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辻村深月という作家

 前回から間が空きすぎて自分の中の三日坊主が健在なことにうんざりしている今日この頃。

 今回はついに大学に入って初めて自分のお金で買った本の作家であり、そこから4年間愛してやまない辻村深月という作家との出会い、そしてその魅力について書いてみたい。

辻村深月との出会い

 最初に買ったのは「凍りのくじら」という一冊。他の作品にも言えるけど、辻村深月の本はとてもカテゴライズが難しくて、「凍りのくじら」にしても、ミステリーともSFとも言えるし、と思えば「いや実は恋愛小説なのでは?」とも言えるような。まあそんなところがまず好きなのかもしれない。ともあれ、この作品での文体も着眼点も好きだった。し、何より帯に「辻村作品はこの順番で読め!」的な感じで一連の作品が紹介されていて、当時、暇を持て余していた僕の格好の餌食に。

 とまあこんな感じで、辻村深月との出会いは特にドラマチックではなく、なんなら暇つぶしくらいのノリだったんですが、そこからぐんぐん辻村ワールドに引き込まれていくことになった。ちなみに講談社おすすめの読書順はこんな感じ。(僕もこの通りに読んだ。)

 「凍りのくじら」以降も良作が続くが、僕にとって会心の一撃となったのは「僕のメジャースプーン」「名前探しの放課後(上)(下)」。この2コンボ(コンボというのにも意味がある)で、完全に辻村深月という沼にハマってしまった。もう抜けられない。
 その後も、著書を読み漁り続け現在までにおそらく8割〜9割は読了していると思われる。その中であえてTOP3を選ぶなら、こんな感じ。ここは意外にブレない。特に1位は映画化するなら脚本はぼくに書かせてくださいと思っているくらい好き。

1位 「名前探しの放課後」
2位 「島はぼくらと」
3位 「凍りのくじら」

※「全部じゃねえのかよ!」と突っ込まれそうなので言い訳しておくと、僕は好きな本は何階でも読み返せるタイプなので買った本は少なくとも2回は読んでしまうし、「僕メジャ」や「名前探し」に至っては4、5回読んでいる。(もうすぐ全冊揃うはず!)

どこが好きなんだ?

 みなさんは、英語のペアワークなんかで「自分の好きな食べ物について話してみよう!」みたいなのやったことないですか?
 そんなトピックを見るたびにぼくが感じるのが「好きな理由…?好きだからじゃないの?」嫌いな理由ははっきりしてるけど、好きな理由って案外考えたことなくない?
 だけど、人に魅力を伝えたいなら理由がはっきりしてないと伝わらない。そして僕は辻村深月の魅力を伝え、彼女の本を一冊でも多く買って欲しい。(謎の使命感)
 ということで、自分なりに理由を改めて考えてみた。すると、この人の(僕にとっての)魅力は次の二点に集約されるような気がしてきた。

① 「つながり」の光と影
 辻村深月は人と人のつながりを描くのが本当にうまい。社会というのは「つながりの束」のようなものなので、誰しも多かれ、少なかれ人とつながっている。そしてその「つながり」の中で、言葉にできないモヤモヤを抱え、「言いたいけどうまく言葉にできないい」「こんなことを思ってしまう自分が嫌だ」と感じることが少なからずあると思う。辻村深月はそこに容赦なく切り込み、そして魔法のように言葉にしてしまう。「モヤモヤ」の正体が言葉として明らかになると、「つながり」を一歩引いた視点から捉えることができる。すると、それら無数のつながりを保ち、改善し、また時には壊すことが簡単になってくる。
 「つながり」の中でも、それがとても密接かつ不安定なのが、家族・学校・田舎の三つの環境だと僕は思うが、辻村作品もこの三つのいずれか、もしくは複数が絡み合って舞台となるものが多いように思う。例えば、上にあげた「名前探しの放課後」や「島はぼくらと」はどちらも田舎と学校が舞台。最近では、「傲慢と善良」「クローバーナイト」は家族のあり方が一つのテーマだ。
 密接で切り離せないからこそ、光も影も存在するこの三つの「つながり」を光だけでも、光からでもなく、逆に影の部分から小さく、だけど強い光を描き出す。「家族シアター」の解説者である武田砂鉄の言葉を借りれば「それぞれに物語が、小さく灯る」。そんな「つながり」の丁寧な描き方が、僕は大好きだ。

② 共鳴するそれぞれのフィクション
 そして、これは有名な話だが辻村作品はある作品に、別の作品の登場人物が登場することがよくある。それもモブではなく、作品のキーマンになったり、主人公を救い出す役割を与えられていたりすることが割と多い。(そういう意味で先ほど紹介した読む順番には大きな意味がある。)例えば、「島はぼくらと」でコミュニティデザイナーとして活躍する「ヨシノ」は最近の著書「青空と逃げる」にも登場し、主人公たちを支えてくれる。
 フィクションがフィクションのままで終わるのはなんだか悲しい。例えば、映画やドラマで最終回の最後の10分で登場人物たちの「◯年後」が描かれると、自分が好きになって、どうしようもなく感情移入した人たちが「自分と同じ世界で生きてる!!」と感じることができてワクワクするし、その逆にそれがないとなんだか「現実にグッと引き戻される」ような虚しい気持ちになる。
 それとおなじで、ある作品の人物が他の作品の人物と支え合っているところを見ると、自分の中でフィクションとフィクションがつながり、もっと大きな一つの世界になる。そしてその世界がどんどん広がっていくような感覚にわくわくしてしまう。それぞれの作品がリンクし共鳴することで、辻村深月の作品は単なるフィクションを超え、現実世界にまで踏み込んでくる。これが魅力の二つ目。

 もちろんこの他にも、鮮やかな伏線回収、ゴール直前の大どんでん返しなどミステリーとしての魅力も多くある。決してライトに読めるような本ではないが、読む速度が尻上がりに上がっていき、一度読み終えたら必ずもう一度読み直したくなる、むしろ「読み終えるのもったいなくない?」とすら思えてくる。そんな珠玉の名作の数々なので、あなたもぜひ辻村ワールドに触れてみてはいかがでしょうか。読む順番にはお気をつけて。

(…長いな)

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