまいゆ市場では、刺し身を買ったり海鮮丼を食べれます。海の生き物を観察できるグラスボートの乗船券もこちらで購入できるようでした。
市場の前にあった石敢當(いしがんとう)。沖縄から鹿児島あたりにかけてはこの石敢當がよく見られます。これは直進しかできないマジムンと呼ばれる魔物を撃退するためのものだそう。
島内の路地にも、T字路や突き当りには必ずといっていいほど石敢當が配置されています。見慣れていない本土の人間からするとやたら目に付きます。
沖縄では、多量の降水量と台風の強風に耐えるために鉄筋コンクリートで作られた平たい屋根をしている家々を見ることができます。また、増築で2階・3階を作る家が多いらしく、階段が外側にある家も見られます。
細い路地も多いです。Google Mapをよく見ずに適当に歩いたので、行き止まりになることもしばしばありました。
島の中心には奥武島観音堂があります。かつて漂着した唐の船員を島民が手厚く介抱したことで送られた観音像があるとのこと。
石段の先には沖縄らしい装飾のお堂がありました。
お堂の脇にある階段を登りきったところ。おそらく島でいちばん標高が高いあたりです。
漁港へ向けて下る坂。登場人物たちもこの坂を歩いたのでしょうか。
この道を反対側に行くと、浅瀬の広がる島の南側に通じます。
島の南側には作中でよく出てくるマンションがありました。おそらく島内で一番背の高い建物です。このマンションを基準にすれば、作中で二人(三人)のやり取りがどのあたりで行われたものなのか推測できそうです。
なお、このあたりはサンゴ由来のトゲトゲした岩だらけで非常に歩きづらいので、底がきちんとした靴で来るほうがいいと思います。
長々と紹介してきましたが、ようやく海色マーチらしい海の写真へ。遠くに浮かぶのは市場で乗船券を売っていたグラスボートです。ここで海を撮ると遠景に山が入らないため、コミックス第一巻の表紙もこのあたりを参考にしたものと思われます。
島の南~西側にかけては浅瀬が広がっており、潮だまりも見ることができました。訪れたタイミングがちょうど引き潮だったのかもしれません。
珊瑚ちゃん「へー、日中の潮だまりって熱いんだー」
周ちゃん「知ってたでしょ!」
というやりとりを思い出します。潮だまりには気をつけましょう。
(海色マーチ第1巻,芳文社,ミナミト,2019,p.83より)
島の南西部には、かつて桟橋のようなものがあった形跡が。
屋根のない廃墟も見ることができました。元は何の施設だったのでしょうか。
廃墟の中から見る水平線。内部の壁面には現代アートのような絵もありました。
浅瀬側から奥武島の中心方向を見たところ。浅瀬の近くまで車が入れるようにスロープがあり、駐車場になっていました。島の本島側には駐車場がほとんど無いので、車で訪れる際はこのあたりに駐車して散策するのが良さそうです。
西側にある、島の一周道路から浅瀬へと降りる階段。ここは作中にも似た場所がでていましたね。
(海色マーチ第1巻,芳文社,ミナミト,2019,p.82より)
島ではシュノーケルをして磯遊びしている人をよく見かけましたが、中には釣りをしている姿も。島を訪れる方は思い思いに過ごしているようでした。
2時間近く島をくまなく歩いて感じたのは、沖縄の魅力がぎゅっと詰まったいい場所が舞台になったんだな、ということでした。あまり本数のないバスで訪れるのは大変でしたが、訪れてよかったと思います。
近くには透明度の高さを誇る新原(みーばる)ビーチや百名ビーチ、長い鍾乳洞がある沖縄わーるどもあるので、沖縄観光と組み合わせて行くのもいいかもしれません。
さて、紹介してきました奥武島をモデルにした宇御島が舞台の海色マーチ、最終巻となる2巻は8月27日発売です。他の日常系作品では味わえないバイオレンスなやり取りがクセになる、もっと続いてほしかった作品でした。
(以下、2022/05/22追記)
テラバイト☆ゆういちさんによる素晴らしいMAD動画作品がニコニコ動画にて公開されていたので貼っておきます。一部コマは着色されて、アニメのように動きがついており、実写で魚も登場するなど、海色マーチの魅力があふれる素晴らしい静止画MAD動画に仕上がっています。す…すごい…!
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