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抜擢人事、上司はくさるが、やるほうは面白かった

私のソニー子会社時代に驚くような人事がありました。ある日突然、上司(課長)が他の部門へ異動するというのです。当然、後任の課長がくるものと思っていた私は、社長へ、後任者はいつくるのですか、と尋ねてみました。
後任者はこない。お前がやれ。。。
えぇ、と絶句。

私は中途採用で入社して年齢はいってますが、ただの平社員。
どうなってるのこの会社、と思いました。
まぁ、冗談だろうと思っていましたが、現実になりました。
後任は来ない、この組織(総務部)は、部長がいない(いないのではなく、社長が兼務、この人、東京通信工業時代から勤労などの人事労務畑を歩いてきたのでした)のだから、私がやるしかないのか、と。

別に課長に昇格するわけではありませんでしたが、私が考えて動くしかない状態に追い込まれました。
ソニーとは変な会社なのです。また、この社長も変なのです。
追い込まれたらやるのが私でしょうか。
とにかく変えることができることは、なんでもやりました。だって自由にやれ、でしたから。。。
私の時代がきた、と遠慮なくやらせていただきました。
もっとも、元上司はくさっていましたが。。。

当然、元上司は、平社員の私がこれまで自分がやっていた仕事やチームを引っ張っているのですから面白いはずがありません。
もちろん実力差は明確なのですが、この社長、実行タイプなのです。すぐに考えて実行しろ、みたいな人で、そこが上司と少し違っていたところでしょうか。上司は頭はよいのですが、すぐに行動しないので、現場は爆発寸前の状態、かなり不満がたまっていたようです。

社長からすれば、動きがいい若いやつにやらせてみろ、といったところだったのでしょう。ダメで元々、まんまと罠にかかりました。罠にかかったというよりは、私自身がすぐに考えて実行するタイプですから、社長の考えとあっていたということでしょう。しかも、ずけずけ物を言うタイプですから、社長からすれば面白かったのかもわかりません。

このような環境は、抜擢した人物(社長)がいなくなれば、冷や飯を食わされます。その程度のことは私でも理解できますし、また、このような独特な(独善的な)社長がいなくなれば仕事が面白くなるわけがありません。
4年ほどでこの社長は定年退職されましたから、早々に退職しようと思って、ある転職エージェントを訪問しました。担当者が言うには、その年齢(40歳)で経理をやらせてもらえるのなら、転職は、経理を勉強した後のほうがよいとアドバイスされました。
普段はあまりひとのいうことを聞かないのですが、この方の言葉はなにか感じたようで、3年弱経理をやらせてもらいました。これがその後、本当に役に立ちました。

抜擢人事は、抜擢された人間を支えてくれる存在があって成り立ちます。自分の実力以上のことができるのは、やはりバックにいる独善的な(独創的な)社長のおかげでした。
ねたむ人、足を引っ張る人、調子よく近寄ってくる人、本当にいっしょにやってくれる人、とさまざまな人間模様が渦巻いています。
私は短期決戦型ですから、やるだけやればすぐにとんずらします。この社長が定年退職されているのですから、いちいちこのような面倒くさい人間関係に巻き込まれたくないからです。
本心は、企業で出世していく実力がないだけですが。。。

異動後、上司はくさっていましたが、私が退職することでなにか吹っ切れたのでしょう。いっしょに仕事をしていた専務に認められ企画部門の部長へ昇格しました。企画能力が高く、企画畑はあっていた思います。
上司は、能力がある人なので、それでよかったのです。
私は、挑戦した仕事が本当に面白かったから悔いはありません。
さらば、ソニーなのです。。。

抜擢人事は、言葉の響きはよいのですが、日本社会では、もっともなじめない人事制度でしょう。ソニーですら、右往左往しながらやってきたのでしょう。
今の日本企業に必要な人事制度なのですが、いかにサポートできるかという仕組みをもっておかないと機能しません。そもそも抜擢人事は属人的ですから、受けた人間も覚悟が必要です。また、仕組化された大手企業では、言うほどうまく機能するものではないでしょう。

抜擢人事は、本来、中小企業がやるべきなのです。
経営者の一言であらゆるものが決まるからです。
ですが、中小企業の経営者は、人を育てることができません。結果は、実績のみ。あいつはできない、の一言で終わります。
やってもすぐに経営者自身がもっている弊害がでてきます。
中小企業に活力がないのは、こんなところにもあるのではないでしょうか。

それにしてもこの独善的(人のまねはしない)な社長の下で仕事した4年間は、本当に自由でゆかいで楽しく、仕事をこんなに楽しんでいいのか、という感じだったでしょう。
この時代があるからこそ、今の私があるようです。
元社長、現在90歳。まだ、お付き合いが続いています。
一期一会の不思議でしょうか。
そして、私の楽しい人生は、まだ続きそうです。

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