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なんちゃらは心の養生。⑤


手術の前、手術室に向かう。

今回は車椅子だったけど、
前回はストレッチャー、
その前は車椅子…
歩いて行った時もあった。

都度、家族に見送られて
「これで最期になっちゃったりして…」
と内心思いながらも無事にここまで来られたんだけど、今回はなんだか様子が違う。
付き添い見送りは看護師さんだけだった。

コロナ禍の影響で家族といえど立会いや付添いに制限があり、死に目にすら亡骸にすら会えなかった…というのはニュースでもよく見聞いてた。
そんなことをぼんやり思い出し。

手術室に入る前にメガネは外す。
どうせ見えないんだからと道中、目を瞑り車椅子を押され移動するのも初めてではないけど、家族に見送られつつも振り返れず…よく見えなくてヨカッタなぁ、とか涙でボヤけてんのんか?なんて…
手術室に向かった今までの事を急に思い出し喉の奥が詰まる。

目を瞑ったままニジニジニジっ…と車いすのタイヤが院内の床をこする音を聞いていると、妙に研ぎ澄まされた感覚で「自分ひとり」を実感する。

エレベーターに乗り何階かに着く。

扉が開くとまた違う景色、手術室の手前の手前…?
扉の扉、また扉だったりだけど、なんせメガネが無いので良く見えてはいない。

「麻酔しますのでこちらに」と運ばれた先で車椅子から降り、何やらフカフカでやたら身体の沈むマットの上で「横向きで」と言われ、腰を掛け倒れながら寝転ぶ。

手術の際には袖肩口、前後身頃とマジックテープで着剝がせバラバラになる手術着に着替えるのだけど、麻酔をする頃にはあらゆる隙間へ手が伸びてきて心拍数モニターへ繋げる電極パッドが手際よく体に貼り付けられる。

「麻酔科の○○です、お名前確認します」

割と顔の形近くで挨拶をされながら準備も進められているのだけど、これまたよく見えてないし、なんでか耳も聞こえない感覚になる。

ちゃんと自分の名前は告げているはずなんだけど、その自分の声すら耳には入ってこずアワワフワフワとしている。
手術直前って毎度、こんな感じで落ち着かず。

横向きで寝ているところ、更に身体を丸めるように言われる。
硬膜外麻酔とやらを先に打つとのことで

「はい、チクっとしますよ」
「麻酔の麻酔ですよ」
「痛いねーはい、もう一回チクっと今度はそんなに痛くないですよ」

お医者さんは淡々とお仕事をしている。

そして、
『こんなやり取り、一体どこまで覚えてるのかな…』
と思ってる間に口元には透明の酸素マスクを着けられて、起きたら手術は終わってます。

大体いつもそう。


所々、目が覚めかけるような記憶もあるんだけど、大筋は『寝て起きたら終わってる』

巡り合わせてまためぐる。
今回もきっとそうかな…

そうして目が覚めて
「あー、また生きてたんだ。」
と…今回もまた、同じ事を思った。




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