【連載小説】人工幼なじみ Ver.3.0
文=江畑終太郎(N高6期生・ネットコース)
『僕』は高校生。
『君』は人工幼なじみ。
↓前回のおはなし
【連載小説】人工幼なじみ Ver.2.0
17回目のクリスマス・イヴ、僕は高校生。
街はむせ返るほど甘々しいイルミネーションに支配されていて、七面鳥の列は絢爛なパレードを描いている。そんなカオスティックな目抜き通りを、天使たちは悠々と舞っていく。
僕の隣を歩くのは、君。小学3年生からずっと一緒にいる、君。もう随分と損傷してしまって、歩くのも難しそうにしているけれど、今日だけはどうしても出かけたかったらしい。
金属製の足を重そうに引きずり、モーターを必死に回転させながら、君は言う。
「トッテモ キレイ……ダネ」
「君の方が綺麗だよ......なんてね」
「ドウイウ イミ デスカ?」
「あはは、大切ってことだよ」
すると騒がしい世間をたしなめるように、しんしんと雪が降ってきた。
「そろそろ帰ろうか、雪が溶けて水没しちゃうよ」
「アノ クリスマスツリー ガ ミタイデス」
君が見たいと言ったのは、この街のシンボルである大樹で作られたクリスマスツリーのこと。雪は少しずつ強くなっているが、滅多にない君の要望だ。僕には断ることはできなかった。
冷え切った君のボディを支えながら、ゆっくりと、ゆっくりと、進んでいく。出会ったときと比べて、君が軽くなったような気がするのは、僕が成長している証だと思う。
雪はふたりを包み込んでは溶ける。包み込んで、溶ける。包み込んで、溶けた——
その刹那、君の電源が切れた。呼びかけても返事が、ない。
いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。
僕は君を背負って走った。あの電気屋ならきっと直してくれるはずだ。君が売られていた場所。君がいじめられていたときに、修理してもらった場所。きっと、直せる。
無我夢中で恋人たちの間を駆け抜ける。カラフルな電飾はすべて憎しみの色へと塗り替えられた。うっすらと積もった雪を踏みしめるたびに、君との思い出が走馬灯のように蘇る。
変わった僕と、変わらない君との、少し変わった関係を、変えないために。
そして、ようやっと辿り着いた電気屋には見慣れないアンドロイドがいた。それも最新型のようで店番を任されているようだ。僕はそんなことには目もくれず、叫ぶ。
「彼女を、彼女を直してやってくれ!」
「少女型友人用アンドロイド OS7-J3はサービスを終了しているため、対応できかねます」
人間のように滑らかな口調で、機械のように冷たいことをアンドロイドは言った。
× × ×
僕と君は帰路に着く。途中で彼岸花を愛でた。蜃気楼も探しまわった。公園の時計は相変わらずひとりぼっちだ。この通学路には、いつでも人工幼なじみの君がいる。
「クリスマスツリー見せれなくて、ごめんね」
家の前でつぶやいて空を仰いだ。その時、僕は聖夜の奇跡を見た。
小学生の頃、木になると思って庭に植えた198円のシイタケが、星空に届きそうなほど立派な大樹に変わっていたのだ。
その煌びやかさはまるで、君の見たがっていた、あのクリスマスツリーのようだった。
「君へのクリスマスプレゼントかな」
そう言って僕は、壊れた君を抱きしめた。
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